世界最大のヘッジファンド、レイ・ダリオのブリッジウォーターには、2つの目玉ファンドがあります。アクティブ運用の「ピュアアルファ」、そしてリスク・パリティの「オールウェザー」です。複雑なピュアアルファに対して、ポートフォリオのアセットバランスがキモとなるオールウェザーは、個人投資家でもその考え方を真似しやすいものになります。
オールウェザーポートフォリオ(PF)は、相場による資産変動が少ない安定さが特徴といわれていますが、ではコロナショックではどうだったのでしょうか?
株は3割、債券メインで、金も商品も
オールウェザーPFは保守的なポートフォリオと見られがちです。組み入れ資産比率は下記の通りといわれており、株式は30%しか入っていない一方で、金と商品が7.5%も入っています。
- 株式 30%
- 中期米国債(7-10年) 15%
- 長期米国債(20-25年) 40%
- 金 7.5%
- 商品 7.5%
この比率は、「リスク・パリティ」と呼ばれる考え方に基づいています。パリティとは等価の意味で、組み込む各資産のリスクを同じにするというのが基本的な発想です。
2020年の1月から8月
ご存知のとおり、株式市場絶好調の中で始まった2020年は、コロナの拡大により3月にクラッシュしました。しかし3月半ばを底に、相場は急回復。再び各株式指数は最高値に近づいています。
では代表的な株式指数であるS&P500と、オールウェザーPFを複製したポートフォリオのパフォーマンスはどうだったでしょうか。下記の赤線がS&P500、青線は複製オールウェザーPFです。
株式がコロナショックで大きく下落する中、オールウェザーPFはかすり傷でした。そして、その後の回復局面では出遅れるものの、9月の時点では株式を上回っています。この「下落しない」ところが、やはり最大の特徴です。
この期間の指標を見てみます。リターン(CAGR)は、S&P5009.65%に対して、オールウェザーPF 12.81%です。何より魅力的なのが、最大ドローダウンでしょう。株式が約20%下落したのに対し、オールウェザーPFは1.75%の下落に留まりました。この間、シャープレシオはなんと2.32です。
株価下落をカバーしたのはどんな資産か?
オールウェザーPFは、株式のほかに債券、金、商品が入っています。複製PFでは、債券をIEFとTLT、金をGLD、商品をGSSという、それぞれETFで代替しています。では、株価下落時に、カバーしてくれた資産は何だったのでしょうか。
緑のS&P500に対し、安定して上昇したのが赤線の金(GLD)です。年初からここまでで、CAGRは29.34%に達しています。同じく、下落を大きくカバーしたのが債券(TLT)です。こちらは最大ドローダウンも0.86%と小さく、年初からのリターンは20.85%です。オールウェザーPFは債券比率が約半分に達しているため、これが下落から資産を守ったといえそうです。
一方で、7.5%組み入れられている商品(GSG)は、株式を上回る下落となりました。GSGには石油などが含まれており、この大幅な下落が大きく影響した形です。年初来リターンはなんと▲30.6%。最大ドローダウンは47.69%とすさまじいものでした。
リーマンショック以後
少し確認期間を長くして、リーマンショック以後からコロナショック後までのオールウェザーPFの状況を見てみましょう。青線はS&P500です。
10年程度の期間で見ると、オールウェザーPFは安定しているものの、絶対的なパフォーマンスではS&P500に及ばないことがよく分かります。それでもCAGRは7.83%であり、必ずしも小さなものではありません。
同じ期間中の、債券(TLT)、金(GLD)、商品(GSG)の推移はどうでしょうか。このところ金の上昇が話題になりますが、10年間で見ると、やはり圧倒的に株式のパフォーなんスが良いことが分かります。また、商品は10年かけてずっと下落しており、CAGRで見ると▲7.69%とすさまじい数字です。
リーマンショック前
さらに期間を長くして、前回の大クラッシュであるリーマンショックを入れたらどうなるでしょうか。下記の通り、オールウェザーPFはリーマンショックも無事に乗り切っており、ここで得たアドバンテージを2017年まで保持していることが分かります。
この間のCAGRは、7.69%。S&P500の8.98%には負けますが、その安定感が特徴です。ボラティリティ(Stdev)は、7.37%と株式の約半分となっており、下落の不安を感じずにリターンを上げ続けています。
この期間の組み入れ各アセットの値動きはどうだったでしょう。債券は安定して上昇しており、2つの暴落を入れると株式とそれほど変わらないリターンだったことが分かります。また金(GLD)もリーマンショック後に急上昇しており、この期間のリターンは債券を上回り株式に肉薄しています。一方で、商品(GSG)はリーマンショック前に急上昇したものの、その後の低迷は長く長く続いています。
レバレッジ
ここで1つ興味深いバックテストです。オールウェザーPFの特徴は、
- 暴落に強い
- 安定した値動き
になります。そして暴落時を含めると、100%株式にわずかに劣るリターンとなっています。ということは、オールウェザーPFのボラティリティを増やしてあげて、その分リターンを上げたら、株式を上回るリターンを出してくれるのではないでしょうか?
そこで、組み入れETFをレバレッジETFに切り替えて、基の比率を変更せずにポートフォリオを作ってみました。
- SPY → SPXL (3倍レバレッジ)
- TLT → TMF (3倍レバレッジ)
残りの資産は、株と債券のレバレッジを反映させて、レバレッジ後の比率がオールウェザーPFと同等となるように調整しました。下記の「All Weather Leverage」にあるように、GLDとGSGは倍量に、IEFは28%に増量です。
さて、このパフォーマンスはどうだったか。青線が元のオールウェザーPF。赤線がレバレッジドオールウェザーPFです。当然といえば当然ですが、すべての期間でレバレッジが上回りました。S&P500の13.49%をも上回り、CAGRは15.53%に達しました。それでいて、ボラティリティは株式よりも低い数値を維持しています。ただし、シャープレシオはオールウェザーPFを下回りました。
ちょっとした好奇心で、簡単にレバレッジドオールウェザーPFを作ってみましたが、日々の値動きに3倍のレバレッジをかけるSPXLやTMFというETFでは、単純にリスク3倍、リターン3倍とはなりません。本来であれば、リスクパリティという考え方に沿って、レバレッジ後のリスクが各資産同等となるように、調整すべきでしょう。
また、上記は四半期に一回リバランスを行った結果であり、年1回のリバランスではこれほどよい結果は出ませんでした。バックテストではよくあることですが、過去のデータで最も良い数字が出るように運用方法を調整したわけで、これが本当に将来にも当てはまるかという疑問です。AIでいうオーバーフィッティングです。
リスクパリティ+レバレッジの「3倍3分法」
とはいえ、投資=株式とは考えず、さまざまな値動きの異なる資産を組み合わせることで、リスクが抑えられることがよく分かります。また、株式同様のリスクを取っていいのならば、レバレッジをかけることで、リターンを大幅に引き上げることもできます。この考え方は、国内では大人気となった「グローバル3倍3分法」ファンドでも実行されているものです。
ただ、グローバル3倍3分法の基準価格推移を見ると、残念ながらコロナショックでは大きく下落してしまい、さらに回復局面では回復しきっていないという推移です。金が入っておらず、超長期債ではなく10年債を使っていることが影響しているのでしょうか。対して、コロナショック直前にスタートした「グローバル5.5倍バランスファンド」では、コロナからの回復局面で大きく値を上げました。
発想は似ていますが、組み入れ資産によってけっこう異なるところが、アセットアロケーションの面白いところです。