今度の日曜日は衆議院選挙です。どこがどうなるかという政局は全く分からないのですが、一投資家として、どの政党が投資家関係の事柄について、どんな公約を掲げているのかを、抜き出してみました。
自民党
まずは政権与党の自民党です。総裁選挙のときには、金融増税や1億円の壁や、プライマリーバランス凍結などの議論が出てきたのですが、いざ公約になってみると、あれ? そういう話はすべてどこかへ消えてしまいました。
そもそも掲げている8つの項目はこうです。
- 感染症から命と暮らしを守る
- 「新しい資本主義」で分厚い中間層を再構築する。「全世代の安心感」が日本の活力に。
- 国の基「農林水産業」を守り、成長産業に
- 日本列島の隅々まで、活発な経済活動が行き渡る国へ
- 経済安全保障を強化する
- 「毅然とした日本外交の展開」と「国防力」の強化で日本を守る
- 「教育」は国家の基本。人材力の強化、安全で安心な国、健康で豊かな地域社会を目指す
- 日本国憲法の改正を目指す
この中で、投資家に直接関係しそうなのは(2)あたりでしょうか。
とはいえ、公約を全て見てみても、税と財政に触れているところはありません。これは現状維持という話なのか、公約には入れずにやるよ、という話なのかはここを見るだけでははっきりしませんでした。
スタートアップを生み出し、かつ、その規模を拡大する環境を整備するため、新規株式公開(IPO)における価格設定プロセスの見直しやSPAC(特別買収目的会社)制度の検討を進めます。
SPACの導入は、菅首相のときから出ていた話ですね。SPACが日本でも可能になれば、新規上場が活発化し、スタートアップの増加は期待できます。
キャッシュレス決済の増加や、決済システムの高度化・効率化、暗号技術やブロックチェーン技術等の新しいデジタル技術など、金融分野でもデジタル社会に対応した技術革新を支援し、新たな金融サービスの創出を促進します。
こちらも既定路線。新しいことも具体的なことも言っていません。
金融イノベーション加速化のため、デジタル化への対応のあり方を検討し、利用者が適切に保護されるモニタリングの体制整備を進めます。また、二次元コードを用いた納税や、電子記録債権の普及等、社会全体で金融インフラのデジタル化を進めます。
電子記録債権というのはSTでしょうか。こちらも抽象的でよく分かりませんでした。
「四半期開示」を見直し、長期的な研究開発や人材投資を促進します。
これも既定路線ですが、本当に四半期開示が見直されるのかは不明です。
というわけで、全体として抽象的で、よくも悪くも現状維持。または、具体的な政策は衆院選で勝ってから、「新しい資本主義会議」とかで議論するという感じでしょうか。ちなみに、未だに「新しい資本主義」のどのあたりが新しいのかは、分かりません。
立憲民主党
7つの「Policy」を掲げる立憲民主党ですが、実は投資家に関係しそうな税金や金融に直接関する政策はありません。「分配なくして成長なし」という政策を掲げていますが、中身としては次の2つ。
1 年収1000万円程度までの所得税ゼロと給付金
コロナ禍の影響で家計が苦しい世帯に対する即効性のある支援として、個人の年収1000万円程度まで実質免除となる時限的な所得税減税と、低所得者への年額12万円の現金給付を行います(再掲)。
年収1000万円まで所得税をゼロにするという話ですが、別途10%の住民税は残るので、税金が半分くらいになるイメージです。ちなみに、年収1000万円だと、所得税は84.85万(単身者)〜52.05万(配偶者+大学生2人)となります。住民税のほうは64.3万(同)〜52万円(同)という感じ。
6 富裕層や超大企業への優遇税制の是正で所得再分配を強化
法人税は、必要な政策減税は残した上で、所得税と同様、累進税率を導入します。
所得税の最高税率を引き上げ、現在、分離課税になっている金融所得について、将来の総合課税化を見据え、国際標準まで強化します。
