山崎元さんが年初早々に死去されました。ぼくの投資についての考え方を形作った人は3人います。『ウォール街のランダム・ウォーカー』を書いたバートン・マルキール氏、元「海外投資を楽しむ会」の橘玲氏、そして山崎元氏です。
がんを患ってからも積極的な執筆活動を続け、その切れ味は最後まで鋭いままでした。今日は、そんな心の師である山崎元さんへの追悼として、ぼくの投資人生を変えた(というと大げさですが)5本の記事を紹介します*1。
- インデックス投資ナイトでお会いできてよかった
- 資産運用には「目的」も「自分にあった」も「金額の多寡」も関係ない
- マネーリテラシーのエッセンス
- 山崎さんの人生論
- 金融業界の常識に異を唱える
- 人生晩年期にどんな資産運用をすべきか
インデックス投資ナイトでお会いできてよかった
記事や書籍を読んで勝手に師匠だと思っていた山崎元さんですが、初めてお会いできたのは2023年7月8日に開催されたインデックス投資ナイトでのことでした。ご病気のため、当日の出席も危ぶまれたということですが、この場で生の声を聞き、お会いできて本当によかった。
その時のスピーチ原稿がこちらにあります。いずれ暴落が起きた時、インデックス投資に不安を感じる人もたくさんいると思います。そんなときに、ぜひ読み返したい文章です。本当に山崎さんは国内インデックス投資家の理論的支柱だったと思うのです。
資産運用には「目的」も「自分にあった」も「金額の多寡」も関係ない
山崎さんの批判の多くは、投資家のためにならない金融商品を売りつける金融業界に向かっていました。ただ個別具体的、断片的な否定にとどまらず、ものすごく根源の部分から金融業界のあり方に物申すことも度々。この記事は、お金が持つ「3つの自由」から論理的に考えていくと、金融業界がいかにおかしなセールストークをしているのかが分かるという内容です。
実は個人的にはこの文章に全面的に賛成しているわけではありません。それでも、最初に読んだときは目からウロコが落ちたことを覚えています。資産運用を難しく考える必要は全くない。それが分かる記事です。
マネーリテラシーのエッセンス
一コマの大学の授業で、一生役に立つマネーリテラシー講座をやってほしい――。そんな要望に応えて、山崎氏が話したのがこちらの講座です。シンプルにバッサリと言い切ることは、ビジネスサイドへの忖度がある金融業界の人はできませんし、厳密性を大事にするアカデミックの中の人もできません。まさに山崎さんならではでしょう。
やり玉に上がっているのは、リボ払いとがん保険とお任せ運用です。山崎さんがいろいろなところで何度も批判してきた内容の集大成ともいえる、分かりやすいものとなっています。なお山崎さんはがんで亡くなりましたが、罹患後ももがん保険はいらないと言い続けてきました。
山崎さんの人生論
山崎さんは経済評論家で、資産運用が専門ですが、実は人生論も面白い。面白いというよりも、自分の考え方がひっくり返ったり、ぼんやりしていた内容に理論的な背骨を与えてくれるというものがたくさんあるのです。
そのうちの一つが、働くことについて。給与ではなく株式報酬で稼ぐ、それは投資という意味ではなく、企業するとかストックオプションだとかでお金を稼ぐことが、これから重要だということです。
お金の稼ぎ方では「株式」に上手く関わることがコツになる。起業でも、ベンチャーへの参加でも、ストック・オプションをくれる会社への転職でもいい。
私の時代は、出世したり専門家になったりして「労働時間を確実に高く売る」のが無難な道だったが、時代は変わった。株式性の報酬が有利だ。
「自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ」ことを目指す古いパターンよりも、「自分に投資することは同じだが、失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的に取って、リスクの対価も受け取る」のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった。
仕事で株式性のチャンスに恵まれない場合は、インデックスファンドの長期投資が効率のいい株式リスクとの付き合い方になる。これは、凡人でもできるけれども、一見偉そうな他の投資よりも優れている。お金にも働いて貰うといい。
以上、平凡だけれども、経済評論家としてアドバイスしておく。
もう一つ、今の世界がどんな構造になっているかの概念的把握も重要です。それは下記の絵に集約されています。誰がどこから搾取してるのか、それぞれの立場はどのようなものなのか、それが下記のトウシルの記事には書かれています。現代の資本主義社会の構造を明確に表した素晴らしい図だと思っています。
金融業界の常識に異を唱える
「長期・分散・積立」は昨今の投資のトレンドですが、一つ誤解されやすいものがあります。積立のことを「ドルコスト平均法だからいい」と説明する人が大変多いことです。金融業界でも、何らロジカルな説明無しに「ドルコスト平均法は合理的」なんて言う人が多いのですが、「いやそれ違うんじゃない?」ということを2012年に山崎さんは書いています。
こうした内容を咀嚼しながら、ぼくも何度かドルコスト平均法っておかしいよ? ってことを書きました。業界の常識だからといって、それを鵜呑みにしない姿勢は、投資家がぜひ参考にすべきことだと思っています。
人生晩年期にどんな資産運用をすべきか
日本の金融教育や投資理論は、なぜか若年層から中年の資産形成に偏っていて、最も資産が多く運用がクリティカル(失敗しても給与でカバーできない)なシニア層については、あまり論理的な説明がありませんでした。
それをまとめたのが下記の記事です。
- 晩年だからと言って、運用に歳を取らせる必要はない
- インカム・ゲインに釣られて運用商品を選ぶな
- 「運用利回り」と「余命」に楽観主義を持ち込まない
- お金の問題を「人」の善し悪しで判断できると思うな
- 自分のお金の在処を相続人にわかるようにしておこう
- 成年後見制度に注意しよう
特に「インカムゲインに釣られるな」と「相続人」「成年後見制度」については、シニア層でなくても考えておかなければいけないことだと最近強く思っています。
そして、この記事が(序説)で終わってしまい、詳細についての山崎節が読めないのが本当に残念です。最後になりますが、ご冥福をお祈りします。
*1:書いていたら5本よりも増えた気がしますが、仕方ないですね。