FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

株式の単純リターン、トータルリターン、インフレ調整リターンの違い

よく「超長期の株式リターンは6%くらい」なんて言われます。でもこの6%っていったい何が6%なのでしょうか。今回は、単純リターンとトータルリターン、インフレ調整リターンについて考えてみます。

5%超の株式リターンが出るのはある意味当然

こんなことを思ったのは、現在米ドルの定期預金金利が5%まで上がっていること。要するに、米国では高いインフレが続いていて、それを抑えるために政策金利(FFレート)も高止まりしており、それに伴って短期国債の利回りも高く、預金金利も高まっています。

 

インフレ率(ここではコアCPI)はピークを超えて3%台まで下がっていますが、政策金利(FFレート)は5.12%と高く、2年債利回りも4.88%と高くなっています。

これが意味していることは、ドルを持っているだけで5%近い金利がもらえるということです。例えば米ドルMMFでも4.834%の年換算利回りがあるのです。

 

この状況下で株式に投資するメリットは何でしょうか。米国債はノーリスクの投資先とされているため、わざわざリスクをとって株式に投資するのは、債券のリターンを超えるリターンを想定するからにほかなりません。

株式リターン = 無リスク金利 + 株式リスクプレミアム

この式は度々出てきますが、株式リスクプレミアムは通常プラスであり、株式リターンは理論的には常に無リスク金利=債券利回りを上回るわけです。もちろん、これは株式投資家が期待するリターンであって、必ずそのリターンが実現するわけではないのですが、実際はどうでしょうか?

指数リターンとトータルリターンの違い

まずは単純リターンとトータルリターンの違いを見ます。単純リターンとは、株価自体のリターンです。対してトータルリターンとは、配当や分配金が出たらそれを再投資した場合のリターンを指します。

 

S&P500指数の変化ともいえます。下記はS&P500指数「SPX」とS&P500連動ETF「IVV」の配当再投資時のリターンの推移です。

2000年5月から2023年8月までで、S&P500指数が+214%となっているのに対し、トータルリターンを意味するIVVの配当調整後リターンは+380.9%に達しています。支払われた配当と、それに対する複利効果は+165%ポイントの効果があったということです。

 

単純リターンとトータルリターンの違いがわかったので、次はインフレ調整を行います。つまりリターンからインフレ率を差し引く(控除する)ということです。9%のトータルリターンがあっても、インフレ率が5%あれば、実質の購買力としては4%しかリターンがないと考えられるからです。

 

下記は1900−2023年の123年間の米国のインフレ率です。年平均で2.97%となっていて、累積の物価上昇率は3,539.18%。123年間でモノの値段は35倍になったということです。

単純リターン、トータルリターン、インフレ調整リターン

では1900年から2023年までの超長期データ(ロバート・シラーの著書『Irrational Exuberance: Revised and Expanded Third Edition』とそれに付随するデータセット、および米国労働統計局の月次CPIログ)から、それぞれのリターンを紹介します。参照するサイトは下記です。

www.officialdata.org

  • 単純リターン: +72,942%(年率 5.51%)
  • トータルリターン: +10,479%(年率 9.81%)
  • インフレ調整後: +287,864%(年率 6.66%)

単純リターンが5.51%なのに対し、配当を入れ込むと4.4%ポイントアップして9.81%までトータルリターンは上昇します。スタンダード&プアーズ社によれば、過去80年間の同指数の総リターンの44%を配当が占めているとしており、配当を忘れたリターン計算は、実際のリターンを半減させてしまうことが分かります。

 

さらに平均約3%のインフレを調整すると、リターンはその分減少します。トータルリターンをインフレ調整すると、最終的な株式のリターンは年率6.66%というわけです。

 

2010年までですがチャートでも確認しておきます。ソースは下記のサイトです。

www.simplestockinvesting.com

青線は指数の推移、つまり単純リターンです。オレンジ色は配当を再投資したトータルリターンです。縦軸は対数なので注意。このようにトータルリターンは単純な指数のリターンを大きく上回ります。

続いて、単純リターンとトータルリターンのそれぞれに対して、インフレ調整を施したのが下記です。1965年から1983年については高いインフレのせいで、ほとんどリターンを生み出せなかったことが分かります。ただ逆にいえば、株式はインフレをカバーして資産の価値を保ち続けることができたともいえます。

10年ごとの各年代について、単純リターン(価格変更)、トータルリターン(合計リターン)、インフレ調整後リターン(リアル)を集計したのが下記です。

3つのリターンから何に注意するか

このように株式リターンと一口でいっても3種類あり、値も大きく違うことが分かりました。ではこれを何に活かしたらいいでしょうか。

 

一つ目は、超長期の株式期待リターンについて、単純リターンで話しているのかトータルリターンなのかを意識することです。アクティブファンドは指数をベンチマークにしているものが多いのですが、比較対象としての指数が単純リターンなのかトータルリターンなのかを明示していない場合もあります。これは大きな違いです。

 

インデックス投信は配当を自動的に再投資しており、つまりトータルリターンとなっています。そのため将来の資産額を考えるときは、指数のリターン=単純リターンではなくトータルリターンで考えるべきです。

 

投資家の場合、トータルリターンと比較するのが基本になるでしょう。TradingViewなどは「配当調整」という項目があり、これを押すとトータルリターンを出すことができます。

 

2つ目はインフレ調整後リターンです。米国のデータを見るとわかるように、インフレがあっても調整後で6.66%と株式は十分なリターンを出してることが分かります。ただしチャートで見るとわかるように、常に株式がインフレ率を上回って推移するとは限りません。1965年から1983年の約20年間は、トータルリターンであってもインフレに対抗するのがせいぜいでした。30年以上の超長期でしか、株式の強さは実感できない可能性が高いのです。

 

3つ目は日本人が米国株に投資することの複雑さです。米国人の場合は、米国での購買力が重要なため米インフレ率で調整します。でも日本人の場合は日本のインフレ率のほうが重要。さらにドルで投資して円で消費するので、ドル円レートも大きく影響してくるのです。

 

この50年、オイルショックの瞬間を除くと日本は米国に比べてずっとインフレ率が低いままでした。特に2000年以降は0%を割り込むデフレも続きました。つまり、日本で暮らし米国に投資する投資家は、2%ほどアドバンテージがあったということです。

通常、こうした二国間のインフレ率の差は為替レートで補正されます。いわゆる、購買力平価に沿って為替が変化するという話です。ところが為替もこの30年ほどは逆方向に動きました。購買力平価からいえば円高になるはずが、実際は円安に進んだのです。これも日本の米国株投資家にとっては有利に働きました。

 

このように米国株投資を行う場合、実はいろいろな要素を考慮に入れないといけないのが実情です。単に「歴史的に6%のリターンが期待できる」というようなときも、それが指数のリターン(単純リターン)なのか、トータルリターンなのか、はたまたインフレ調整後なのか、それによって大きく値は変わるからです。

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