前回、「ポイントの定義」や一般に「電子マネー」と呼ばれるものが、複数の法律によっていろいろな種類に分かれていることをまとめました。この中でも、厳しい規制がなく、自由度が高いのが「ポイント」です。そして、実は、いまやポイントは現金よりも価値が高いのではないか? と考えています。今回はそこを。
ポイントの振り返り
前回記事で、ポイントの特徴を解説しました。簡単にまとめると次のようになります。
- 現金で購入できない(購入できると前払式支払手段になってしまう)
- 価値が保全されない(失効したり倒産したらなくなったりする)
ところが、ポイントは支払いに使ったり、前払式支払手段(いわゆる電子マネー)にチャージしたり、投信や株式の買付に使えます。図にすると、こんな感じです。
それでは、ここからなぜポイントが現金より価値が高いと思うのか書いていきます。
ポイントは買えないが現金化できる
その自由度の高さや国への信頼感から、深く考えることなく、最も価値が高いのは現金だと考えがちです。そしてほとんどのものは、現金で購入できます。ところが、ことポイントについては、現金で購入できません。
もちろん、クレジットカードでモノを購入して現金で負債を決済すれば、1〜3%ほどのポイントを得ることはできます。しかしそれくらいの率でしかポイントを買うことはできません。
一方で、いまやポイントは現金化できます。この数年で、投信や株、仮想通貨の買付にポイントが利用できるようになりました。当然ながら、こうして買った有価証券は、売却すると現金が手に入ります。
ポイントは買うことはできないが、現金にはできる。ここは一方通行であり、希少価値という意味ではポイントのほうが価値があることが分かります。
現金化しなくても決済に利用できる
もともとのポイントは、特定の企業が自社の販促目的に発行しており、自社の製品やサービスを購入するときに割引用に使うものが普通でした。ヨドバシカメラのゴールドポイントカードや、航空会社のマイルなどが典型ですね。
ところが、もともとTSUTAYA専用のポイントだったTポイントが、他社でも貯まって割引にも使える共通ポイントとして拡大したあたりから、ポイントの位置付けが変わってきます。2016年には利用者が6000万人を超え、最大規模の共通ポイントとして君臨しました。
ポイントの価値は、使える場所が広がるにつれて拡大します。A社でしか使えないポイントは、どこでも使える現金に比べてかなりのディスカウントがされます。このあたりの肌感覚は、特定店舗専用の金券がヤフオクで何割引きで取引されているかを見ると分かります。特定地域のスーパー専用などだと半値近くになるわけです。
ところが、例えばQUOカードのように複数店舗で使える金券の場合、現金に対して95%くらいの価値で取引されてきます。同様に、ポイントも数多くの店舗で利用できるようになるにつれて、価値が増加してきました。
そして、2017年8月に楽天証券が楽天ポイントで投資信託を購入できるサービスを開始しました。2019年4月にはSBIネオモバイル証券が誕生し、Tポイントで株式投資が可能に。2019年7月には、SBI証券がTポイントを使って投信買付可能にし、その後、日興証券がフロッギーにてdポイントで株を買えるようにしたりと、ポイントはそのまま現金に変えることができるようになりました。
要は、特定の場所でしか使えない分、価値が低かったポイントは、共通ポイントの普及と有価証券の買付に使えるようになったことで、現金同様の価値になってきたということです。もちろん、有価証券を経由する手間があるので、その分のディスカウントはありますが。
ポイントには実質税金がかからない
株式などの売却益には20.315%の税金がかかるのはご存知のとおり。ではポイントの場合はどうでしょうか。ポイントを投信などの価値の変動に合わせて増減させるポイント運用というサービスを各社が提供しています。これは、例えばS&P500の増減に合わせて、預けたポイントが増えたり減ったりするというものです。
ところがこのとき、増えたポイントについて税金はどうなるのでしょうか? まず株と同じで運用中の増加分は含み益として課税対象ではないと考えられます。運用を終わらせて、普通のポイント戻したときに、増えていたら、その分に税金がかかることになるでしょう。一般に、この増えた分については一時所得となるとされています。一時所得の税金の計算式は、次のようになります。
- (利益 - 控除額)÷ 2 に対する総合課税(累進課税)
さてこの控除額が年間50万円もあるのですね。つまり、年間50万円まではいくら増えても、税金はかからないということになります。さらにそれを半分にして計算するので、税率は半分ということになります。
