FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

ポイントは現金より価値が高いかもしれない(1) 資金移動業者、前払式支払手段、ポイントの違い

「ポイ活」が話題になって久しいように、ポイントは生活に広く浸透してきました。でも、いったいポイントってなんでしょうか? どんな特徴があって、どんなメリットがあるのでしょうか。

ポイントの定義とは?

このところ、電子マネーやポイントなどが乱立しています。◯◯バリューだとか、◯◯キャッシュ、◯◯マネー、◯◯ポイントなどなど、1つのサービスの中でも様々ですね。なんでこのようにいろいろな種類があるのかというと、法律のためです。

 

これは基本的には「資金決済法」というもので定められています。大きく、次の3つがあると思えばいいでしょう。

  • 資金移動業の預り金
  • 前払式支払手段
  • ポイント

この3つは似た性質を持ちますが、ポイントが最も制約がゆるく、前払式支払手段、資金移動業となるに従って制約がきつくなっていきます。

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ポイントは「購入できない」

ポイントの最も簡単な定義は、「購入できない」ことです。資金決済法に次のような記載があります。基本的に「対価を得て発行される◯◯」は、前払式支払手段に当たってしまいます。

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そのため、キャンペーンの結果もらえるとか、買い物をしたらその3%が還元されるとか、そういうものはいわゆるポイントとして処理されます。繰り返しますが、「購入できない」のがポイントの最大の特徴です。

 

実は法的にはポイントは何も定義されていません。企業が勝手に発行するもので、前払式支払手段に当たらないもの、というのが敢えて言えば定義でしょうか。ただし、割引とかキャンペーンによってもらえるものなので、今度は「景品表示法」(景表法)の制約を受けます。

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景表法はこれまたややこしいのですが、次のような制限があります。

  • 抽選で当たるもの 最高10万円、総額は売り上げの2%
  • 複数事業者が共同で行う抽選 最高30万円、総額は売り上げの3%
  • 全員がもらえるもの 最大20%

あれ?最近50%還元とか70%還元とか見るよね?という疑問も当然わきますが、これは「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の下記、割引券に当たるために違法ではないという解釈ではないか?という見解が濃厚です。

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前払式支払手段は「出金できない」

続いて前払式支払手段です。これはいわゆる電子マネーで、SuicaやEdyなどのほか、PayPayマネーライトなどがあたります。この特徴は「払い戻しができない」ことにあります。つまり、銀行口座などに出金できないのです。

 

払い戻しができてしまったら、お金を預かって返すという、預金のようなことが実現できてしまいます。前払式支払手段は、その名前のとおり、何かサービスを受けるためのお金を前払いしておくための手段なので、基本は出金できません。

 

ただし、Suicaなど交通系電子マネーの場合は、例外的に解約すると払い出しが可能になっているようです。が、これはあくまで例外処理のようです。

 

出金できないことは悪いことだけではありません。例えばクレジットカードからチャージできるのは、前払式支払手段だからです。「クレジットカードのショッピング枠の現金化」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは、クレジットカードのショッピング枠を使って買い物をし、その買ったものを売却することで現金を手に入れるという手法です。これは多重債務者がサラ金などにそそのかされて悪用することが多く、多くはクレジットカード未払いでドロンするため問題になりました。このため、クレジットカード各社は規約で禁止しており、簡単に現金に替えられるものをクレジットカードで購入はできません。ここで「出金できない」という前払式支払手段の特徴が生きてきます。クレジットカードでチャージできるわけです。

 

さらに、アンチマネーロンダリング(AML)、テロ資金対策の面でもメリットがあります。違法に入手したお金を、合法的に扱えるお金に替えるのがマネーロンダリング、お金をテロ組織に渡さないようにするのがテロ資金対策です。いずれも、犯罪収益移転防止法(犯収法)と、テロ資金提供処罰法において、本人確認が必須とされています。

 

こちらも、出金できないという前払式支払手段のメリットが活きます。現金に替えられないので、きれいなお金にできないからです。そのため、前払式支払手段では、本人確認は必須ではありません。匿名で利用できるわけです。

出金も可能な資金移動業の預り金 

最後に最も制約が厳しいのが資金移動業の預り金です。もともと、AさんからBさんに送金する業務は、「為替」と呼ばれ、銀行しか扱うことができませんでした。ところが、資金決済法が施行され、資金移動業の登録を済ませることで、制限はあるものの、銀行以外でも送金が可能になったのです。

 

