FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。投資歴20年以上。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

日本でインフレが起きる2つのシナリオ

コロナ禍による世界的な金融緩和によって、インフレが起きるのではないか?という懸念があります。ぼくも何度かインフレについて書いてきました。でも、「金融緩和」→「インフレ」というのは、少々メカニズムが曖昧です。もう少し分解して紐解いてみます。

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 通貨供給量増大はインフレをもたらすのか

インフレが起こる理由として、よく言われるのが「通貨供給量の増大」です。生産物の量が同じなのに、通貨の量が10倍になったら、値段も10倍になる。非常にわかりやすい理屈です。

 

ただこの通貨供給量(マネーサプライ)を調整しても、物価を調整できないという歴史的な事実があります。1929年から起こった世界大恐慌では、深刻なデフレが起こり、中央銀行は通貨供給量を急増させましたが、貨幣価値は落ちませんでした。この原因に挑んだのがケインズだと言われています。

企業や人が将来に不安を抱くと、お金を使わなくなり、貨幣への需要(流動性選好)が高まる。野菜と異なり、貨幣は腐ることはなく貯蔵も簡単なため、供給量をいくら増やしてもため込まれるだけ、貨幣価値は下がらず物価も上がらなかった。

貨幣数量説 | 目からウロコの経済用語「一語千金」

ケインズは、人々がモノを買うよりお金を貯めておこうとすることで、物価が上がらない状況を「流動性の罠」と呼びました。これは、アベノミクス以前の日本の経済でもよくいわれたことです。

 

デフレ下のなか、将来への不安は消えず、いくら金融緩和をしてもモノを買わずに、人々は預金として取っておきました。そうしてデフレが続くと、借金をするよりも現金で持っておいたほうが得だという状況にもなりました。デフレとは、モノに対して通貨の価値が上がることを指すからです。このような、予言の自己成就的な動きから、やっぱりインフレにはなりませんでした。

 

通貨量を増やして物価をコントロールできると考える人をマネタリスト、逆に通貨量調整だけではダメで、政府が適切な支出をしたりさまざまな金融政策をする必要があると考える人をケインジアンと呼びます。どちらが正しいとは言えず、論争は続いていますが、直近の過去を見ると、通貨供給量と物価は、全く連動していないようです。

この古き良き時代では、通貨供給は支出と非常にしっかりと相関していた。したがって、通貨供給量の急増が将来的支出や将来的インフレの良い予測手段としなった。

(略)

しかし、金利政策も中央銀行の資産買い入れも、ここ25年にわたってインフレ率と相関するいかなる証拠も生み出していない。

インフレがここまで制御されている理由 - CME Group 2018年

 今まで関係がなかったから、これからも関係ないのか

通貨供給量の増大がインフレに影響するのかしないのか。経済学者の間でも論争になっているほどなので、ここからなにかを結論することはできません。ただし、「これまで起こらなかったから間違っている」とも言えません。数十年に渡って溜まってきたものが、一気に噴出して、インフレが起きるとも考えられるからです。

 

特に注意したいのが、ぼくも含めて多くの人が「これだけお金をバラまけばインフレになるんじゃないか?」となんとなく感じ始めていることです。この「お金がじゃぶじゃぶ」感は、それがすぐにインフレをもたらすかどうかはともかくとして、エコノミストの間でも共有されつつあります。

 

JPモルガンの佐々木氏は、「お金をじゃぶじゃぶに供給の幻想」として、次のように書いています。

<「お金をじゃぶじゃぶに供給」の幻想>

1つめは金利の低下だ。通常、マネタリーベースが増加すると金利が低下する。その結果、人々はお金を預金で保有していてもリターンが少ないので、物を買おうとする。また、金利が低いと、お金を借りてまで物を買おうとする人も出てくる。その結果、物に対するお金の価値が下がる。つまり、物価が上がり、他国通貨に対して当該国通貨が安くなる。

2つめの経路はマネーストックの増加だ。ある国の通貨の価値を決めるのは基本的には当該国の家計と企業だ。円の価値を決めるのは日本の家計と企業だ。したがって、家計や(金融機関を除く)企業の手元にお金が大量に流れれば円という通貨の価値は下がる。

3つめの経路は期待インフレ率の上昇だ。日銀がバランスシートを拡大するのを見て、家計や企業が、将来日銀が発行する紙幣の価値が下がる(=インフレが発生する)との期待(不安)を高め、手元にあるお金を物に変えようとすると、物に対するお金の価値が下がる。

もっとも、日本では今のところ、この3つとも機能していない。

コラム:量的質的緩和でインフレにならない訳=佐々木融氏 2017年

そして書かれているとおり、この3つともに起こっていません。それでもインフレを不安に思うのは、この「期待インフレ率の上昇」です。日銀が2%のインフレ目標を掲げたときにも、人々のインフレ期待を高めることで実際にインフレを起こせると言われました。

 