社会保険料の月額上限を見直し、富裕層に応分の負担を求めます。
もう1つはこちら。法人税を累進課税化するという点と、金融所得も将来の総合税化を見据えるとしています。こちらは、いわゆる「1億円の壁」を意識してのこと。一律金融課税アップよりはいいとおもいきや、下記が税率です。
これは給与などに加えての税率計算なので、例えば給与の課税所得が500万円だと、それだけで追加の金融所得は30%の税率になってしまいます。
- 194万9000円まで 5%+住民税10%
- 329万9000円まで 10%+住民税10%
- 694万9000円まで 20%+住民税10%
- 899万9000円まで 23%+住民税10%
- 1799万9000円まで 33%+住民税10%
- 3999万9000円まで 40%+住民税10%
- それ以上 45%+住民税10%
総合課税化すると、何らか優遇措置がないと、庶民にとっても増税って感じです。
共産党
事細かに多くの政策を具体的に開示しているのが共産党です。まぁメイン政党として政権を取ることはないということを見越して、「やりたい」ことを挙げていて、実際に「やれる」とは思っていないのではないでしょうか。
――株式配当は少額の配当や低所得者の場合を除き、勤労所得などとあわせた総合課税を義務づけ、富裕層の高額の配当には所得税・住民税の最高税率が適用されるようにします。
――株式譲渡所得についても将来的には総合課税とすることを検討しますが、分離課税が続いている間も、欧米諸国の水準にあわせて高額所得者には30%以上の税率が適用されるようにします。
まず配当は総合課税化。先の計算のとおり、普通の給与所得者なら増税ですねぇ。株式譲渡益も、高額所得者は+10%の増税案です。この高額所得者がどのくらいの年収を意味するのかは分かりません。
相続税・贈与税の最高税率を引き上げます
相続税・贈与税の最高税率は、2003年に70%から50%に引き下げられました。2015年から55%に戻されましたが、対象も増税額もわずかにすぎません。逆に、基礎控除を引き下げ、少額の遺産への課税を強化しています。その一方、孫などに1人1,500万円までの「教育資金一括贈与の非課税枠」を創設するなど、富裕層向けの減税措置は強化されています。中間層の負担増にならないように、基礎控除額を引き上げるなどの措置をとりつつ、最高税率を元の70%に戻し、富裕層の資産への課税を強化します。
相続税は、昨今控除額が引き下げられたため、これまでの2倍くらいの人数が対象になりました。これを元に戻して、高額相続については最高税率も戻すという政策です。
所得税の最高税率を引下げ前の水準に戻します
所得税・住民税あわせた最高税率は、99年に65%から50%に下げられ、その後5%上がりましたが、現在55%となっています。これを元に戻し、富裕層(10万人前後)の課税所得3,000万円超の部分には、65%の税率を適用します。
所得税の累進課税率もアップ。普通の人には関係なさそうですが、仮想通貨で一発当てた人は、これまでの最高55%!という話が、なんと65%も取られることになります。
富裕税を創設します
富裕層の資産に対して、低率で毎年課税する新たな税として、「富裕税」を創設します。純資産が5億円を超える場合に、その超過部分に対して、0.5~3%程度の範囲で累進的な税率で課税します。課税対象資産額の算定にあたっては、相続税の課税評価額に準じた方式で、自宅用不動産の評価の軽減、自営業者などの事業資産への特例措置、営農中の農地については宅地並み基準を適用しないなどの措置を講じ、中間層に負担がかからないように配慮します。これにより、富裕税の対象は1,000人に1人程度の富裕層に限定されます。これは、相続税(被相続人の5%前後が対象)にくらべ、50分の1程度です。しかし、「アベノミクス」のもとで富裕層の金融資産が急増しているもとで、1兆円程度の税収が見込めます。大株主が株式を資産管理会社に移すような場合には、その会社を保有していること自体を「資産」とみなして富裕税を課税し、税逃れを許さないようにします。相続税は数十年に一度しか課税されないため、さまざまな「資産隠し」「課税逃れ」が生じる可能性がありますが、富裕税は毎年申告するため、資産隠しを防ぐためにも有効です。
