前回まで、FIREに向けて必要な資産額はどのくらいで、どんな方針で運用すればいいのかを確認してきました。6%運用を長期的に実現するには、株式インデックスに投資すればいい、ということも過去のエビデンスからまとめました。
今回は、その効率性、確実性を少しでも増すための方法について、解説します。
- リターンを減らさずリスクだけを減らす唯一の方法
- ただし各プレイが独立している必要がある
- 完全に逆相関ならリスクをゼロにできる
- 個別株のリスクだって低減できる
- 国ごとのリスクも分散して排除する
- 市場平均連動のファンド/ETFの選び方
- 次のステップ、株式以外をどうする?
リターンを減らさずリスクだけを減らす唯一の方法
投資の重要な考え方として「リスクとリターンは比例する」と書きました。ただし「基本的には」と注記を入れています。これはなぜか。実は、リターンを減らさずにリスクだけを減らす方法があるからです。
これはノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウィッツの現代ポートフォリオ理論がいう、分散効果です。これは、書籍『あれか、これか』にわかりやすく解説されています。
ちょうど、その中からポイントを抜粋した記事がダイヤモンド・オンラインに載っています。
株式投資ではなく、50%の確率で赤か黒が出るルーレットを考えます。このルーレット、プレイ料金は1回40万円で、当たると賞金は100万円です。
期待リターンは+25%ですが、リスク(標準偏差)を計算すると125%になります。ところが、これを分散します。プレイ料金は半額の20万円、賞金も半額の50万円にしてもらって、2回プレイするのです。
すると驚いたことに期待リターンは変わらないのにリスクは88.4%まで下がるのです。さらに半額にして4回プレイすると、リスクは62.5%まで下がります。
これが現代ポートフォリオ理論のキモであり、フリーランチのポイントです。
ただし各プレイが独立している必要がある
この分散によるリスクの低減効果は、分散回数の平方根に比例します。グラフにすると次のようになります。試行回数4回でリスクは半分の50%になり、10回目には31%まで低下します。しかしそこからは低下率はわずかになっていきます。
これが、資産の分散は大事だが、数を増やしすぎてもしかたないと言われる理由です。
そしてもう一つ重要なのが、これは各試行が独立している必要があるということです。独立とは、一つの結果がほかの結果に影響を与えないこと。例えば、先のルーレットで、最初に黒が出たら次も黒になる可能性が高いとしましょう。これが「独立していない」ということです。こうなると、分散効果は減ってしまいます。それはそうですね。何回ルーレットを回しても黒が出るのなら、複数回回しても同じだからです。
この独立していることを、数学的には「相関係数がゼロ」だといいます。
資産で考えると、ある資産が上昇したときに、同じように上昇する可能性が高いものは相関係数が高い、つまり独立性が低くなります。逆に、まったく関係なく上がったり下がったりする資産は、独立性が高いわけです。
完全に逆相関ならリスクをゼロにできる
独立性が高いのではなく、全く逆に動くならどうでしょうか? 1つ目の資産が上昇したら、同じだけ下落する資産との組み合わせです。これは数学的には「相関係数がマイナス1」だといいます。
この組み合わせは最高です。ある資産が上がったら、もう一方の資産が下がるので、資産価格のブレ=リスクは理論的にはゼロになります。それぞれの資産は当然期待リターンがプラスですから、リスクはゼロ、期待リターンはプラスという最高のフリーランチになります。
例えば、「株式を持つなら債券も組み入れよう」とよく言われます。これは歴史的に株式と債券の値動きが逆、つまり逆相関の場合が多いからです。さらにいえば、株式と金などもそうですね。
このように値動きが異なる様々な資産を組み入れることで、リターンはそのままに、リスクだけを下げることができます。これが現代ポートフォリオ理論が生み出した最大の成果です。
個別株のリスクだって低減できる
先程は、株と債券の例を出しましたが、株式だけならどうでしょうか? 知ってのとおり、株というのは独立した動きをするわけではなく、似たような動きをします。景気後退がささやかれればどれも値下がりしますし、熱狂の中ではどれも値上がりします。ならば、複数の株式を持つのは意味がないのでしょうか。
これは、株式の値動きを、市場全体の値動きと、個別の事情による値動きに分けて考えると答えが出ます。
個別の株式には、不祥事や製品開発の失敗による下落のリスクがありますね。逆に、大ヒット商品を生み出したり、マーケティングが当たったりといった上昇のリスク(ブレ)もあります。つまり、株式の値動きは、市場全体の値動き+個別要因による値動きで決まるわけです。
