FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

アルファ(α)から、リスクプレミアム+アノマリーのファクター投資へ

資産運用、特にアセットアロケーションの文脈でよく出てくるのが「アルファ(α)」です。これは市場平均(ベータ、β)に対して、それを上回る超過の収益を指す言葉です。

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それはアルファなのか、単なるリスクプレミアムなのか

アクティブファンドなど市場平均の超過収益を狙う場合、「市場平均をこれだけ超えた、アルファを獲得した」などということがあります。ところが、これはよくよく見ると、単に市場平均よりも多くのリスクを取った結果、リスクプレミアムが増加しているに過ぎない場合があります。

 

野村アセットマネジメントの中川慧氏の資料から、分かりやすい図がありました。

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旧来からのCAPMが指し示す世界では、市場平均をベータ、超過リターンをアルファとしています。ところが、これをもう少し分解すると、ベータ部分とリスクプレミアム、そして本来のアルファであるアノマリーに分解できることが分かります。

 

アクティブファンドなどで一見アルファを獲得できているように見えても、実際には市場平均よりも高いリスクを取っており、それが結果的に平均を超えるリターンを上げていることがあるというわけです。

 

このリスクプレミアムは内在しているものなので、過去のデータには現れていないものかもしれません。例えば、これまでボラティリティが低く、リスクが低いと考えられていた銘柄でも、大規模でリスキーな投資を始め、内在的にはリスクが上昇し、その結果、リスクプレミアムとしてリターンが得られた。そんなこともあるので、何がアルファで何がリスクプレミアムなのかの判別は難しくなっています。

マルチアセットでの最適ポートフォリオをどう考えるか

このことが特に問題になるのが、株式以外の資産も組み合わせたマルチアセットのポートフォリオを組む場合です。例えば、債券、金、不動産などと組み合わせたものですね。

 

現代ポートフォリオ理論では、時価総額加重平均をもって市場平均とします。株式の場合、市場平均を計算することが比較的容易ですが、債券や金、不動産などを含めた時価総額加重平均ポートフォリオを作ることは困難です。

 

さらに本来ならば、投資家自身が給料などで将来生み出すキャッシュについても、割り引いて時価評価した上で、組み入れるべきですが、これは実質的に不可能です。下記の記事のようにトライしてみたことはありますが、割引率をどうするかも含め、バラツキがすごいことになります。

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さらに、本当に時価総額加重平均が市場平均といえるのか? という問題もあります。

 

多くの学術論文によって、「(TOPIX などの)時価総額加重インデックスは効率的でない」ことが実証分析されてきた。 同時に、「より効率的なインデックスが存在する」ことも示唆されている。こうした中、新し いコンセプトの株式インデックスが、米国でアーノット氏ほかにより提案された。
この新しいコンセプトの背景には、「時価総額加重インデックスでは、割高な銘柄のウェイトが大きく、反対に割安な銘柄のウェイトが小さくなるため、割高・割安が修正される過程で、インデックスのリターン低下が不可避」という構造的な問題がある。

ニッセイ基礎研究所 金融研究部 井出 真吾氏のレポートより 

このように、時価総額加重平均をベータとするのではなく、例えばファンダメンタルズ価値などを加味して市場平均を計算する手法を、一般に「スマートベータ」と呼んでいます。

 

アルファを追い求めるのではなく、理論が指し示す市場平均は時価総額加重平均ではない。だから、改めて真の市場平均を定義することで、時価総額加重平均を超えるリターンを生み出せるはずだ。これが、スマートベータ指標で平均に打ち勝つことを目指すアクティブファンドの理屈です。

リターンの源泉を分類してみるというファクターの試み

マルチアセットのポートフォリオを組むとき、昨今のトレンドがファクター投資です。これは、株式以外の資産でも、そこから生まれるリターンには何らかの源泉があるはず。これをファクターと呼び、資産ごとにさまざまなファクターから生み出されるリターンの比率を検討しようというものです。

 

下記は再び野村アセットマネジメントの中川氏の資料からです。さまざまな資産(横軸)のリターンがどこ(ファクター)から生まれているかを、分類したものになります。

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例えば、株式のリターンの源泉は基本的に「Equity Factor」つまり経済成長によるものです。そして国債(Government Bond)のリターン源泉は「Interest rate」つまり金利によります。

 

さらに、社債(Corporate bond)のリターン源泉は、金利と経済成長の両方となります。金などの商品(Commodities)の場合、インフレ(Inflation)がリターン源泉です。

 

このように、マルチアセットのリターン源泉を、いくつかのファクターに分けて捉えることで、株式6:債券4のポートフォリオは最適なのか? と悩むことなく、経済成長ファクター6:金利ファクター4のポートフォリオを組む、と考えることができるようになります。

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確かに、商品ごとではなくリターンの源泉であるファクターに分解することで、複数の資産を組み合わせるときも、代表的な3つのファクターをどう組み合わせるかに集中でき、シンプルに考えることができるようになります。

 

極端な話、株式を全く組み込むことなく、ファクターの組み合わせで株式と同様の特性を持つポートフォリオを組み立てることだってできるわけです。

 

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年金基金はファクター投資へ。遅れる個人投資家

このファクター投資で有名なのは、先程の図にも出てきたスウェーデンの年金基金(ATP)です。ATPは複数の資産を組み合わせたポートフォリオを持っていますが、そのレポートでの資産配分は、次の通りです。

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株式ファクターが40〜44%、金利ファクターが34%、インフレファクターが14〜19%、そしてその他が7〜8%です。確かに、運用成績が何によって影響を受けるのかをたいへん分かりやすく説明しています。「経済成長は堅調だったが金利水準によって株価は影響を受け……」なんていう、言い訳じみた説明をしなくても、どんな要因がどんなリターンをもたらしたのかがはっきりと分かるわけです。

 

債券を何パーセント、金を何パーセント持つのかも、ファクターという観点で見れば、意図がすっきりと分かるようになります。

 

このように年金基金などでは増えてきているファクター投資ですが、まだまだ個人投資家には扱いづらいものになっています。ロボアドのTHEOがファクター投資を標榜しており、ATP同様に3つのファクターそれぞれにマザーポートフォリオを作成し、それぞれの比率を調整することで最適な資産配分を作り出す、といったことをやっているくらいです。

ポートフォリオ分析に使えるツールが全然ない日本

そもそも日本では、株式投資というと「何が上がるのか」「何が下がるのか」といった議論に終止することが多く、どのようなポートフォリオを組むことが最適か、といった議論を聞くこともほとんどありません。

 

そのためポートフォリオ構築ツールも、CAPMを前提とした時価総額加重平均を市場平均として、その上で効率的フロンティアの接線ポートフォリオである、平均分散ポートフォリオを提示するのがせいぜいです。米国のPortfolioVisualizerのように、自分の組んだポートフォリオが、どのくらいのリターン実績で、どのくらいのリスクがあって、ということを評価してくれるツールもありません。投資のためのツールというと、ファンダメンタルズ分析のためのものと、チャート分析のためのものに偏っているのが現状です。

 

個人投資家のレベルでは、精緻なポートフォリオを構成しても、どうせ実際とは違ってしまう。だいたいの形で、雰囲気で分散させておけばいい。こんな議論を聞くこともしばしばです。これは大枠、そんなに間違っていないのでしょうが、少なくとも自分がどのくらいのリスク水準を持ったポートフォリオを持っていて、どんなファクターが資産価値に影響を与えるのか。そのくらいは把握できるようなツールが欲しいものです。