FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

投資の唯一のフリーランチ「分散」はなぜ浸透しないのか

投資に関する研究は現在も進んでいますが、理論的また実践的に明らかになってきたことは、「投資にただ飯(フリーランチ)はない」ということです。「There ain't no such thing as a free lunch」(無料の昼食なんてない)という英語の格言で有名なフリーランチは、対価なしに無料で手に入れられるものなんてないという意味です。

 

ところが、唯一、投資理論が示す「フリーランチ」があります。それが「分散」です。

リターンを減らさずリスクだけを減らす唯一の方法

分散とは文字通り、たった1つの投資対象ではなく複数の投資対象を組み合わせること。これ自体はよく言われることであり、「卵を一つのカゴに盛るな」といった格言でもいわれています。

 

しかしなぜ分散が「フリーランチ」なのかといえば、それが数学的にリターンを減らさずにリスクをだけを減らす唯一の方法だからです。どういう意味かを、具体的な数字を元に解説したのが下記の記事です。

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 簡単にエッセンスだけを端折ると、次のようになります。

  • 互いに値動きが連動していない複数の資産を持つと、リターンは平均となり、リスクは平均以上に減る

 もちろんここでいうリスクとは、値動きの変動の激しさであり、ボラティリティと呼ばれるものです。

 

まっとうな金融理論を学んだ人なら、「リターンとはリスクプレミアムである」というはずです*1。リスクを取った代わりに得られるものがリターン。リスクなしではリターンなし。高いリターンを求めるならリスクも高くなる。いろいろな意味が含まれますが、リターンとリスクは切り離せないということです。

 

にもかかわらず、唯一分散だけがリターンを減らすことなくリスクを減らせるのです。まさにフリーランチと言えるでしょう。

広まったインデックス投資

そんなわけで、ロジカルに投資のリターンを求める人であれば、投資先であるポートフォリオはできるだけ分散を効かせるはずです。1つの銘柄に集中投資するよりは、複数の銘柄に投資したほうがリスクあたりのリターンは上がります。10個の銘柄よりはインデックスのほうが銘柄個々のリスクを消し去れます。

 

投資理論は、銘柄個別が持つリスクはリスクプレミアムを持たないとされており*2、その観点でいえば、インデックスを持つのが理にかなっています。もし、インデックスの期待リターンでは物足りないということなら、レバレッジをかければいいということになります*3

 

ここまでは、多くの人が「そうだよね」と賛同してくれるでしょう。ものすごい目利き力を持った一握りの人を除けば、個別株を選んで買うよりもインデックスを買ったほうがリターンが大きい。別の言い方をすれば、個別株を買った人の半分以上は平均であるインデックスに負けてしまうのです。

 

この10年ほどで、「インデックス投資」は一般に広がりました。金融庁のつみたてNISAが基本的にインデックスしか認めていないこともありますし、低コストインデックス商品が登場してきたこともそうです。ロボアドなどが、分散投資の利点をアピールしてきたこともあるでしょう。

 

ところが、株式インデックス投資で止まってしまっているのが現状でもあるのです。

株式以外へも分散

分散は、互いに連動しない、つまり相関が低い投資先を組み合わせるほど効果が上がります。であれば、本来は株式インデックスと相関の低い商品を組み合わせることで、さらにリスクあたりのリターンを上昇させられるはずです。

 

実際、GPIFに限らず長期投資を基本とする世界の年金基金などは、株式インデックス単体ではなく債券などの資産を組み合わせてポートフォリオを組んでいます。いわゆるマルチアセット分散です。

 

しかし、これまでの個人向け投資商品は、マルチアセットポートフォリオを組むのが難しかったのが実際です。個別株は買える、株式インデックスも増えてきた。しかし、株式以外の資産クラスはどうでしょうか。

 

日本国債は低金利政策とイールドカーブコントロールで歪んでしまっています。そもそも期待リターンは1%ちょっとしかなく、これを資産に多く入れ込むと、レバレッジなしではかなりリターンが減少します。そして国債のレバレッジのオペレーションは個人にはそんなに簡単ではありません。

 

