Twitterの株クラでカバードコールETF「QYLD」が話題です。こちら、以前ちょっと調べて「うーん。ちょっと投資対象じゃないな」という結論になった記憶があるのですが、ブログを検索しても調べた結果がありませんでした。そこで、改めてまとめておきたいと思います。
QYLDはカバードコールETF
まずQYLDはカバードコールETFです。現物を持ち、かつその現物のコールオプションを売るポジションを「カバードコール」と呼びます。QYLDは、NASDAQ-100指数を原資産としたカバードコール運用をパッケージ化したETFになります。
運用会社はGlobal X。テーマ型のほかカバードコールETFを得意としており、S&P500を原資産としたXYLD、Russell 2000を原資産としたRYLD、ダウ指数を原資産としたDJIAなども運用しています。東証にも日経225カバードコールETFの【2858】、QYLDに投資する【2865】、XYLDに投資する【2868】などがあります。
QYLDのETFとしてのコストは0.6%です。考え方はさまざまですが、インデックスETFと比較するとかなり高めです。
設定は2013年12月11日。約10年の歴史を持っています。順調に運用額(AUM)を増やしており、直近は60億ドル程度に達しています。
どんな運用をしているのか
カバードコールは、原資産を保有するとともにコールオプションを売ります。コールオプションというのは、ある価格(ストライクプライス、行使価格といいます)でその資産を買う権利を意味します。そのためコールオプションを売るというのは、原資産が値上がりするほど損失が膨らむというポジションです。
このコールオプションの売りと原資産の保有を組み合わせると、損益図は下記のようになります。中央のラインが行使価格です。オプションの価格を「プレミアム」と呼び、コールオプションを売ると一定のプレミアム(分のお金)が手に入ることになります。
これは何を意味しているでしょうか。
- 株価が上昇→どんなに上昇しても利益はゼロ(利益はプレミアムのみ)
- 株価が横ばい→(プレミアム分だけ利益)
- 株価が下落→原資産と同様に損失(ただしプレミアム分だけ利益)
つまり、株価の上昇を諦める代わりにプレミアム分だけ利益を受け取る。これがカバードコールです。普通に考えて、株価が上昇している時期には不利になることが分かります。一番いいのは、株価が横ばいで推移するときです。プレミアムだけ受け取れるわけですから。
ちなみにカバードコールは、ストライクプライスをいくらにするか、オプションには満期がありますが、いつが満期のオプションを売るかでいろいろな戦略があります。QYLDの場合、ATMの満期1カ月先のオプションを売ります。
NASDAQ-100®インデックス(以下「参照インデックス」という。)に含まれる様々な株式を保有し、かつ、アット・ザ・マネー(以下「ATM」という。)で参照インデックスの一連の1か月物カバード・コール・オプションを売る仮想ポートフォリオのパフォーマンスを測定する基準となる指標である。
ATMというのはその時点の原資産価格です。例えばNASDAQ100が1万ドルのとき、行使価格1万ドルのコールオプションを売るということです。オプションのプレミアムはATMで最も高くなります。そのため、プレミアム極大化という観点ではATMを売るのはおかしなことではありません。KAPPA氏のオプション本『株式より有利な科学的トレード法』では、ストライクプライスは「ATMから5%ほどOTM(高い)」ところが良いと、エビデンスを元に説明しています。
満期までの期間が1カ月というのは、1カ月後にもう一度オプションを売り、それを繰り返すということです。QYLDでは毎月分配をしていますが、このプレミアムが分配の原資になります。同KAPPA氏の著書では、満期までの期間は短いほどパフォーマンスが良いというエビデンスがあるとしており、「個人投資家は1カ月のもので十分」としています。
QYLDのパフォーマンス
先に書いたように、株価上昇の上値を諦めるというカバードコールの特徴からいうと、強気相場は不利です。実際設定来のQYLDをNASDAQ100とトータルリターンで比べると、ここまで差が開きます。
この期間、NASDAQ100は上昇を続けましたから、さもありなんとい感じです。具体的には、NASDAQ100に相当するQQQが年平均15.25%のリターンなのに対し、QYLDは6.05%とさんさんたる状況です。
なぜ過去成績が悪いETFが話題になったのか、かなりクエスチョンだったのですが、どうやら分配金のリターンが高いことが理由のようです。下記のとおり、相当な額の分配金を出しており、表のYieldの欄を見れば分かるように10%以上の分配金を出すのもザラという状況です。
ただ、これはいわゆるタコ足配当に近いことには注意が必要です。最初に書いたとおり、カバードコールは次の利益構造になります。常にプレミアムは入ってきますが、株価変動による利益は、決してプラスにはなりません。そして株価が下落するとマイナスです。
では、QYLDの分配金はどう計算されるかというと、プレミアムの半分というのが基本。すべてではないですが、つまりQYLDの基準価格には基本的に下落圧力がかかるわけです。またNAVの1%が上限なので、毎月1%を分配すれば年間の分配金比率は約12%となるわけです。
一般的な指針として、QYLDの月次の分配は「獲得したオプション・プレミアムの半分」か「NAV(純資産額)の1%」のいずれか低い方に上限を設けている。分配されなかった分のオプション・プレミアムは原則として再投資される。
そんなわけで、分配金を再投資しなかった場合のQYLDのパフォーマンスは下記のよううになります。NASDAQ100が下落したときにQYLDも落ち込み、NASDAQ100が上昇しても上昇しないことに着目してください。
QYLDに意味はあるのか?
