ディスクロージャーという言葉が使われるにようになってどのくらい経つでしょう。企業の経営でも、各種投資商品でも、情報公開=ディスクロージャー、つまりはできるだけ透明性を高めようという機運があります。
機運といっても、それは世間や規制当局側の話で、売っている本人はあまり透明にはしたくないという思いもあるようです。特に保険業界は、そういう立場じゃないかと感じています。
情報公開による利用者判断か、コンサルティングの名を借りた営業か
かんぽ生命の押し売りとでもいうような保険販売が問題になりました。日本らしいというか、どうやらなぁなぁでお咎めなしのまま再開するようですが、ここに保険の透明性をめぐる問題が現れています。
販売ノルマなどがやり玉に上がっていますが、本質は郵便局員などが営業活動として保険を売っているところにあります。「保険は難しいので自分では判断できない」と考える人に、「あなたに合った保険を選びます」というコンサルティングの名を借りて営業しているのが保険業界の実態です。そこにノルマが重なると、あなたに合ったではなく、自分が売りたい商品を押し付けるということになります。
夢のような世界を語るなら、自分のリスクを見極めて必要な保障レベルを計算し、それに見合う保険商品の中から最適なものを選んで購入するのが理想です。そのためには、(1)自分に必要な保障を知る(2)保険商品を比較選択できるだけの情報が公開されている(3)こうしたことができるだけの金融教育を受ける といったことが必要になります。
自分に必要な保障はわかるのか
保険というのは本来、滅多に起きないが起きてしまうと引き受けることが難しいリスクを、多くの人でコストを分担することでカバーするための仕組みです。そのため、どのくらいの保障が必要かは、理知的に計算が可能なはずです。
自動車保険であれば、人を轢いてしまったり、他人の車にぶつけたときに、どのくらいの費用がかかるのかは分かります。それをカバーできる保険に入ればいいわけです。火災保険なども同様です。こうした損害保険は、比較的に理知的に計算ができ、入る人も分かっているでしょう。
問題の1つは、医療保険など第3分野の保険です。これらには、「誰でも入れる」「一生涯保障」など、手厚い保障をウリにしているものがあります。一見お得に見えますが、保険とは滅多にない出来事のリスクを大人数で分担するものだということを思い出しましょう。誰でも入れて一生涯保障だと、多くの被保険者が保険金を受け取る対象になり得ます。がん保険にしても、かなりの比率の日本人ががんにかかる時代です。多くの人に起こり得るリスクは、本来保険でカバーするのは難しいはずなのです。
では、これが商品として成り立っているのはなぜか。掛け金に対して、受け取れる額が小さいということになります。そうでなければ、保険会社が赤字になってしまうのですから。
そもそもは、こうした多くの人に起こり得るのに保険商品が売れているものは、そもそも保険に入る必要がないリスクです。本当にガンを恐れるなら、保険に入らずとも貯金しておくことで医療費を賄えるはずです。
2つめの問題は、貯蓄性のある保険です。掛け捨てだともったいないので、お金が戻ってくる保険を選びましょう。これは、保険の営業の定番セールストークですね。でも、保障機能と貯蓄運用機能は切り離して考えることが可能です。貯蓄性保険に入って高い保険料を支払うより、掛け捨て保険に入って、差額分を自分で貯金するほうが、基本的には合理的です。
貯蓄性があっても、それが保険とみなされることで、保険に認められている税控除という優遇策の対象になることが問題の一つ。貯蓄性があっても、一部損金に算入できることで、利益の繰り延べが可能になるという税務会計上の問題が2つ目にあります。
ただし最大の課題は、貯蓄性部分の内容が不透明で、利用者には他の貯蓄性商品と比較検討するための情報が全く提供されないことにあります。
比較選択できるだけの情報
銀行預金なら、1年預けたときの金利という形で、誰でも分かる形で表示されます。これはどの銀行でも、その数字だけ見て基本的な比較が可能です。株式投資であっても、株価の変化と配当という数字で、複数の会社を比較して選択できます。
ところが、貯蓄性保険では内部的に設定される「予定利率」という数字があるくらいです。これは、どのくらいの準備金が必要になるかを計算するときに使う内部的な利率です。何に対する何の利回りなのかは明らかになっていません。そして保険会社によって定義が異なっています。
これでは、投資信託や貯金などのほかの貯蓄性商品と比較することは難しいですね。本来なら、投資資金に対して年利何パーセントで増えることを保証するのか、保証しないなら想定は何パーセントなのかを明示して、他の商品と比較できるようにするべきです。金融庁も折りに触れて言っていますが、このあたりの情報開示が進んでいません。
最近、外貨建変額保険などを勧める営業が増えましたが、これはまさにドル建て投資信託そのものですね。ならば、掛け捨て保険とドル建て投資信託を組み合わせた場合と、どちらのほうが有利なのか比較できるようになっているべきです。このあたりの説明がなく、けっこうなリスク(ボラティリティ)のある商品を、保険の名のもとに販売しているわけです。
変額保険を勧めてきた営業に、投資商品としての評価を聞いてみましたが、そもそも投資信託で当たり前の用語自体が通じません。書かれていないことを聞いても、最後は「これは保険ですから」とはぐらかされます。
情報開示されても金融リテラシーがなければ無意味
ではしっかりとした情報開示が行われれば問題は解決するのでしょうか? いえ、多くの人にとっては相変わらず投資や保険は「難しくて分からないもの」であり続けるでしょう。そして、コンサルティングの名を借りた営業が続くはずです。
そうではなく、自身で判断できるだけの知識を身に着けてもらおうというのが、金融教育です。でも、これはある種の理想郷で、実際はなかなかそうはならないんでしょうね。
だから、情報公開と同時に、「複雑な商品は販売禁止」というような規制が生まれてしまったりするわけです。販売が難しいとなれば、複雑な商品も作成されません。先物もオプションも、使い方によってはかなり便利なツールなのですが、複雑で売りにくい、売れないから作らないという悪循環になってしまいます。
本当は、できるだけ多くの人に金融リテラシーを高めてもらい、理解した上で複雑な商品を購入できるようになってもらい、だからこそ変わった商品が開発される。そんな世の中になるといいなと思います。
優待クロス向けに信用取引を使うなんて、その最たるものではないでしょうか。一昔前だと、信用取引というのはレバレッジのために使うもので、少ない資金で一発当てる! みたいな使い方が普通だと思われていました。だから、信用取引=危険というイメージだったのです。
でも、クロス取引することで値動きリスクをヘッジする目的で信用取引が使われるようになったのは、本質的な進化だと思います。買い=ロングだけでなく、売り=ショートができることは、ヘッジの基本だからです。
信用取引以外にも、先物やオプション、CFDなどが、単なるレバレッジ目的以外でもっと利用されるようになるといいと思っています。