少し前に話題に上がった「グローバル3倍3分法」は、株式インデックスにレバレッジを掛けた世界債券を組み合わせたバランスファンドで、ぼくはこれを結構評価しています。自身では保有していませんが、インデックスが普及した次はマルチアセットに行くべきだという考えと、個人には難しい債券のレバレッジ運用を組み合わせているところが画期的です。

 

さてJ−REITもそれなりの規模になってきましたが、まだ米国ほどの成熟には至っていません。社債についてはハイイールド債のマーケットもなく、資産分散の意味合いで買えるメジャーな商品は見当たりません。コモディティも金以外は、投信でもほとんど選択肢がない状態です。

 

そんな中、米国株式が流行し、ネット証券などで米国株式が簡単に買えるようになったのは朗報でした。米国株であれば、REITも債券もコモディティも、ETFを通じて全世界に分散投資できるようになったからです。

株式と連動しない資産が重要だ

このように、米国市場を通じて、さまざまな資産が購入できるようになり、マルチアセット分散が可能になってきました。しかし別の問題も起こっています。それはETF化された資産の多くが、似たような値動きになってしまったということです。

 

本来株式と債券は逆相関の関係にあって、株が上がれば債券が下がり、株が下がれば債券が上がるはずですが、2021年に入ってからは、同じ方向に動くようになってきています。つまり相関係数がプラスになってしまっているのです。

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こうした中では、分散効果は働きません。最も高い分散効果を得られるのは2つの資産が逆相関しているときであり、順相関していては分散にならないからです。ちなみにREITや社債も米国株と順相関しており、これらもダメです。

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となると、株式と逆相関しないまでも、相関ゼロ、つまり独立した値動きの資産クラスを組み込むことが、ポートフォリオのリスク低減に役立ちます。それは何か。一つはやはり仮想通貨です。下記のように、21年に入ってから、Bitcoinは株式(S&P500)との相関がほぼゼロに近づいています。さらに金との相関も低くなっています。

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ビットコイン、株との相関弱まる──デジタル資産の存在感強める【 レビュー】 | coindesk JAPAN | コインデスク・ジャパン


仮想通貨否定派の言い分はいろいろとありますが、マルチアセット分散の観点では、株式などと相関しない資産をポートフォリオに組み込むことは分散効果を得るために重要な点で、だからこそ機関投資家も仮想通貨をポートフォリオの一部に組み入れ始めているわけです。

ヘッジファンド的な資産クラス

ちなみに株式と相関しない別の資産クラスでいえば、マーケットニュートラル型の投資信託も選択肢になります。これは同じ資産クラスの中でロングとショートを合わせて持つことで、市場変動の影響をゼロにし、別の要素によってリターンを得ようという戦略です。これまで主にヘッジファンドが取ってきた方法ですが、いまは個人投資家にも提供され始めています。

 

先日マネーフォワードと資本業務提携を行った新型のロボアド「SUSTEN」のGreenファンドなどがそうですね。こちらはロング・ショート戦略を用い、株式市場との連動性を消し去った上で、モメンタム、バリュー、キャリー、ボラティリティ、スキューなどのオルタナティブリスクプレミアム(ARP、いわゆるアノマリ)によるリターンを得るというファンドです。

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ヘッジファンド的な運用手法にもかかわらず、手数料は完全成果報型。統計的に見た料率は年率0.45%と、なかなかに良心的です。

 

このように、投資理論が指し示す唯一のフリーランチである分散は、投資において誰もが認める魔法の杖です。株式分散であるインデックスまでは、多くの人がやってきました。このあとは、いかにマルチアセットへの分散に進めるか。また個人投資家が組み込むに値する商品が登場するか。そうしたところに期待したいと思います。

 

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*1:もちろん、アルファを見つけたという人もいるとは思いますが、フレンチファーマの3ファクターなどのアノマリは、当初はアルファと見られていましたが、手法が複製可能であることもあり、現在はオルタナティブリスクプレミアムと言われることが多いようです。

*2:分散することで消すことができるリスクは、リスクプレミアムを持たない

*3:実際にはレバレッジには制約もあり金利もかかるので、必ずしも理論通りにはいきません。これがCAPMが仮定する前提の穴だったりもします