FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

仮想通貨が世界規模のアイデンティティ分断をもたらす 『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』

米国政治シーンでは「分断」という言葉がよく使われます。白人と黒人、低所得者と高所得者などなど、2つのカテゴリーに物事を分けた対立構造を示す表現です。ところが、日本の政治にも課題はたくさんありますが、あまり「分断」が言われません。これをもって、政治的に安定していて良い国だ、という見方もある一方、選挙を生業としている人から見ると、選挙技術が未成熟だからだそうです。

 

『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』は、そうした選挙コンサルタントで米国政治に詳しい著者が、民主主義が進むと分断構造が現れるのはなぜか? を解説した一冊です。

分断される米国と混ざり合う日本

米国で分断が話題になるのは、民主党といったリベラル政党にとって、解決すべき問題として分断の解消を挙げるのが、もっともアピールが強いからだそうです。そのために、リベラルな大学教授は新たな分断要素を発見し、リベラルなメディアはそれを社会問題として提起し、リベラルな政党が解決すべき課題として訴えるわけです。

 

日本では、さまざまな政治的な要素ごとに各人が異なる意見を持っていますが、2大政党制が根付く米国では、リベラルな民主党はいずれの論点においても同様の意見を持つように背中を押される傾向にあり、これが2大政党制の対立を生み出しているともいえるようです。

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*Democracy Fund, Voter Study Groupによる調査に基づくレポート、Lee Drutman, “Political Divisions in 2016 and Beyond: Tensions Between and Within the Two Parties,” June 2017

三浦瑠麗「分断と対立の時代の政治入門」 党派性のわなにのみ込まれた米メディア|文藝春秋digital

 

横軸が経済的価値観、縦軸を社会的価値観としたグラフにおいて、赤はトランプ氏に投票した人、青はヒラリー・クリントン氏に投票した人です。米国の有権者が見事に2分されていることが分かります。

 

一方で、日本では、同じ2軸において、自民党投票者と立憲民主党投票者が見事に重なり合っています。価値観が混ざり合っていて、個別個別の論点でどちらに投票しているか決めている、または政党によって、経済的価値観、社会的価値観に明確な違いはないというのが日本の状況のようです。

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「自民」と「立民」 投票者の価値観を比較してみると…… 三浦瑠麗「分断と対立の時代の政治入門」|文藝春秋digital

分断をもたらし得る仮想通貨

ここで面白いのは、著者は日本においても仮想通貨が「分断」を生み出す火種になると予想していることです。

筆者は直近、私たちのアイデンティティを強烈な形で分断する要素は「通貨」だと見ている。

洋の東西を問わず、通貨は常に時の為政者にとって、人々が誰の支配下であるかを明示し、その権威と権力の下での取引であることを象徴するものであった。

 

「日本とは何か」「米国とは何か」というのは、アイデンティティの問題です。いわゆる保守層に、「天皇制こそが日本のアイデンティティだ」「英国からの税を廃止するのが独立の精神だ」といった建国の理念がアイデンティティとしてあるように、その国独自の何かが大きなアイデンティティとなっています。

 

同様に、各国ごとに存在する通貨も、その国、国民にとって大きなアイデンティティだというのが筆者の考えです。単なる決済手段、納税手段ではなく、“円”を使う国こそが日本だ、というのです。

 

ところが、仮想通貨の登場はこれに風穴をあけます。

「越境性」を持つ仮想通貨は、法定通貨と同じように、自由にさまざまな国で取引の手段として使える上、国をまたぐ形で利用可能である。

これらの急激な変化は、現在の生活から想像がつかないかもしれないが、今やわれわれはインターネットのない世界を想像できないように、近い将来、当たり前のものになると断言しておく。

日本人は円を使う、円を使っているのが日本人。こうした密かなアイデンティティが、仮想通貨の普及によって崩れるというのです。

弱い国から移行する

中央銀行が自国通貨を発行し、自国通貨建てで国債を発行し、自国通貨建てで納税を受け入れる。こうしたシステムは、強い国ではそう簡単にゆらぐものではありません。しかし、中央銀行の力が弱い国では、仮想通貨を法定通貨として取り入れることは十分にあり得ることです。

強力な仮想通貨は、貧弱な中央銀行システムを駆逐する。したがって、仮想通貨による革命の初期段階は、政府機能が極めて弱い国家からスタートしていく。

本書は2019年12月発行ですが、ここで書かれたことは、21年の9月7日、中米エルサルバドルでBitcoinが法定通貨化され、現実のものとなりました。

自国の法定通貨が脆弱な国に暮らす国民は、仮想通貨を決済や貯蓄の手段として選択する 蓋然性(確度)が高い。人々が自国通貨より世界的に広く流通している仮想通貨の価値を信用することは十分にあり得る。

