安倍首相が辞任を発表し、メディアやSNSは第二次安倍政権やアベノミクスの総括で溢れています。日本株をほとんどもっていない僕ですが、いい機会なので、アベノミクスとは何だったのかを振り返ってみたいと思います。
株価は2.23倍に
第二次安倍政権が始まったのは、約8年前の2012年12月26日。同日の日経平均終値は10,230.36円でした。12月頭には1万円を割っており、日本の株価の低迷が印象的な時代でした。
そこからアベノミクスが始まり、2018年9月28日には2万4000円を超えます。このタイミングで、実に株価は2.3倍になっており、だいたい年率15%増加したことになります。その後、2020年3月にはコロナショックが襲い19日には16,552.83円まで下落しますが、ご存知のとおり急速に株価は回復し、辞任発表時の8月28日は22,882.65で終わりました。就任から辞任発表までで株価は2.23倍になりました。
この間行われた、アベノミクスと総称される取り組みは、「3本の矢」、またそれに伴う日銀の「異次元緩和」です。黒田バズーカなどと呼ばれ、日本初のマイナス金利を導入するなどの取り組みが毎回話題になりました。
これはアベノミクスの成果なのか?
この数字だけを見ると、たしかに日本の株価は大きく回復しました。ただし、これが本当にアベノミクスの成果といえるのかは、多くの識者が疑問符をつけています。ここで、同時期の米S&P500の推移と、世界株式の推移も併せて見てみましょう。
青線が日経平均、ピンクがS&P500、緑が世界株式です。このように、コロナショックまでは日経平均は実はS&P500をオーバーパフォームしてきました。現時点ではコロナからの戻りがS&P500よりも悪い感じですが、だいたい似通っています。
一方で、世界株式は傾向は似ている(それはそうです。半分は米国株ですから)ものの、リターンは大きくアンダーパフォームしています。
これを見ると、米国株は絶好調だった。米国株以外はそれほどでもなかった。ただし、日本株は米国株と近いパフォーマンスを出していた。そういえると思いますし、このことはアベノミクスの成果でしょう。
円安とセットだった株安
ただし国内の投資家の目から見ると、もう一つの要素があります。それは為替です。この間、初期に一気に円安が進み、それが日本企業のパフォーマンスを押し上げました。政権スタート時のドル円は、90円を切っていました。それが2015年には120円を超えるところまで円安が進み、16年に入ると円高傾向に。そして16年秋のトランプ大統領誕生で再び一気に円安に振れました。その後、105〜110円を前後してきたわけです。
輸出企業経営者観点や国内株投資家観点では、株価上昇には円安は必要条件であり、この円安誘導がうまくいったことが、アベノミクスの最大のポイントだったともいえるのでしょう。
ただし世界に目を向けた投資家観点ではまたちょっと変わってきます。円安傾向にあったということは、ドル資産が円建て計算で増加を続けたということでもあるからです。政権スタート時の1万ドルは90万円の価値しかありませんでしたが、現在それは105万円まで価値が増加しているのです。
つまり、この間資金をドルに変えて米国株に投資していれば、円安による収益増もあったということです。この間の円の下落幅は18.8%。つまりドル資産は円建てで23%も上昇したことになります。日本の米国株投資家は、株高だけでなく為替によるリターンも追加で上げたことになります。
識者はこう見る
さて株価以外の要素を盛り込んだアベノミクスの評価はどうなのでしょう。いくつか見ましたが、ぼくは野口悠紀雄先生の見立てが一番しっくり来ました。下記は連続ツイートです。
#アベノミクス とは何だったか(1) 2012年、#中国 のGDPは、日本の1.4倍だった。2019年、中国は日本の2.9倍になった。アベノミクスの期間、#日本経済が停滞 して中国が成長したから、こうなった。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったか(2) 成長したのは中国だけでない。2012年、#米国のGDP は日本の2.6倍だった。2019年、米国は日本の4.0倍だ。アベノミクスが何をもたらしたかについて、こうした数字ほど雄弁なものはない。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったか(3) 毎月勤労統計調査によれば、2012年の #実質賃金指数 は104.5。これが2019年には99.9となった。7年間で4.4%の下落。GDPは低率とはいえ成長したが、#実質賃金はマイナス成長。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(4) #人件費 を圧縮したので、#企業利益 が増加した。#利益剰余金 (よく内部留保といわれる)は2012年の250兆円が、18年には450兆円を超えた。しかし、使い途がないので、#現金・預金 の保有を増やした。残高は、150兆円が200兆円程度に増加。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
