そもそも債券ってどんな特性を持っているんだっけ?という話から、重要なパラメータであるデュレーション、スプレッド、イールドカーブなどをチェックしてきました。それぞれのパラメータがどのような意味なのかを確認し終わったので、では実際の債券ETFについてみていきます。
過去の債券ETF記事
- 過去の債券ETF記事
- 代表的な9つの債券ETF
- 格付けとスプレッドの関係
- ベータと格付けの関係
- 株価と債券の値動き
- 長期国債、ハイイールド債、新興国債のパフォーマンス
- モーゲージ債と適格社債
- 総合債券AGGの魅力
- 債券の特徴のまとめ
代表的な9つの債券ETF
今回見ていくのは、代表的な債券ETFだと考える9種類です。国債から社債までいろいろあります。
下から、国債は米国債と新興国債券に別れます。米国債は、短期国債、中期国債、長期国債となります。一口に国債といっても、これだけ種類があって、EMBは国債といっても新興国なのでデフォルトリスクがあり、その分利回りが高い(スプレッドが大きい)ものになっています。
国債は満期までの期間の違いによってデュレーションが変わり、金利変化の影響度合いが異なります。また、イールドカーブがスティープならば長期のほうが利回りが大きく、またロールダウン効果も受けることができます。
中央の住宅は、住宅ローンを証券化したものですが、政府系金融機関が保障しているので、実質的に国債のようなものです。信用リスクはありません。一方で、繰り上げ返済可能なコール条項が付いているのがこの債券の特徴です。これによって、コンベキシティはネガティブになり金利変動に弱く、コール条項によるオプション調整後のスプレッドがプラスに発生します。
社債は企業への融資を証券化したものです。これは格付けBBB以上(BBBとA、AA、AAA)の投資適格な社債と、BB以下の不適格社債に分かれます。不適格社債は一般にハイイールド債やジャンク債と呼ばれますね。格付けが違うということは、それはそのままスプレッドの違いに現れます。
最後が、総合債券と呼ばれるAGGやBNDです。これは、投資適格債券の中から、米国債、モーゲージ債、社債を組み合わせたものになります。国債がだいたい4割、モーゲージ債が3割、社債が3割といった比率ですね。
格付けは7割がAAA、残存年数は短期から超長期まで広く分散されています。
格付けとスプレッドの関係
それでは各債券ETFの特徴を数字で見ていきます。
まずスプレッドとは上乗せ金利であり、信用リスクが高いほどスプレッドは大きくなります。信用リスクとは破綻リスク、デフォルトリスクであり、これは格付けで表されますね。各ETFの格付けとスプレッドのグラフが下記になります。
だいたいきれいに並びました。格付けは、AAAを10、AAを9として、各ETFの加重平均を数値化したものです。MBBについてはコール条項によるスプレッドが少々載っていますが、それ以外は、だいたい格付けが悪化するにつれてスプレッドが大きくなることが分かります。
スプレッドは上乗せ金利ですから、スプレッドが大きいほど利回りも上がるはずです。こちらも念の為確認してみます。
こちらもきれいに並びました。スプレッドがほぼゼロなのに、SHY、IEF、TLTの利回りが異なるのは、満期までの期間が違うため、イールドカーブの形状から、長期国債のほうが利回りが高いからですね。
ここから分かるのは、破綻リスクが大きいほど、利回りも上昇するという、まぁ当たり前の話です。
ベータと格付けの関係
もうひとつ、ベータと格付けの関係を見てみましょう。ベータとは、株式市場との相関を示す値で、株価が上昇したときに価格が上がる場合はベータがプラスになります。ベータ1は、株式市場と完全に連動していることを指し、0は全く無関係に動く、マイナス1は、株式市場と完全に逆の動きをすることを意味します。
これを見ると、格付けが高いほど株式市場とは逆相関の動きとなり、格付けが下がると株式市場と連動した動きになることが分かります。株価が下がるということは景気が悪化するときで、それはつまり業績が悪化し、返済できなくなるリスクが高まるということを意味します。
よく、債券は株式と逆の動きをする安全資産などと言われますが、それは格付けがAAAの米国債などに限った話であり、社債や新興国債券は株式と似たような動きをするということが分かります。また、満期までの期間が長いほど、逆相関が大きくなることも分かります。株価下落時は金融緩和が行われ、金利が低下しますが、金利低下の価格への影響は満期までの期間(≒デュレーション)が長いほど大きいからですね。
株価と債券の値動き
ではこのベータ値から、実際の市場で株価が上下したときに、債券価格がどう動いたか、満期期間の異なる3つの国債ETF(SHY、IEF、TLT)について見てみます。下記は配当再投資なしの価格推移(対数グラフ)です。
緑のS&P500の値動きに対して、債券価格が逆に動いていることが分かります。2009年の金融危機の際には、目に見える形で債券価格が上昇していますね。直近のコロナショックでも、債券価格が大きく上昇しているのが分かります。
