橘玲氏の新著『シンプルで合理的な人生設計』を読みました。こちら、著者の集大成とでもいうべき内容で、橘玲らしさにあふれるとともに、新たに人生の構造を見つめ直しました。
合理的であるとはどういうことか
本書の主張はシンプルです。著者は持論として幸福の土台は「金融資本」「人的資本」「社会資本」にあるとしています。この多くを持っていることを「幸福」と定義したのです。
金融資本とは資産を持っていること。人的資本とは働いて多くの稼ぎを得られること。社会資本とは家族や友人といった社会とのつながりです。このうち2つをたくさん持っていればその人は幸福ですが、3つともに持っている人はいないというのが主張でした。
言ってみれば、資産数億円の富裕層だぜ!という人と、年収2000万円の高給取りだぜ!という人と、ワタシの親も妻(夫)もすごくて友人もスゴイ奴だぜ!という人だということです。
ところが、それぞれの資本について合理性がどのくらい影響するかというと幅があるというのが、本書の白眉。図にするとこういうことです。
合理的、合理性とはどういうことでしょうか。本書ではこの言葉をしっかり定義して使っています。その定義とは「投入した資源( リソース)に対してより多くの利益( リターン)を得ること」です。
金融資本は徹底的に合理的です。金持ちはさらに金持ちになりやすく、論理で物事が動きます。人的資本はそこまで合理的ではありません。よく言われるのが「やりがい搾取」です。やりがいのある仕事だから給料が安いというのは、まぁ非合理ですね。そして社会資本においては非合理の塊です。著者の挙げる例はこうです。
わたしたちはごく自然に、愛情や友情を経済的な合理性とは切り離している。——セックスのあとにダイヤの指輪をプレゼントするのは愛情だが、一万円札を差し出すと買春になってしまう。
3つの資本をどう充実させるか?
こうした全体構造を示した上で、金融資本、人的資本、社会資本のそれぞれを増やすにはどうしたらいいかと、各章を割いて説明します。もちろん「オレはこう思う」「オレはこうやってきた」というような本ではなく、アカデミックな研究論文をひきながら、こうやるとこのように成果が上がるということを解説します。
内容をそれぞれ解説するよりも、実は目次を見ると、いったい何が書いてあるのか、どこがどのように参考になるかがよく分かります。これを見るとよく分かるように、細かなエビデンス(論文など)を積み上げることで、全体構造を補強する構造の本です。
そのため、金融資本、人的資本、社会資本という概念は(おそらく)著者オリジナルですが、そのそれぞれを達成するための細かなノウハウ、考え方は数多くの借り物を組み合わせたものです。まぁそれが橘玲流であり魅力でもあるのですが。
というわけで、この目次は言ってみれば一つ一つがブログのエントリーのようになっています。これを眺めて1つ、2つでも面白そうというものがあれば、本書は価値あるものでしょう。
- Part 1 【理論編】 合理性の基礎知識 1
- コスパ・タイパ・リスパ
- 幸福は進化的合理性からしか得られない
- 「重力問題」は原理的には解決できない
- 選択が少ないほど人生はゆたかになる
- 「時間がない」のは「お金がない」のと同じ
- 「このままでは死んでしまう!」という警報を止めろ
- よい選択とは、コスパとリスパを最適化すること
- タイパの本質は人間関係のコスト
- マルチタスクは生産性を下げるだけ
- 満足度を最大化するのではなく、後悔を最小化する
- 睡眠と散歩は最強の自己啓発
- 眠らないと死んでしまう
- 夢を見ることで能力が向上する
- ぼーっとしている時間がアイデアを生む
- 午後のコーヒーは不眠につながる
- アルコールと睡眠薬は眠りの質を下げる
- よく眠るためにすべきこと
- 毎日 25 分の散歩で長生きできる
- 運動しないと炎症反応が起きる
- もっとも効果なエクササイズは何か
- 進化的合理性と論理的合理性
- よいことも悪いことも慣れていく
- 年収800万円と金融資産1億円
- 幸福は直観と理性の綱渡り
- もっとも効果的に幸福になる方法は、お金持ちになること
- 利益の快感より損失の苦痛の方が大きい
- 無意識は意識より賢い
- 直観は機械に追い越されていく
- 旧石器時代のこころでアスファルトジャングルを生きる
- 「資源制約」と脳の3つの特徴
- 「社会制約」と脳の4つの特徴
- バイアスの5つのグループ
- バイアスが多すぎて意識では対処できない
- 脳がハックされる時代
- 成功に至る意思決定
- 「習慣の力」が奇跡を起こした
- 「努力できるひと」と「努力できないひと」がいる
- 確率が「選択」の問題になるとき
- 期待値が同じならリスクの小さい方が優れている
- リスクが大きくてもリターンがさらに大きければいい
- 統計的世界は未来を予測できる
- 「統計的に正しいことが、個人にとって正しいとは限らない」問題
- ギャンブルに手を出すべきでない理由
- 複雑系世界は予測できない
- マクロ経済学は科学なのか
- 専門家の予測は「チンパンジーがダーツを投げるのと同じ」
- 超予測者は「永遠のベータ版」
- ベイズ確率でパートナーの浮気を計算する
- 推理小説の探偵の思考法
- 後悔を最小化する選択
- マキシマイザーとミニマイザー
- コスパ・タイパ・リスパ
- Part 2 【実践編】 合理的に人生を設計するための戦略
- 3つの資本と8つのパターン
- 幸福度は「親ガチャ」で決まる
- 人生の8つのパターン
- 人生の6つの資源(リソース)
- 脳は「物語」として世界を理解する
- ロールプレイング・ゲームとしての人生
- 終わりよければ、すべてよし
- 金融資本の成功法則
- ●──お金と幸福の関係をあらためて考える
- お金を増やす3つのルール
- 最強の資産運用は人的資本の活用
- 「ゼロで死ね」は正しいのか?