アベノミクスとは何だったのか(5) 企業利益の増加で #株価 が上昇し、年金積立金と #日銀のETF購入 がこれを支えた。ETFを購入している中央銀行は日銀だけ。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったか(6) #日銀 は、国債を年80兆円程度買い上げるとしていたが、購入額は2017年頃をピークに減少し、19年末には12-15兆円程度に縮小している。つまり、#異次元金融緩和の量的緩和は、すでにひっそりと終了している。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(7) #日銀のETF購入 について、#OECD の2029年4月の「対日経済審査報告書」は、「市場の規律を損ないつつある」と批判している。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(8)2012年の国際経営開発研究所( IMD )の #世界競争力ランキング で、日本は27位だった。2020年版では、日本は過去最低の34位となった。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(9) #円安 は #異次元金融緩和 のためと言われることが多い。しかし、円安はすでに2012年10月から始まっている。これは、ユーロ危機の収束で、リスクオフ(円に投資)の流れが終わったからだ。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(10) 2013年から20年の間に #雇用者 は約500万人増えたが、その43%は #非正規 だ。これによって賃金上昇を抑えることができた。それによって企業利益が増加した。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
アベノミクスとは何だったのか(11) アベノミクスの期間での企業売上高は、8.4%増。あまり高い伸びではないが、人件費伸びを4.9%に抑えられたので、営業利益は約40%増加した。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月29日
#アベノミクス とは何だったのか(12)生産性を上げるのでなく、#非正規・低賃金労働 に頼る構造は、労働市場の不安定化をもたらす。事実、今年1月から6月の間に、非正規は約100万人減(正規はむしろ増えている)。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月30日
#アベノミクス とは何だったのか(13)アベノミクスの期間に増えた #非正規労働者 217万人のうち100万人はすでに職を失った。失業率がさほど高まらないのは、求職活動をしないからだ(1月から6月の間に、失業者は30万人増。非労働力人口は62万人増)。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月30日
#アベノミクス とは何だったのか(14) #生産性 を向上させることなく、#非正規の低賃金労働 に依存して #企業利益 を増やし、#株価 を上げた。負の遺産として、低生産性が放置され、労働市場が不安定化した。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年8月30日
まとめると、企業と株主にはありがたい政策を取り続けてきた。ただし、社会の格差は拡大し、また長期的な日本の発展につながるような取り組みはあまり功を奏さなかった。また、金融政策については、日本だけの話ではないにせよ、緩和をやりすぎたこともあり、もはや後戻り出来ないところまで来てしまった。という感じでしょうか。
つまり日本の金融政策は、誰も引くことも進むこともできない。言い換えればコントロールを失ってる状態、ってことだと理解しました。 https://t.co/XUNDWKAzGM
— セミリタイア九条 (@kuzyofire) 2020年8月29日
最後は藤巻氏のツイート。次の総理が誰であれ、財政正常化に向けた政策をもし取ったら、株価にとっては大ダメージ。経済も大混乱するでしょう。財政悪化が止まらない中、果たしてソフトランディングする手法があるのか、それとも行きつく先は国債大暴落なのか。10年以上いわれてきた、日本国債の暴落が起こればハイパーインフレです。投資家としては、これを最大のリスクとして頭の片隅に入れておかざるをえないと思います。