FIREを目指すときに気をつけなくてはいけないのは「お金の貯め過ぎ」です。え? と思う人もいるかもしれません。そもそもFIREできるだけお金を貯めることが問題。確かにそれはそうですね。でも順調に貯められたとしても、必要以上に貯めてしまうということも、けっこうあるのです。
その実態はどうなのか。いくつかのデータから考えてみました。
相続の実態 約8%が相続税を払っている
貯めたお金を使い切れずに配偶者や子供に残す相続。これ自体は別に無駄でもダメなことでもありません。でも、逆に見れば、必要以上にお金を貯めてしまったということでもあります。
FIREは経済的に独立して、自分の自由な時間を確保するために行うこと。もし数年早くFIREはできていれば、もっと自由な時間が、しかも若い内に手に入ったことになります。お金をできる限り貯めることが目的の人はともかくとして、FIREを目指すなら、貯めすぎてしまうのは矛盾しています。
ではいったい人はどのくらいのお金を残して死んでいるのでしょうか? 財務省のデータによると、2017年の1年間で亡くなった人は134万人。うち、相続税が発生した人は11万1728人にのぼります。全体の約8.1%ですね。法改正で相続税の控除額が引き下げられ、2014年まで4〜5%台だったのに、一気に8%まで増加しました。
相続対象となった額の合計は15兆5999億円。法改正前から倍増しており、バブル中の1991年〜93年の間を除くと過去最高額です。1人あたりに直すと平均で1億3962万円もの遺産が相続されていることになります。
ただしもちろんこれはよくある平均値のワナです。100億円超の遺産を残した人が16人もいて、20億円超の人も200人近くいます。この人たちが平均値を押し上げています。11万1728人の中央値、つまり5万5864番目の人の遺産額は5000万円以上1億円未満の中に含まれており、3億円までで92%、5億円までで97%を占めます。
そのほとんどは5000万円〜1億円の間の数字だということです。ただし、これはもちろん相続税が発生した場合のこと。相続税は「3000万円+ 600万 ✕ 相続人の数」を超えた額に対して発生するので、少なくとも資産が3600万円を超えなければ相続税はかからないからです。配偶者と子供が複数いる場合、5000万円を超えてもほぼかかりません。ちなみに、遺産を相続した人数の平均は2.81人となっています。
※相続税はいくらからかかる?「相続人の数」と「遺産総額」から簡単判定!
しかも多くの場合、生命保険があります。生命保険の控除額は別途、500万円✕ 相続人です。配偶者と子供2人なら、1500万円までは無税なので、相続税の基礎控除と合わせて、4800万+1500万の6300万円までは相続税がかからないことになります。
相続税がかからないものも含めた遺産額
では財務省のデータに現れない、だいたい5000万〜6000万円以下の遺産の人も含めた実態はどうなのでしょうか。フィデリティが行った、遺産を受けとった5000人に対する調査(PDF)によると、次のようになっています。
2012年のデータでは中央値で863万円、2016年が1087万円です。それぞれ平均値では3000万円超に跳ね上がっており、ここでも平均値のワナが顔を出しています。
ちなみに、中央値や平均値ではなく階級ごとの金額で見ると、それなりにバラけていることも分かります。これは階級の取り方がうまいともいえますが、受け取った遺産が5000万以上の人と、200万以下の人が同じというのも、なんともいえないものがありますね。
ただしこれは受け取った側へのアンケートです。相続した側の人数の平均は2.81人なので、残された遺産の額は2.81倍ということになります。というわけで、残された遺産の額の中央値と平均値がどうなるのか、単純に2.81倍して出してみました。
平均値は1億円に近づき、中央値は2400万/3000万です。このあたりが、死んだときに遺した資産の相場ということなのでしょう。
遺した資産の内訳
では、中央値で3000万円、平均値で1億円の死亡時資産の内訳はどうなっているのでしょうか。同じくフィデリティの調査によると、そのほとんどは預貯金、保険金、不動産です。
保険好きの日本人ですから、1500万円くらいの生命保険にはきっと入っているのでしょう。そしてマイホーム信仰から不動産に資産が偏っていることが伺えます。それぞれの資産ごとに、いくらくらいの資産を受け取ったのかも見てみましょう。こちらは相続額です。
現金預貯金と保険金を合わせた遺産の中央値が585万でしかないことが目を引きます。また、自社株を相続した人は全体の3%でしかありませんが、その額が大きいことも分かります。株式については、18〜19%の人しか相続で受け取っておらず、しかも額も中央値で500〜1000万円と小さいですね。やはりメインは不動産で、32〜33%の人が、中央値で1700万円程度の不動産を相続しています。
保険についてもう少し見てみましょう。生命保険文化センターの調査によると、60歳代でも82.7%が生命保険に加入しており、世帯年収別で見ると700万円以上の世帯は保障額1500万円以上の保険に入っています。これを踏まえると、預貯金で相続というのは僅かな額なのかもしれません。
死亡時資産のイメージ
これらのデータを踏まえると、死んだときに遺した遺産はどのようなものなのでしょうか。中央値としての金額は3000万円だとしても、平均的な内訳のイメージはこんな感じでしょうか(中央値を元に計算)。
現預金+保険金が1152万円ですが、これはほぼ生命保険金だともいえます。そして4割が不動産。ほぼ自宅という感じでしょう。そして、株式などの遺産は417万円。これは多いか少ないかでいえば、少ないですね。
というわけで、当初は「え? 3000万円も残して死ぬなんて、貯めすぎ、残しすぎじゃん!」と思って調べ始めたのですが、構成比などを見ていくと、実はいい感じに資産を使い、最後は自宅と生命保険を残して死んでいる様子が見えてきました。
逆にいえば、不動産については最近リバースモーゲージローンも増加してきています。これは、自宅を担保にお金を借りられて、死んだら自宅を手放せば借金がチャラになるという金融商品です。同居する家族がいないなら、不動産を遺すだけでなく、生前にお金に替えてしまうということもできるわけです。
それにしても、うまいことコントロールして、死ぬときにちょうど資産がゼロになるようにしたいものです。