富裕税という名前の資産課税も創設です。総資産5億以上についてですが、0.5%〜3%はけっこう大きい。まぁ5億以上からなら、これはやっていいんじゃないか? とも個人的には思いますけど。
為替取引税を創設します
多額の為替取引に対して低率で課税する「為替取引税」を創設します。東京外為市場の取引額は年間推計94兆ドル(19年)で、この21年間で3倍近くに増えています。投機マネーによる取引が増加しているからです。これに0.01%程度のごく低い税率で課税すれば、1兆円を超える税収になります。税率が低いので、通常の貿易や金融取引には影響がありませんが、短期間に多数回の取引を繰り返す投機マネーには負担となり、行き過ぎた投機の抑制にもつながります。
FX投資家は注目です。なんと取引額に対して、0.01%の課税案です。特に短期売買を繰り返すトレーダーにとっては、100回転で1%ですから、決して小さい課税ではありませんね。しかしこれ、実現したらHFT業者とかはどうなるんでしょう?
――「少額投資非課税制度(NISA)」は、小規模な投資を行う「庶民投資家」への課税を軽減する措置ですが、モデルとされたイギリスの個人貯蓄制度(ISA)が預金利子も非課税の対象となっているのと違って、日本の制度は株式投資だけに限定された歪んだものです。対象を狭めない小口投資の非課税枠をつくり、投資先は投資家の判断にゆだねるようにすべきです。
こちらはNISAに、株式だけじゃなく預貯金も対象にするというもの。どうなんでしょうね。0.001%しか利子がつかない預貯金を非課税にしてもほとんど投資家のメリットはない一方で、一定の人は喜んで預貯金をNISAに入れてしまうんではないでしょうか。結局、株式に回るはずのおカネが減るわけで、大きな方向性としては個人的には疑問です。
維新
維新は箇条書きでまとめていて、それはそれでいいのですが、なぜPDFなんでしょう。抜き出しに苦労しました。さて、税制、金融関連は次の項目です。
64.成長のための税制を目指し、消費税のみならず所得税・法人税を減税する「フロー大減税」を断行し、 簡素で公平な税制を実現します。
65. フロー大減税を行うと同時に、ストック課税はそのあり方を見直すなど、「フローからストックへ」を 基軸とした税体系全体における抜本的な改革を行います。
66. 高額所得者ほど総所得に占める金融所得の割合が高く、所得税負担率に逆累進性が働いている現状を改 善し、総合課税化とフラットタックス導入を含む税制改革により課税の適正化・格差是正を図ります。
67. 既得権益化した複雑な租税特別措置法を廃止し、「簡素、公平、活力」の税制へと転換を図ります。
68. マイナンバー制度の活用や銀行口座との紐付けにより、個人・法人の資産と収入を正確に把握し、効率的かつ公平で抜け漏れのない徴税を行います。
まず、「フローからストックへ」とあります。従来の課税は、その年の所得に対してかかるいわゆるフローが対象でしたが、ここから保有している資産に対するストック課税に切り替えるという宣言です。資産課税として有名なものは固定資産税ですが、これを株式や預貯金など金融資産にも広げるようにも読めます。
そしてここでも金融所得の総合課税化が出てきます。各政党ともにこれを書いていて、なんというか、総合課税化がトレンドのような感じですね。各党が賛成なら、法整備もスムーズに進んでしまいそうで、なんだかなぁという感じです。
マイナンバー制度の活用も挙げています。抜け道なく全員にしっかりこれを実現するのなら、まぁいいのかなと思いますが、ちょっと思いつくだけでも抜け穴だかけです。例えば、仮想通貨のウォレットとかどうするの?とか、ロレックスみたいな動産に替えた資産は把握できるの? とか。