個別要因はそれぞれの会社によって違います。つまり、独立した要素というわけです。複数の株式を組み合わせることで、この独立部分のリスクを減らすことができるわけです。そういうわけで、複数の銘柄を持つ、あるいはそれらをまとめてパッケージにしてくれるファンドやETFを持つことが、重要になるわけです。
さらにいえば、株式全体の値動きとは別に、業界特有の値動き=リスクもあります。例えば、原油が増産されて価格が下がれば石油会社は軒並み業績悪化から株価が下がりますし、金利の変化も金融業界全体に影響を与えます。こうした値動きによるリスクも減らすには、同じ業界に所属する企業の株を保有してはいけません。
要するに、市場にあるすべての株を買ってしまえばいいのです。これが、個別企業のリスクや業界特有のリスクを分散効果で排除できる、最高の戦略ということになります。
市場にあるすべての株を買う。ちょっと考えると難しそうですが、それをパッケージにして販売してくれるファンドやETFがすでにあります。投資家は、そんな市場平均連動のファンド/ETFを買うのが合理的ということになります。
国ごとのリスクも分散して排除する
この分散の理論によれば、当然国別のリスクも排除する、つまり特定の国の市場平均ではなく、全世界の株式を購入するほうがいいということになります。
全世界の株式を、時価総額で見た場合、実は米国だけで過半を占めています。下記は、全世界株式の指数であるMSCI ACWIの組入株式時価総額の国別比率です。
国別で見ると、米国がダントツトップ。続いて日本が7.17%、そして英国と続きます。もう少し、地域別に見るとどうでしょうか。下記は、myINDEXによる世界各国(45過去国)の時価総額地域別シェアです。
米国にカナダを加えた北米が57%、ヨーロッパ先進国が19%、アジアパシフィックの先進国(日本も含む)が13%、そして新興国が10.8%となっています。
市場平均連動のファンド/ETFの選び方
さてファンド/ETFの選び方です。まず最も簡単なのが全世界株式の指数(MSCI ACWIやFTSE Global all cap index)に連動するものを買うことです。
バンガードのVT(ドル建てETF)や、VTに連動する楽天・全世界株式インデックス・ファンド(楽天VT)、またSBI・全世界株式インデックス・ファンドなどが、FTSE連動型です。ACWI連動ならば、eMAXIS Slim全世界株式やたわらノーロード 全世界株式などがあります。
そして毎年ファンド運営コストとして引かれる信託報酬をチェックします。バンガードは定期的に信託報酬(経費率)を引き下げており、VTならば現在0.09%です。これは100万円預けた場合に年間管理コストが900円ということになります。これだけの数の国に分散して投資するコストとしては、格安だといえるでしょう。
eMAXIS Slimシリーズも業界最低水準の運用コストを標榜しており、eMAXIS Slim全世界株式の信託報酬は0.104%まで下がっています。投資信託には、配当を自動再投資するため配当への課税が繰延られるというメリットがあり、またVTと違って円建てで投資できるので、始めやすいといメリットがあります。ただし、投資信託には「隠れコスト」というものがあります。これは、信託報酬以外の、売買委託手数料、有価証券取引税、保管や監査の費用というもので、eMAXIS Slim全世界株式では0.09692%ほどかかっているようです。
そして、国別や地域別のファンド/ETFも多数存在しています。これらを、上記の国や地域の比率に応じて購入して、実質的に全世界株式と同様のアセットアロケーションを実現するという手もあります。
僕の場合は、世界株式分散投資を初めたのが20年近く前のため、残念ながら当時はVTの取り扱いがなく、米国S&P500連動のIVV、北米除く先進国連動のEFA、新興国株式連動のEEMをそれぞれ購入しました。現在は、VTを買っています。
次のステップ、株式以外をどうする?
さてこれで株式についてリスクを分散して長期的なリターンを手にするアセットアロケーションができました。ただし、あれ? 債券はどうなった? と思うかもしれません。
そうです。次に考えるべきは、株式以外の資産をどのように組み合わせるべきかです。ただし、シーゲル教授の有名なグラフにもあるように、長期で見た場合は、最もパフォーマンスがいいのが株式です。リーマンショックの際も株式は50%もの下落に見舞われましたが、数年で回復し高値を更新しています。難しいことは考えなくても、20年スパンで見るならすべて株式というのは賢明な選択でしょう。
それでも、「あと数年で(セミ)リタイア」なんて人は、取り崩しのタイミングで株価が下がっていたら目も当てられません。いろいろな意味で、株式以外の資産を組み入れたポートフォリオを作る必要があるでしょう。
そこで次回は、CAPM理論の限界と、その上でどんな資産を組み入れるのが良いかを考えてみます。