給与収入の課税所得と合算する総合課税だとはいえ、半分になるのですからはっきりいって非常に税率は低くなります。そして、サラリーマンの場合、給与外の課税利益20万円までは確定申告不要となっています。つまり、利益が90万円までは、50万円を引いて半分にするとちょうど20万円なので、申告不要だということです。年間90万円までは、無税にできます。
ただ2つほど注意点があります。まずポイントを使ってモノを買った場合は、割引とみなされ利益を得たという解釈になりません。つまり税金はかかりません。
ところが、次の2つの場合は、ポイントの所得や使用を一時所得に入れて計算する必要があります。
- 抽選キャンペーンなどで、臨時・偶発的に取得したポイント
- ポイントを使って株式などを購入した場合
実は一時所得に分類されるものはほかにもけっこうあって、最近だと「Go Toキャンペーン」各種で得たポイントは、割引とはみなされず、一時所得に入れる必要があります。※Go To トラベル事業 Q&A
そんなわけで、山のようにポイントを増やしてしまった場合は、50万/90万円を超える可能性も一応、あるわけです。
ポイントならではのプラス
もともとが顧客誘引の手段であったポイントは、現金とは違って派手なキャンペーンに使われることが増えています。例えば、定期的にdポイントは、「ほかのポイントからdポイントに変えると15%増量」なんてキャンペーンをやっていますし、Pontaポイントを使って投信を買うとポイント還元なんてキャンペーンもありました。
直近では、Vポイントからチャージすると20%増量なんてキャンペーンも実施中です。
こうしたキャペーンは、なかなか現金からのチャージや変換では行えないでしょう。景表法などのしばりもあるからです。でも、ポイントなら、やり放題。ほぼ現金に近い価値をもっているのに、マーケティングのために派手な還元まつりが繰り広げられるわけです。
最大のリスクは改悪、倒産だが
市場規模も2兆円を超え、これからも拡大が予想されるポイント市場ですが、もちろんリスクもあります。何の規制もないために、ポイントの価値が保全されないという点です。
具体的には、交換価値が企業の都合で変更になったり、有効期限が短くなったりということがあります。「ポイント 有効期限 変更」などで検索すれば、有効期限がいつの間にか短くなって失効するといった事例も出てきます。企業の都合によってどのようにもなってしまうわけです。
またもちろん発行企業が倒産すれば、ポイントの価値はゼロになってしまいます。前払式支払手段(電子マネー)のように、発行額の一部が外部に供託されているわけではなく、単にBS上で引当を積んでいるだけだからです。
とはいえ、ある程度メジャーなポイントシステムは極端な改悪は難しいだろうと考えています。例えば楽天は、グループの最大の価値は「楽天エコシステム」にあるとしています。これは要は楽天ポイントをベースにした経済圏であり、グループ内サービスを使うと楽天ポイントの還元率がアップすることを誘引として、顧客を引きつける仕組みです。このような中では、現在「1年以内にポイントを獲得すれば有効期限が延長される」となっている仕組みを改悪したり、1ポイント=1円相当というレートを変更することは、経済圏の崩壊を意味します。楽天ゴールドカードの還元率改悪程度でも、そこかしこからクレームがつくくらいで、根本的な改悪はあり得ません。
JALの例では、実質的に倒産し、100%減資を行って株主価値をゼロにしたのに、マイレージについてはそのまま有効とされました。ポイントシステムはマーケティングのキモになってきており、株主価値をゼロにしても、顧客に対してのポイントをゼロにすることは、企業が存続する上ではあり得ないということです。感覚的には、ポイント>借入>株主 という順序になってきていると考えています。もちろん、複数サービスにまたがる共通ポイントについてですが。
また、これまでのグループ内で閉じたポイントとは違い、PeXなどポイント交換ネットワークも広がってきました。楽天ポイントだけはグループ内で閉じていますが、マイナーなポイントは、他のポイントに簡単に変換できる仕組みが整ってきています。
そんなわけで、いまやポイントは現金よりも高い価値を持ちつつあります。キャンペーンの際に、「現金還元」よりも「ポイントで還元」のほうが喜ぶユーザーがけっこういることでも、それは分かります。入手が困難で流動性があり、キャンペーンなどで増加させられ、税制的にも優遇されている。これからますますポイントの重要性は増していくだろうと思っています。