- 体験と蓄財のトレードオフ
- 生前の寄付と死後の寄付
- ますます不確実になる未来
- ●──ビットコイン、FX、株式投資について知っておくべきこと
- 利益と損失のターボチャージャー
- ビットコインに投資すべきか?
- FXはなぜ「億り人」を生み出すのか
- 素人の勘違いが成功の秘密
- 株式への長期投資はプラスサムのゲーム
- あなたが投資すべきファンドは
- ●──マイホームと保険をどう考えるか
- マイホームとREITはどちらが有利?
- 「借りるより買った方が得」という〝神話〟
- マイホームが有利な理由とは
- 保険は損をすることに意味がある金融商品
- 保険の相談窓口は役に立つ?
- ウマい話はあなたのところにはぜったいに来ない
- ●──お金と幸福の関係をあらためて考える
- 人的資本の成功法則
- ●──優秀なライバルに勝つためのシンプルな戦略
- エッセンシャル思考は人的資本の一極集中
- 仕事がブルシット(クソ)になるとき
- こころを病む原因は長時間労働ではない
- 大きな人的資本が自尊心を生む
- 人的資本をマネタイズする
- 健康資本とエロス資本
- メリトクラシーと絶望死
- 不満だらけのエリート・ワナビーズ
- 大学に意味はあるのか
- 「高学歴」の二極化
- ●──バイオリンの天才児はなぜデリヘルドライバーになったのか
- 中学生の全国大会で優勝
- 尋常ならざる努力ができるのが天才
- 検証実験で否定された「1万時間の法則」
- 努力の限界効用逓減の法則
- セミプロがプロの食い物にされるとき
- オンラインポーカーの生態系が変わった
- 自分の能力が優位性をもつ市場を見つけろ
- ●──生き物たちの進化が成功法則を教えてくれる
- 競争の本質は競争しないこと
- 戦う場所は絞るが武器は捨てない
- サブジャンルのフラクタル
- ベンチャーは最強の「弱者の戦略」
- 成功したいなら誰かの「推し」になれ
- 好きなことと得意なことがちがっていたら?
- 好きなことがなかったら?
- ●──優秀なライバルに勝つためのシンプルな戦略
- 社会資本の成功法則
- ●──「あなたは友だち5人の平均」ルール
- 友だちはなぜよく似ているのか
- 友だちの同心円
- 友だちの人数には上限がある
- 「永遠のベストフレンド」は永遠ではない
- 5人のチームのなかでキャラが決まる
- 男女間にセックスなしの友情はありえるか
- シリコンバレーのネットワーク効果
- 友だちになる7つの基準
- 同類婚が格差を拡大する
- アルファの男を争うのは「敗者の戦略」
- 「引き寄せの法則」とネットワーク科学
- ●──ネットワークの科学が教える成功法則
- 運と実力のどちらが大事?
- 成功の「普遍の法則」
- パフォーマンスが測定できるときは実力で勝負しろ
- パフォーマンスが測定できないときはネットワークのハブに行け
- レベルの高い競争では無意識の要素が結果を決める
- 最初の評価は重要だが、最後は実力がものをいう
- 成功するプロジェクトに参加しろ
- 成功できるかどうかはある程度決まっている
- 人間関係を選択する働き方へ
- よいチームの条件
- 「友だち」の存在しない世界
- テイカーでなくギバーになれ
- ●──「あなたは友だち5人の平均」ルール
- 3つの資本と8つのパターン
- エピローグ シンプルで合理的な「成功のライフスタイル」
- スピリチュアル系の成功法則
- 幸せになろうとするほど、幸せから遠ざかる
- 「合理的意思決定理論」という成功法則
- 人生はたった4000週間しかない
- 「選択しない」という選択
- 人的資本と社会資本のトレードオフ
- なぜ筋トレするのか?
- 「ホス狂い」という選択について
- 機械に選択をアウトソースする
- 認知能力が高いひとほど機械を上手に利用する
- SNSの魔界に迷い込まないためには
- ベイズ的な生き方で成功確率を上げる
- あとがき 日本人は合理性を憎んでいる。だからこそ、合理的に生きることが成功法則になる