71.エンジェル税制のさらなる促進や、ストックオプションにかかる課税等の一層の見直しにより、投資を 促す税制度を整備します。
72. 交際費への課税を大幅に見直し、負担を軽減することで企業・経済活動のより一層の活性化を促します。
73. 投資促進に寄与している少額投資非課税制度(NISA)については、時限措置ではなく恒久措置とし、特 につみたて NISA は投資枠の上限拡大を図るとともに、開始時期にかかわらず 20 年間のつみたて期間が確保されるよう制度期限を延長します。
また交際費への課税見直しを挙げています。交際費は中小企業なら全額損金にできるのですが、大企業ではそうなっていません。2019年度末に減税措置が廃止され、1人5000円超の交際費が、全額損金不算入になりました。これを見直すということでしょうか? そうすれば、大企業がまたガンガン交際費を使い、タクシーや飲食店は賑やかになるということのように読めます。
(2)デジタル通貨・仮想通貨・フィンテック
80. 特区を用いた実証実験を行うなど、中央デジタル通貨(CBDC)の研究開発を進め、諸外国に乗り遅れないよう目標期限を定めた積極的な導入検討を行います。
81. 暗号資産税制の改正を行い、暗号資産を利用した資金決済分野の革新を後押しするとともに、ブロックチェーン技術の研究開発を進め、暗号資産の分野で世界をリードする先進国の立場を取り戻します。
82. フィンテックはじめ金融サービスのイノベーションを推進するため、銀行・証券・保険の垣根を超えた 規制改革を推進します。
一応、仮想通貨やフィンテックについても触れていますが、「積極的な導入検討」「毛暗号資産先進国の立場を取り戻す」「規制改革を推進」と、玉虫色の抽象的な話で、どうしたいのかは分かりません。
まぁ忘れていないよ、くらいのことなのでしょうか。仮想通貨の分離課税化とかしてくれれば、それだけで支持する人もいると思うのですが。
国民民主党
微妙な存在感となった国民民主党は、とにかく政策についての情報開示がありません。そのなかで、「政策4」として「財源の多様化」を挙げています。
しかし書かれているのは次の一言だけ。
また、格差是正の観点から、富裕層への課税を強化します。
どこからが富裕層なのか、税率アップなのか資産課税なのか、そうした具体的なことには触れず。なんとも判断しにくいですね。
全体として
まず自民党は、現時点で具体的な政策を明らかにするつもりはないようです。投資観点では、安心していいのか注意すべきなのか、分かりません。
立憲民主党は、明らかに分配重視。富裕層への課税を強化して、一般層を減税する姿勢が明確です。ただし、金融所得については立民の考え方だと「富裕層でしょ」となりかねないような怖さもあります。
共産党も、税制については立民と似ています。ただ、より具体的な方法を記している感じ。
維新は、一般向けには減税を打ち出していて、その点ではいいですね。NISAの恒久化も評価できます。一方で、富裕層をターゲットにした資産課税を明確に打ち出しているのはちょっと怖いところ。まぁ、資産5億以上を想定しているようなので、(ぼくには)あまり影響はありませんが、飛び火してこないかは心配です。
国民民主党は、あまりに情報開示が少なくてよく分かりません。ただし富裕層課税だけは明確です。
こう見ると、口をつぐんだままの自民党も、富裕層へ課税して一般にバラまくという考え方は強いようなので、各党とも富裕層から税を取るという方向性は共通してしまっているようです。これは世界的な潮流でもあるので仕方ありません。ただし、投資家にとっては優遇措置なしの総合課税は意外に税率が高いぞ、ということと、勢い余って資産課税の流れになると、けっこうやっかいだということが挙げられます。
選挙は、投資家観点だけで決めるものではないのですが、一応の参考まで。