2024年から始まる新NISA。これまでのNISA/つみたてNISAに比べ、非課税期間が恒久化され、枠も合計最大1800万円になるなど、投資家に有利な形で変更になりました。一方、売却すると翌年枠が復活するなど、複雑なところもあります。今回は新NISAを最大限活用する方法を検討していきます。
特定口座で含み益があっても売却して新NISAに乗り換える?
さて、新NISAでよく悩むポイントが、新NISAで新たに投資できる資金がない場合です。そんなとき、特定口座で保有している株を売って、新NISAで買い替えていいのか? という疑問があります。端的に答えを言えば「基本的に新NISAで買い替えたほうがいい」となります。
着目点は税金です。というのも、特定口座と新NISAの違いは課税されるかどうかだからです。
まず特定口座で保有している商品に、含み益も含み損もない場合です。これは売却しても税金は発生しないので、売却して新NISAで買い直しても何も問題ありません。これはわかりやすいと思います。
続いて含み益のある場合です。含み益のある銘柄を売却すると、その時点で20.315%の税金が発生してしまう。つまり100万円の価値がある保有商品があったとき、特定口座のまま持っていれば100万円を運用できるのに、新NISAに乗り換えると払った税金の分だけ運用額が減ってしまうという問題です。
この問題は含み益に対していつ課税するのが正解かを検討することで解が出ます。今課税して残りを非課税で運用するか、課税を先送りして最後に課税するか。図にするとこうなります。
図にするとこんな感じ。特定口座のまま運用すると、最終的に含み益にも含み益に対する複利増加分にも元本の複利増加分にも税金がかかります。ところが売却してNISAに移した場合、まず含み益部分に税金がかかり、含み益が減少します。そのため含み益が生むはずの複利増加もそれだけ減少するわけです。どのくらい減少するかというと、最終的に取られる税金と同じ。
つまり、特定口座で運用し続けるのと、いったん売却してNISAに移すのの差は、元本部分の含み益に対する課税があるかないかという一点になるわけです。
数式でも考える
少し厳密に数式でも考えてみましょう。まず、現状のポジションの元本をG、含み益をPと置きます。いずれも複利で運用されていきます。ちなみに複利運用というのは(1+r)^n。r=リターン、n=年数というものですね。
特定口座で持ち続けた場合、GもPも複利運用されますが、最終的に複利運用後のPおよび、複利運用後Gの含み益に課税されます。いったん売却してNISA口座に置き換えた場合、最初にPに課税されますが、その後の課税はありません。
つまり、この2種類の利益は次のように表されます。
- 特定口座継続:G複利運用+P複利運用-(G複利運用+P複利運用−G)*税率
- NISA乗り換え:G複利運用+P複利運用*(1-税率)
この2つの差を計算すると、NISAに乗り換えたほうがお得な額は、(G複利運用−G)*税率、つまり元本の複利運用益*税率になります。つまり、含み益がいくらであろうと今後のリターンがプラスである限り、特定口座を売却してNISAで買い直したほうが得だということになります。どのくらい得かというと、元本部分の運用益×20.315%です。
ちゃんとした数式でみたい人はなまずんさんの記事に数式があります。また直感的に理解したい場合は「特定口座で運用し続けると、払う税金の額も複利で増えていく」と考えると分かりやすいでしょう。
現金で埋められる人は、現金で埋めたほうが得
ただ1点注意点があって、特定口座を取り崩さなくても現金でNISA口座枠1800万円を埋められる人は、現金で埋めたほうが得です。そりゃそうですね。享受できるNISA口座の非課税メリットは両方とも同じですが、特定口座を取り崩すと含み益に課税されてしまうからです。
先程の絵に現金でNISAで買った場合の図を追加するとこうなります。課税ポイントが全くないわけで、そりゃ一番お得です。
「現金で埋められる」は、今現金を持っている人だけを指すわけではなく、今後入金力で埋めていくという人も含みます。そのため1800万円を超えても入金で投資額を増やしていく場合も、特定口座を残しておくほうがメリットがある場合があります。その点は注意が必要かもしれません。
というわけで、特定口座を取り崩さないと新NISA枠が埋められない人は、含み益があっても取り崩したほうが得ということになります。
含み損がある特定口座から新NISAに乗り換える?
続いては含み損がある場合です。もし含み損を他の利益と損益通算できるなら、税金がかからないどころか税金を減らすことができます。これができるなら、積極的に特定口座を売却して、NISA口座で買い直すべきです。いわば、マイナスの税金を払うことになるからです。
では損益通算できないなら? その場合、少々複雑です。というのもNISAのメリットは利益に税金がかからないことですが、含み損のポジションは資産が増加しても、購入時価格を超えるまでは税金がかからないからです。つまり、含み益が生まれるまでは特定口座で持っていてもNISA口座で持っていても同じ。ということは、含み損が解消されて含み損益なしになったタイミングで売却してNISA口座に移すのでもよさそうです。これなら、難しい判断はありません。
ただ含み損状態でNISAに移すと、消費する簿価を小さくできるというメリットがあります。例えば、1万円と100万円を行ったり来たりする銘柄があるとします。これを特定口座で50万円で購入しました。現在1万円で、49万円の含み損です。これを50万円まで待って売却し、NISA枠で買い直すと50万円の枠を消費してしまいます。ところが1万円で売却し、NISA枠で買い直すと消費する枠は1万円なのです。
そのあと100万円に価格が上がっても、両方とも税金はかかっていません。税的な損得は同じです。ところが、NISA枠の消費という点では1万円で買ったほうに軍配が上がるのです。
とはいえ、これは現在1万円だが今後100万円に上がることが分かっている場合の悩みです。実際は1万円の銘柄はさらに下がるかもしれないし、上がるかもしれません。「1万円で買えたからNISA枠の消費が少なくて済んだ」と考えるのは、株価がランダムに動くではなく回帰する、または「オレはこれが上がることを知っている」という奢りだともいえます。
このように含み損のときのほうがパラメータが多く、難しい判断を迫られるというのは意外かもしれません。ただ、実務上はこの判断で迷うことはないでしょう。現在株式市場は比較的好調で、インデックス株式のポジションであればほとんどの場合は含み益になっているはずです。含み損だというのは、アクティブ型や個別株銘柄が想定されます。
そしてNISAは含み益に課税されない代わりに、含み損を損益通算に使えないという最大のデメリットがあります。そのため、含み損になるような銘柄は、そもそもNISAで買ってはいけないのです。つまり、含み損になっている銘柄をNISAで買い直すというのは、いろいろと矛盾が生じるわけです。
ぼく自身でいえば、特定口座で含み損のある銘柄はさっさと売却して配当などと損益通算してしまいます。そのため、あまり深くこの問題を考える気はおきません。
次回からは、新NISAをもっと有効活用するマニアックな方法を考えます。