紙ではないデジタルな通貨であるため、まだ人々の間では混乱もあるようですが、この動きが他の国に波及するかどうかには注目です。

先進国の仮想通貨移行

面白いのは、こうした動きが先進国でも起こり得ると考えていることです。ただし、その際の仮想通貨は、Bitcoinではありません。いわゆるステーブルコインです。

 

Facebookが進めてきた世界通貨としてのLibra計画は現在頓挫し、現在米ドルペッグのいわゆるステーブルコインDiemとして再出発しました。また、中国は2022年にデジタル人民元の発行を予定し、その前段階として先日国内での仮想通貨取引を完全に違法としました。

デジタル人民元への対抗上、リブラは米国の価値観を持った仮想通貨として、遅かれ早かれ政治的に再評価され、現在の懐疑的態度とは逆に、米国政府が積極的にリブラへの後押しを始めることは十分にあり得る。

なぜ米政府がLibra(現Diem)を再評価し、後押しする可能性があるのか。それは、デジタル人民元の動きから想像されるものです。

 

デジタル通貨は紙の通貨に比べてスケール化が容易です。また、口座を作ることも簡単なので、普及を始めたら、国境を越えて浸透していく可能性があります。実際、デジタル人民元がローンチしたら、中国に近い国々では輸出入にこれを使うことになり、ひいては国内経済でもデジタル人民元が流通し始めるのではないかと言われています。

 

人々がデジタル人民元を保有することで、それを日々の生活でも利用するニーズが高まり、商店がデジタル人民元決済に対応することで、デジタル人民元経済が他国にも作られてしまうという懸念です。

 

日本でも、中国人旅行者が来るところでアリペイや銀聯カードが浸透したように、デジタル人民元を持った旅行者に決済手段を提供するのは普通の流れでしょう。このデジタル人民元を両替するのではなく、そのまま別の決済に使うようになったら、円以外の貨幣経済圏が誕生することになります。

 

これはLibraについても同様です。こうした背景から、中国のデジタル人民元への対抗上、米政府はLibraを一転、推進する立場にならざるを得ないではないかというのです。

円とデジタル人民元、Libraという分断

これまで通貨と国はほぼイコールの存在でした。ところが、簡単に国境を越えて流通するデジタル通貨の登場は、その国のアイデンティティを揺るがします。

 

リブラやデジタル人民元のように、極めて強力な主体が提供する中央集権的機構を持つ仮想通貨の国内流通は、多大な政治的コンフリクト(対立・軋轢)を引き起こす。法定通貨以外の他国通貨の国内浸透は、旧来までの法定通貨の世界観では国家主権の侵害に等しい行為だからだ。

Bitcoinではなかなか大国のサポートを得るのは難しいでしょうが、中国が推すデジタル人民元、そして米国が推すLibraという構図になったら、各国は、またその通貨を使う国民は、どの通貨を中心に使うか、どの通貨に普及してほしいかで意見を異にします。

 

日本にはFacebookのリブラなどを支持する自由・民主主義政党、中国共産党のデジタル人民元を支持する政党、そしてデジタル化しない日本円を握りしめた既得権政党による三つ巴の選挙情勢に移行する可能性すらあるかもしれない。

分断が少ない日本の政治ですが、このように経済と密接に連携したデジタル通貨が普及してしまったら、それが新たな分断につながるという話は納得感があります。さらに、その背後には中国、米国という大国がいるとあっては、これは国際的な政党となって、対立を深めることも想像できます。

 

一見夢物語なような話ですが、これを選挙のプロが言っているというのが興味深いところです。つまり、他国由来のデジタル通貨が入ってきたら、それを新たな分断の種、争点として掲げて国政に打って出る政党がいるだろうということを意味しているからです。

 

数年前は、テッキーのおもちゃかギャンブルの道具としてしか見られていなかった仮想通貨も、STO、NFTはじめ領域が拡大し徐々に経済の中に入り込み始めました。さらに、仮想通貨の普及は、各国で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発を後押ししました。9月には、エルサルバドルでBitcoinが世界初の法定通貨となり、どんどん仮想通貨の重要性は増しています。仮想通貨の利用圏が、一つの政治的な立ち位置にもなって、大きな論点になる——。そんな日も遠くないのかもしれません。

 

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