年間リターンの比較を見ると、その傾向がもっとよく分かります。緑のS&P500が大きなリターンを上げているときは債券リターンは小さく、逆に株式がマイナスのときは、債券が大きなリターンを出しました。
ちなみに、配当を再投資に回した場合、株式ほどではありませんが、しっかりとリターンを出すのが債券の面白いところです。年平均リターン(CAGR)でいうと、この期間、S&P500が9.54%だったのに対し、TLTは7.29%のリターンを上げています。
長期国債、ハイイールド債、新興国債のパフォーマンス
国債の状況がある程度把握できたので、今度は格付けが低い代わりにスプレッドが大きい、ハイイールド債(HYG)と新興国債(EMB)を入れて、パフォーマンスを比較してみましょう。期間はちょっと変わり金融危機直前からの2008年スタートです(配当再投資)。
信用リスクの高い債券も、株式よりは安定しており、2015年くらいまでは株式同様のパフォーマンスだったことが分かります。この期間、株式(S&P500)のCAGRが8.31%だったのに対し、TLTは7.85%、HYGは5.03%、EMBは5.65%のリターンでした。
モーゲージ債と適格社債
今度は、中期国債(IEF)とモーゲージ債(MBB)、適格社債(LQD)で見てみます(配当再投資)。
注目すべきは、CAGRは3.62%と低いながらもボラティリティが低く、ドローダウンも小さいモーゲージ債(MBB)でしょう。デュレーションは2年を切っており、金利変動の影響をほとんど受けない上に、コール条項によるスプレッドの上乗せで、短期国債のSHYに比べて利回りが1%近く高いのが特徴です。シャープレシオが1.13と抜群によく、ソルティノレシオは2.2という素晴らしい数字です。
適格社債のLQDは、株価が好調な局面では、中期債をリターンで上回るのも分かります。実はこの期間で比べると、ハイイールド債(HYG)よりも、適格社債(LQD)のほうがリターンが大きくなっており、必ずしも信用リスクを取ったほうがリターンが大きいわけではないことも分かります。
総合債券AGGの魅力
さて、総合債券ETFのAGGは、デュレーションこそ5.82年と少々長めですが、国債4割、モーゲージ3割、社債3割とバランスよく含まれていることが特徴でした。このように債券の中でポートフォリオを組むことのメリットは、ちゃんと数字に現れています。
短期国債のSHYが、ほぼ横ばいなのに対して、モーゲージ債のMBBはしっかりリターンを積み増しており、AGGはさらにそこにプラスが乗っていることが分かります。MBBのCAGR3.62%に対し、AGGは4.29%です。
ちなみにこれは配当再投資の効果によるもので、もし配当再投資をしなければ、リターンは0〜1%台、インフレを加味するとリターンはマイナスになってしまっていることには注意が必要です。下記は、配当再投資なし、インフレ調整済みの対数グラフになります。
債券の特徴のまとめ
異なった特徴を持つ代表的な債券ETFを見てきました。これらから、債券ETFの方向性は3つあると考えています。
1つは株式と組み合わせてポートフォリオを作り、株価下落時にしっかり上昇する国債を組み合わせる方法です。これは単にクッションとなるだけでなく、分散理論からいうと、リターン/リスク比を引き上げます。ETFでいうと、中期国債(IEF)や超長期国債(TLT)があたります。
2つ目は、資産の保全を目指し、値動きが小さく、そして配当を加味すればインフレに負けない運用を続けるというものです。これはモーゲージ債(MBB)が適していて、さらに安全を求めるなら短期国債(SHY)になります。
3つ目は、高いインカムリターンを狙うための債券です。信用リスクを取り、その代わり5%以上の配当を狙います。債券は高配当株とは違い、キャピタルゲインとインカムゲインの出本が別ですので、変なトレードオフにもなりません。HYG/JNKのようなハイイールド債や、EMBのような新興国債券が当たるでしょう。投資適格社債のLQD/USIGも選択肢です。
それぞれのパフォーマンスを最後に見てみましょう。配当再投資後の対数グラフです。
ひたすら安定しているMBB、株式同様に下落するが着実にリターンを積み上げるHYG、変動は大きいものの株価と逆に動くTLT。それぞれの特徴がよくわかります。なお、配当を見ると、やはりハイイールド債が飛び抜けていることも分かります。
よく、いろいろな資産クラスの中で最も期待リターンが高いのは株式だから、株式インデックス100%で構わない、という話があります。これ自体はそのとおりですが、期待リターンは平均リターンであり、リターンの中央値や最頻値ではないことに注意が必要です。そして、このズレはリスク=ボラティリティが高いほど大きくなります。
株式ポートフォリオにうまく債券を組み合わせることで、わずかにリターンは落ちるものの、リスクを押さえ、リターンの実現確率も高くできるのではないでしょうか。