ここ数日、株価下落の要因として長期金利の上昇がいわれています。では、長期金利が上昇するとなぜ株価が下がって、どんな影響があるのでしょうか?
長期金利が1.6%まで上昇
25日の金融市場で、米国債10年もの利回りが10ベーシスポイント(bp)も上昇し、2月に入ってから40bpも上昇しました。利回りは一時1.6%に達し、このショックによって、グロース株を中心に株価が下がりました。
まず前提として、長期金利というのは10年国債の利回りのことを指します。国債価格が100ドルとして毎年1ドルの利息が付くなら、利回りは1%です。逆にいうと、1ドルの利息がもらえる国債に、いくらの値段が付くか? というのが利回を意味します。
100ドルで売買されるなら利回りは1%、66.6ドルで売買されるなら利回りは1.5%になります。つまり、長期金利上昇というのは、「10年国債が大きく売られた」ということと同義です。
下記は米10年国債のETFであるIEFのチャートです。2020年に入ってコロナショックから価格は急上昇しました(利回り=長期金利は低下)。それが8月くらいからじりじりと価格が下落(利回り=長期金利は上昇)し、3月末に急落していることが分かります。
下記は米10年国債の利回りです。当然ですが、国債価格の逆になっていることがよく分かります。つまり、長期金利とは長期債(10年もの)の価格の裏返しなわけです。
なぜ長期金利が上昇したのか?
ではなぜ長期金利が上昇したのでしょうか。株価変動の要因がいろいろあるように、債券価格変動の要因もさまざまです。それでも、よくいわれている仮説が次のようなものになります。
まずコロナ禍で各国は大規模な財政出動に乗り出しました。補助金を配りまくり、短期金利を下げ、マネーの供給量も急激に増加させました。世にマネーがあふれると、それはいずれインフレを招きます。モノの総量が変わらないのに、それを値付けするマネーが増えるなら、マネーの価値は当然下がるわけです。
インフレが起きるとどうなるか。例えば1%のインフレが起きているときに、国債で1%の利息をもらっても、インフレで帳消しになってしまい、実質的な利益は得られません。つまり、国債の買い手は、インフレに対して追加の利回りを求めるわけです。
しかも長期債は10年間に渡ってその利回りが固定されています。直近のインフレだけではなく、今後10年に渡るインフレの状況に対して追加の利回りを求めて価格が決まることになります。今後、インフレ率が2%になることが見込まれるなら、国債の利回りも2%以上を求めますし、インフレ3%なら4%の利回りを要求することになります。つまり、期待インフレ率は国債利回りに大きく影響するわけです。
もう1つが、実需による金利上昇です。企業は景気が上向くと考えれば、借り入れを行って設備投資を行い事業を拡大させます。そう考える企業が多ければ、需要と供給の関係から、銀行は高い利率で貸し出すことが可能になります。つまり、資金需要の増加が金利を上昇させるわけです。
これも直近というよりも、将来の資金需要の増加=金利上昇を盛り込んで、長期金利=10年国債価格が決まっていくわけです。現在は、急速に経済が回復する途上にあり、自動車などは生産が追いつかないほどの販売ペースとなっています。半導体もそうですね。こうした産業需要から、近々金利が上昇することが期待され、それを織り込んで長期金利が上昇、つまり国債価格が下落したと考えられます。
この1カ月で長期債利回りは0.45%(45bp)上昇しましたが、その内訳は次のようになっています(三井住友DSレポート)。45bpのうち、42bpは実需による実質金利によるもので、期待インフレ率によるものは3bpにとどまっています。
ちなみに期待インフレ率は、物価連動債の価格から割り出されています。物価連動債はインフレ連動債とも呼ばれ、TIPSという名称で知られています。これは、インフレにともなって元本が調整され、インフレが進むと元本も増加するという債券です。インフレが起きても実質価値が減らないということで、米国でインフレヘッジのための商品としてよく使われます。
逆にいうと、TIPSの価格を見れば、TIPSを取引している人たちがどのくらいの期待インフレ率を想定しているかが分かることになるわけです。
長期金利が上昇すると起こること
では長期金利の上昇は何をもたらすのでしょうか。大きく3つのことが考えられます。
1つはグロース株の価格下落です。グロース株は将来の成長を織り込んで株価が決まっていますが、このとき将来価値は長期金利で割り引いて足し合わせる=DCFことで、現在価値を算出しているからです。長期金利上昇は将来利益の現在価値を下げるため、株価も下落します。
2つ目は長期的な株価上昇です。先に見たように、今回の債券下落=金利上昇は、インフレ懸念というよりも資金需要の増大による実需金利の少々を背景にしています。つまり、コロナで生産を絞っていた製造業が、これから息を吹き返して業績拡大モードに入るということを、債券市場関係者は予想していることになります。一時的にショックとなり株価は下落しましたが、次第に業績に連動して株価が戻ってくることが期待されます。
3つ目は債券の利回り上昇による魅力増加です。コロナショックによって債券価格は急上昇し、金利水準が低下しました。債券投資家にとって、価格が高くて低利回りというのは魅力のない商品だったわけですが、今回の金利急上昇によって、そこそこ債券価格が落ちた=利回りが上昇した ことになります。
下記は10年債金利の5年チャートですが、コロナで急落したのち徐々に上昇して、コロナ前の水準に近づこうとしています。株式の価格が上昇し、PERでいうと割高な水準になってきていますが、長期金利の上昇により、債券は株に比べると割安という水準に近づいています。
となると、今度は債券を買う投資家も出てくるはずで、それは今度は長期金利の下落圧力となります。
一時的なショックか?
というわけで、所感としては今回の株価下落は、急激な長期金利上昇に伴うショックであり、その背景にあるのは景気の回復と製造業の業績回復期待です。現時点では、インフレ懸念が上昇したわけではありません。株価にとっては総合的にポジティブだと見ることもできるでしょう。
いったん下落した株価ではありますが、落ち着きを取り戻すと見ています。ただし、低金利に支えられたグロース株にとっては厳しく、製造業などバリュー株が景気回復期待で買われる動きになるのではないかと踏んでいます。
この5日間のチャートを見ると、ハイテク=グロース銘柄の多いNASDAQ(青線)が大きく下げる一方で、製造業も多いダウ工業株平均はわずかな下落にとどまっています。
そんなわけで、金利の動きには注目しつつ、ポジションは変更せずにホールド継続です。