実際にはいくら日銀が金融政策をしても、期待インフレ率は2%に届かなかったわけですが、今回のコロナバラまきでは、手元に10万円が届くこともあり、もしかして、インフレか? と思う人が増えてきています。貨幣供給量の多寡ではなく、それによって人々がどう思うかが、実際にインフレになるかどうかには重要な点です。インフレもデフレも、人々の自己予言成就の傾向があるからです。

おそらく需給ではインフレにはならない

人々がモノをほしいと思う気持ちと手元のお金に対して、モノの生産量が少なければ、インフレは起こります。これが需給関係です。ところが、手元にお金があっても、それを十分に吸収できるだけの供給量があるのが現在の世界経済です。逆に、供給が不足すれば簡単に物価は上がります。

 

コロナ禍でのマスクの価格がいい例でしょう。ほしいと思う人に対して全く供給は足りておらず、需給の関係で価格が大きく上昇しました。しかしこれは特定の商品の価格が上がっただけで、あらゆる製品やサービスの価格が上昇するインフレとは違います。

 

供給されるお金が増えてもインフレにならない。その背景には、世界の生産能力が需要を上回るペースで拡大し続けてきており、供給過多が続いているという点もあるようです。

典型的な第1次世界大戦後のオーストリアとドイツのハイパー・インフレは大戦で欧州の生産設備が破壊された後に起こっている。

また逆に、1929年から始まった「大恐慌」は、結局、39~45年の世界大戦によって世界の生産設備が大打撃を受けたことによって解決した。

しかし、1945年以降70年以上にわたって世界規模の戦争は起こっていない。もちろんそれは喜ばしいことだが、経済面でみれば毎年生産設備が積み上がって、かなりの供給過剰構造になっているのである。

異次元緩和でも日本にインフレが起こらない極めてシンプルな事情

これまでの世界を見ると、ハイパーインフレが起きたときは、お金の量が増えたというより、世界規模の戦争によって生産設備が破壊され、生産能力が減ったことで起きたという側面もあるようです。

インフレの2つのシナリオ

それでは日本でインフレが起きるとしたらどんな状況でしょうか。インフレにはいくつかのパターンがあると言われていますが、その1つ、景気が加熱してみんなが借金をしてでもモノを買うことで起こる「デマンドプルインフレ」は、起きにくいというのが多くのエコノミストの見立てです。

 

お金があってもモノを買わない。将来の不安から貯め込んで消費しない。これがバブル期のように、ガンガン使うようになるイメージは、現状ありませんね。また、こうしたときはその前に資産インフレが起き、地価や株価が大きく上昇するはずです。ところが、コロナ禍がなかったとしても経済は下降トレンドにあり、好景気の見通しはありません。

 

もう一つ、あり得るかもしれないシナリオは、ハイパーインフレです。これは景気加熱とは別に、価格が2倍、3倍と上がっていくシナリオです。この道筋は比較的分かりやすく、次のように想定されます。

  1. 財政不信から日本国債が売られる
  2. 日銀が買い支えるので暴落はしないが、代わりに円が売られる
  3. 1ドルが200円、300円になり、輸入品価格が急上昇
  4. モノの値段が急上昇するハイパーインフレ

日本国債のほとんどは、国内の金融機関や投資家が持っており、彼らが売りに出たら、便乗するヘッジファンドなども巻き込んで、暴落に向かうのではないか。その事自体は阻止できたとしても、買い支える日銀のバランスシートは痛み、日銀発行券の信任は地に落ち、同時に円が売られることになるという流れです。

日本でハイパーインフレが起こるとすれば、円の暴落が原因になる可能性が高い。財政の健全化を巡って、日本にその意思と能力が全くないと市場が見切りをつけ、円を売り浴びせてくるような事態だ。1ドル=100円の相場が200円、300円になれば、すべての輸入品の価格が2倍、3倍になりハイパーインフレが引き起こされる。

借金とインフレを巡る誤解: 日本経済新聞 2019年 

ポイントは、国債を保有する国内金融機関や投資家が、日本の財政はもうダメだ、と思ったときに、これが起こり得るということです。ここでも、ハイパーインフレ発生のメカニズムは人々の気分であり、その気分が予言を自己成就させるという構造なんじゃないかと思います。 

円の暴落はあるのか。市場が、そして日本人自身が、政府に財政を健全化させる意思も能力もないと見限ったときに、それは起こりうると私は考える。財政の問題だから、本来、売られるのは国債のはずだが、その場合には日銀が徹底的に買いに回ることになるだろうから、国債相場の大暴落はないだろう。暴落があるとすれば、誰でも売り買いできる為替市場だ。

借金はインフレで楽になるのか

 日本国の借金は日本国民からしているのだから大丈夫。MMTがいうように、政府は必要なだけ国債を発行しても大丈夫。人々がそう思っている限り、実は国債暴落も起きず、ハイパーインフレも起きません。ところが、ヤバいかも?と思う人が増えてきたら、誰かが引き金を引くことで実際に暴落が起きるかもしれません。そして今回のコロナ禍で新規国債発行が急増したように、ロバに乗るワラの本数はどんどん増え続けているわけです。

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