優待クロスのバリエーションの1つに、優待目的ではなく配当目的でクロスを行う、「配当クロス」というものがあります。3月は配当を出す銘柄も多く、しかも大量の銘柄があるので狙いが分散されがち。配当クロスの可能性について、考えてみました。
配当クロスとは?
優待クロスの手法は、一般信用を使うものと制度信用を使うものに大きく分かれます。株価の変動はクロスによって相殺されますが、そのほかの損益の構造は次のようになっています。
- 現物 配当+優待
- 一般信用売り 配当落調整金(配当同額)支払い +貸株代
- 制度信用売り 配当落調整金(配当額 −15.315%)支払い +貸株代+逆日歩
このとき、一般信用売りは在庫に限りがあるために長期で保有することが多く、その分貸株代がかさみます。制度信用売りの場合、通常権利確定日に建てるので貸株代は最小限ですが、逆日歩リスクがあります。
そしてもう一つ、大きな違いが配当落調整金です。一般信用クロスの場合、もらう配当と同額を支払いますので差し引きゼロ*1。ところが、制度信用クロスの場合、支払う配当落調整金額が少ないので、少しだけ利益が出るのです。
まとめると次のようになります。
- 一般信用クロス 優待取得+貸株代支払い
- 制度信用クロス 優待取得+貸株代、逆日歩支払い+配当の15.315%取得
この追加の配当を狙ってクロスを行うのが、配当クロスになります。
そんなの儲かるの?
でもそんなの儲かるのでしょうか? はい。銘柄を選べば、意外なほどの利益が出ます。多くの銘柄データでは年間配当利回りしか出ていませんが、今回は四季報による3月配当予想を元に、3月権利単体の配当利回りの上位銘柄を調べてみました。
どうです? 意外に高くありませんか?特に注目は増配を発表したエイベックスです。中間25円+期末96円の年間121円。26日終値ベースで株価は1584円ですから、期末についてはこのように高い利回りになるわけです。
そのほかの3月配当銘柄上位には、年間配当が1回の銘柄が並びます。エイベックス、ソフトバンク、小野建、フォーバルテレコムの4社以外は、すべて年間配当が3月の1回です。
下記は日本郵政の配当ですが、2021年3月期は9月の中間配当をしておらず、3月に集中する形になっています。これが今年3月高配当の理由ですね。
ただし、これらの銘柄のすべてが配当クロスできるわけではありません。制度信用で売りが建てられる銘柄は限られるからです。いわゆる貸借銘柄に絞るとけっこう数が減ります。
では、貸借銘柄の中から配当クロスして、配当額の15.315%を得た場合の利回りはどうなるでしょうか。単純に、上記の利回りの15.315%となるわけですが、まとめると次のようになります。
なるほど、3月29日に資金を入れてポジションを作り、30日にクロス解消。資金が4月1日は戻ってくるわけですが、このわずか3日で0.4〜0.9%のリターンです。悪くありません。100万円入れれば、価格変動リスクなしで4000円〜9000円得られるわけですから。
問題は逆日歩だ!
制度クロスの場合、貸株料は年率1.15%。これが3日分(両端入れなので)かかるわけですが、0.0094%でしかありません。100万円で95円あまり。ほぼ誤差です。
問題は逆日歩です。事前に逆日歩がどれだけかかるかは分かりませんが、最大の額は分かります。いわゆる最高逆日歩です。逆日歩が入った場合、利回りはどう変化するでしょうか?
権利付き最終日の最高逆日歩は自動的に4倍です。そして注意喚起が入るとさらに倍の8倍になります。この「MAX」の逆日歩が入った場合の利回りをそれぞれの銘柄でチェックしてみました。
四角い箱が、4倍の逆日歩の額に応じた利回りです。エイベックスであれば、逆日歩ゼロなら0.93%、逆日歩マックスなら0.12%のリターンということです。下に出ているヒゲは、注意喚起が出て8倍になったときのリターンです。
ちなみに赤い色を付けたエイベックスと日本郵政は、すでに注意喚起が出ている銘柄です。つまり、逆日歩マックスが出ると、マイナス1〜1.5%くらいの赤字になることになります。
逆日歩リスクをどう見るか
さてこれらの銘柄は逆日歩が付かなければそこそこの配当リターン。でも逆日歩がマックスついたらけっこうダメージです。逆日歩が付くかどうかは需給で変わるので、1つの指標は時価総額でしょう。下記は、上位銘柄の時価総額です。横軸は対数になっています。
なるほど、日本郵政とゆうちょ銀行、ソフトバンクはさすがの時価総額。エイベックス以下は700億円以下とちょっと小粒です。少し怖いですね。
続いて、逆日歩の発生確率を日興証券の「逆日歩予想」から見てみます。この通り、エイベックスは92%、大東銀行は98%の確率で逆日歩発生が予想されています。また、日本郵政やゆうちょ銀行、ソフトバンクは1%の確率しかありません。
ではどのくらいの逆日歩が想定されるのか。株価あたりのパーセンテージとして、逆日歩予想では次のようにはじき出しています。やはりエイベックスと大東銀行は危険信号点灯のようです。
では、日興の「逆日歩予想」をそのまま信じるとして、この逆日歩が発生した場合の配当クロスリターンを計算してみます。じゃん! 大東銀行のみ赤字となりますが、ほかはこのような修正リターンです。
グランディハウスは注意喚起が出ていないので、最悪の場合でもリターンはマイナス0.22%です(逆日歩マックス)。上位銘柄には優待がないため、優待狙いのクロス陣が入ってこないのもよいところですね。上位の複数の銘柄に分散して配当クロスをしてみてもいいかもしれません。
配当クロスのいいところ
最後に配当クロスのいいところを。豊富な資金があっても、優待は資金量に応じてもらえるわけではありません。単元株が最も利回りが高いことがほとんどです。ところが、配当クロスは優待が関係ないため、資金があればあるだけリターンを得ることができます。
ただし、逆日歩リスクがあることには注意が必要です。このリスクは需給なので、なんともいえません。それでも、最大逆日歩を計算しておけば、最悪の状況も想定できます。0.5%(ただし税前)のリターンが得られるなら、下手な優待よりも利回りがいいこともあり得ます。資金量とリスクを見極めて、トライしてみたいと思います。
*1:正確には現物の配当からは税金が20.315%源泉でひかれていますが、これは同じ証券会社内なら還付されます。