ところがこの資金移動業、AさんからBさんに送るには、いったんそのお金を預からなくてはいけません。「いずれは送るけど、しばらくは預かっておくよ」という考え方で、預かった状態になっているのが、この預り金です。制約はあるものの、銀行の預金のようなことができるわけです。

 

送金のためのものなので、銀行口座から入金でき、銀行口座に出金できます。その代わり、クレカ現金化の縛りでクレカからのチャージは不可。またAML、テロ資金対策のために本人確認が必須です。

 

コード決済各社は資金移動業の登録を済ませており、しつこく「本人確認してください」といってくるのは、これが理由なわけです。

 

ただし資金移動業をフル活用する事業者が出てきたことから、今年の改正資金決済法では少し縛りが強くなるようです。例えば、Kyashは預かり金に1%のポイントを付ける預金類似のサービスを提供しようとしましたが、直前になって撤回しました。2019年12月の金融審議会ワーキング・グループでは、資金移動業者が貸銀業の登録を受けて預り金を貸し付けると、銀行と同じように信用創造ができてしまうことが問題だという議論もされており、銀行との境目があいまいになっているのです。

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また、現在送金の上限額は100万円に制限されていますが、改正資金決済法では、業者を3つの類型に分けて、上限を無制限にもできるようになる見込みです。ただし、併せて、「総金額や送金日時等が明らかでない資金を受け入れてはならず、資金移動に必要とされる期間を超えて資金を滞留させてはならない」(51条の2)とされました。

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特に第一種の滞留制限は厳しく、「いつ、いくら」送るかを事前に把握しない資金は預かれないとなっています。また二種についても、これまでは預かれる金額に上限がありませんでしたが(Kyashなどは上限3000万円にしている)、100万円を超える預り金は、送金に利用することの確認が必要になり、送金に関係ない場合は出金が必要になるという規制が入ります。

 

これも、資金移動業を拡大解釈して銀行のようなことをしてはいけませんよ、という考えの1つでしょう。

預けたお金はどこまで保護されるのか

ポイント、前払式支払手段、資金移動業の預り金と3つについて見ましたが、これらは資金の保護についても条件が異なっています。

  • ポイント 企業側が引当金を積む
  • 前払式支払手段 発行額の2分の1以上を外部に供託
  • 資金移動業 発行額の100%以上を外部に供託

まず外部に供託というのは、法務局などの供託所にそのお金を預けるということです。そのため、もしサービス提供企業が倒産しても、お金は守られます。逆に、資金移動業者から見ると、預かったお金を貸し出したり自分で使ったりといいった、銀行のようなことはできないというわけです。

 

前払式支払手段では、1000万円以上の残高を超えた場合、2分の1以上を供託する必要があります。少し制限がゆるくなるというわけです。

 

そしてポイントについては、供託が不要です。基本的には、発行したポイントは将来使われて、そのときに付与した企業に費用が発生するものと考えます。つまり、将来の費用分として、引当金を負債として計上します。これについては、会計基準が定まっているわけではないようですが、企業会計原則注解注18の引当金を基準にしているようです。

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これはあくまで会計上の引当金なので、別に企業が現金でポイント分を口座に持っているわけではありません。ポイントを発行しまくっている企業は負債が膨れ上がるので、投資家から見たときにガバナンスが効くという感じですね。

 

また、将来使われるので引当金を積む、なので、例えば有効期限を設けるなどして、失効が見込まれる場合は、それに応じて引当金を減らすこともできます。過去実績で発行したポイントの半分しか使われなかったとなれば、引当金も半分でいいということですね。

 

いずれにせよ、ポイントについては企業が倒産したら保護されません。さらに、規制する法律もないので、突然利用できる範囲が変わったり、有効期限が設けられたりといったこともあり得ます。ただしポイントがここまで大きくなると、そう簡単にはナシにはできないでしょう。

 

倒産したけど、大規模なポイントは継承されたという例には、JALがあります。

一方、燃油や部品、備品など一般商取引や利用客のマイレージについては、支援機構がすでに保護を表明しており、JALの新しい会長兼最高経営責任者(CEO)には京セラ6971.Tの稲盛和夫名誉会長が内定している。

JALが更生法申請、支援機構傘下で再建へ=負債総額2兆3000億円超 | ロイター

 このとき、JALは100%減資、つまり株式の価値をゼロにしました。株主は大損害を蒙りましたが、それでもポイントであるマイレージについては保護したのです。

 

さて、法律の話でいっぱいで、「ポイントお得じゃん!」というところまでいかなかったので、この続きは次回に。

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