ではQYLDはインデックス指数に劣後するだけの商品なのでしょうか? いえ、カバードコールはけっこう奥深いものです。まず、何度も書いたように上昇相場であればインデックスを持つだけのほうが良いパフォーマンスとなりますが、横ばい相場ならばカバードコールは大きなリターンをもたらします。
下記は日経225のカバードコールETFである【2858】の設定来パフォーマンスです。ちゃんと日経225指数に勝っていますね。
そしてもう一つ。直近のQYLDについて運用報告書では下記のように低迷の理由を説明しています。これはどういうことか。
この戦略は、不安定かつ不確実な時期に、より高いオプション・プレミアムを獲得できる場合には、より高いリターンをもたらす傾向がある。本ファンドは、ボラティリ
ティが当期を通じて低下し、売りオプションに対して受け取るプレミアムが減少したため、報告期間中、ベンチマークである NASDAQ-100®のパフォーマンスを下回った。
オプションの価格=プレミアムは、そのときのボラティリティが大きいほど高くなります。ボラティリティが大きいほど行使できる可能性が高まるからです。そのため、相場が不安定で激しく動くときは、コール売りで獲得できるプレミアムが増加しリターンが上昇するのです。あ、いまがまさにそんな感じですね。
よくオプションは「ボラティリティを売買する商品」だと言われますが、まさにこういうことです。
ちなみに、インデックス保有よりもカバードコールのほうがエビデンス的にはリターンが高いと言われますが、その理由もこのボラティリティにあります。オプションのプレミアムを計算するときのボラティリティはIV(インプライド・ボラティリティ)と呼ばれます。これはトレーダーの頭の中にあるボラティリティ、というか、プレミアムから逆算して求められるボラティリティです。
ところが、後々になって実際のボラティリティ(HV:ヒストリカルボラティリティ)と比較してみると、IVのほうがHVよりも大きくなる傾向にあるというのです。つまり、実際よりもボラティリティが高い計算でオプションは売買されており、つまり割高。だからそれを売るカバードコールは期待リターンが大きいというのです。これがカバードコールの「アルファ」だという話がありました。
実際、QYLDのこの10年のパフォーマンスはひどいものですが、S&P500を例に、25年間(1986-2011)のパフォーマンスを検証したレポートがあります。
COMPARES VOLATILITY, RETURNS AND PREMIUM INCOME
これによると、25年間のパフォーマンスは次のようになり、オプションを組み合わせた戦略がS&P500を上回ったということでした。
- S&P500 807%
- S&P500 BuyWrite(BXM)(カバードコール)830%
- S&P500 PutWrite(PUT)(キャッシュセキュアードプット)1153%
さらに、BXMもPUTも、S&P500よりもボラティリティが30%小さかったといいます。確かに上値を諦めて固定リターンを得るカバードコールの特性上、QYLDもボラティリティは減少していました。これは一つの利点だといえます。
ちなみにキャッシュセキュアードプット(CSP)は、日本語では現金確保プット売りです。詳細は下記あたりをご参照ください。
QYLDの今後
カバードコール戦略の触りにも触れながらQYLDをチェックしてみました。このようにNASDAQの超上昇相場ではパフォーマンスが低かったQYLDですが、今後はどうでしょうか。
これからの相場が弱気だが、インデックスには張っておきたいと考えるなら一つの選択肢です。横ばいならばプレミアム分の利益を得られますし、下落時にもプレミアムが支えになってくれます。ただし株価が急回復するなら、QYLDは出遅れるでしょう。
もう一つ、不透明感が強い相場ならばQYLDが強い可能性があります。現在がまさにそうですが、相場が激変するタイミングではボラティリティ(IV)が高くなり、プレミアムが上昇するからです。下記のとおりNASDAQのボラティリティは比較的高く、プレミアムも高くなっているでしょう。
2020年から2023年現在までの区間ではQYLDはQQQに劣後していますが、2022年から2023年現在までだとQQQに勝っています。下落はしていますが、プレミアムを売った分があるので、下落が緩和されているわけです。
というわけで、QYLDは指数レバETFよりも遥かに要素が多く複雑です。特にボラティリティがリターンに大きく影響することは、普通はなかなかイメージしにくいと思います。少なくともなぜ10%近い分配金が出ているのか、なぜ基準価格が下落してしまうのかを理解できない場合、QYLDに手を出すのは避けるほうが無難な気もします。そしてぼくは、個別のカバードコールはやっても、QYLDには手を出そうとは思いません。