1月、2月は優待クロスがほとんどないこともあり、資金がダブつき気味です。つまり、3月半ばまで、相当額の資金が銀行口座に寝ています。これはもったいないということで、何か短期のローリスク投資手法はないか? とTwitterで聞いてみたところ、いろいろなアイデアをいただきました。その一つが、米短期債券を信用買いする手法です。
米国債を買うことのリスク
なぜ米国短期国債の信用買いがよい手法になり得るのか? まずは短期米国債ETFを買うことのリスクを考えてみましょう。
米国短期国債は現在4.44%程度の金利水準です。昨年11月には5%超えのピークを付け、そこから金利は下落し始めました。ただし、未だに短期金利のほうが長期金利よりも高い逆イールド状態です。
この短期国債を購入すると4.44%程度の分配金を得ることができます。これがリターンの源泉です。日本円で銀行に預けても0.2%がいいところなので、この分配金は小さくありません。
ではリスクはどうでしょうか? 株式にしても債券にしても、通常リスクといえば価格変動=ボラティリティです。今回は約2ヶ月で手仕舞いするので、価格が変動して値下がっていれば、損失を確定させなくてはなりません。まさにボラティリティ=損失可能性というのがしっくきます。
下記は、短期国債/長期国債/超長期国債の価格推移のチャートです。長期国債が10%程度、超長期国債が20%近い変動を見せているのに対し、短期(2年)国債は極めて安定した価格で推移しているのが分かります。ほぼ1%以内に収まっています。
これはデュレーションが短いことが影響しています。デュレーションについてはこちらの記事をご確認ください。つまり短期国債は、分配金利回りが高いだけでなく、値動きがほとんどなく、短期の投資でちょっとしたリターンを得るのに適しています。
ではリスクは何か。それは一重に為替です。ドル円は昨今大きく変動していて、米国債で4%程度のリターンを取ろうとしても、簡単に為替でそれを上回る損失が出てしまいます。またよくよく考えると、FXでドルをロングすると金利に相当するスワップポイントが4%程度得られます。つまり、短期国債を購入するというのは、ドル自体を保有するのと、リターンもリスクも同じようなものだということです。
為替をヘッジすると?
短期国債を保有するリスクが為替であれば、為替をヘッジしたらどうでしょうか? そうすれば、為替の値動きリスクを消せて、4%程度のドルのリターンだけを得ることができるはずです。完璧ですね!
問題は為替ヘッジにはコストがかかるということです。例えば、保有している短期国債の額と同じだけ、FXでドルをショートすれば、互いが為替変動を打ち消し合って、為替をヘッジできます。ではFXのドルショートコストはどれくらいかというと、実に短期金利=短期国債の金利とほぼ同じなんです。つまり、4%の国債分配金を得るために、4%のコストをFXで支払うわけで、これでは儲かりません。というか、こういったフリーランチが起こらないようにFXのスワップコストは決まってくるわけです。
ただ、為替ヘッジの方法はFXだけではありません。今回はその一つ、信用取引を考えてみましょう。
米株の信用取引では為替はヘッジされる
言われてみれば当たり前のことですが、米株の信用取引では為替は自動的にヘッジされます。円を証拠金に入れて、米株の信用取引を行うときの流れは次のようになります。
- 1万6000円の証拠金を入れる
- 100ドル借りる
- 100ドルで短期国債を買う
- 短期国債の分配金を受け取る(ドル)
- 短期国債を売却する→100ドル受け取る
- 100ドルを返す
このように、証拠金は円だし、借りたドルは売却時に返せばいいので、為替が影響するのは受け取った分配金だけということになります。CFDや先物もそうですが、実質的に為替はヘッジされるわけです。
米株信用取引のコストは何か
ただもちろん、米株の信用取引でもコストはかかります。何がかかるかというと、次の二つです。
- 売買コスト……16.5ドル 往復で33ドル
- 信用金利(ドルを借りるコスト)……4.5%
ここでいう信用金利が、実質的に為替ヘッジコストとなっているわけです。つまり、短期国債を米株信用取引で買ったら、分配金を受け取れる一方、4.5%の金利を払わなければいけません。
ちなみに信用金利は「基準金利+3.5%」とされていますが、現在は4.5%に設定されています。つまり基準金利は1%となっているわけです。
4.5%を超える分配金なら差額が取れる
現資産(ここでは短期国債)の値動きがほとんどなくて、為替をヘッジできるなら、分配金利回りがヘッジコストである4.5%を上回っていれば、その分儲かります。つまり金利の差額をアービトラージできるわけです。
ではそんな銘柄はあるのでしょうか?
- VGSH分配金利回り……3.32%(直近1年合計分配金)〜4.01%(直近分配金換算)
- SHV分配金利回り……4.73%(直近1年合計分配金)〜5.48%(直近分配金換算)
バンガードの短期国債ETF VGSHは信用金利4.5%を下回る分配金でしたが、ブラックロックの米短期国債ETFであるSHVは、直近1年の分配金合計でも、直近の分配金換算でも4.5%を上回っているではないですか!
ということは、4.5%の金利コストを払っても、その差額、0.23〜0.98%の差額を得られるはずです。これは、証券会社が4.5%というマーケティング的な低金利を付けているからこそ実現するアービトラージになります。いわゆる市場の歪みであり、フリーランチだといっていいのではないかと。
SHVの概要
SHVはブラックロックが運用する米短期国債ETFです。SHVの株価は現在110.22ドル。年12回分配金を出していて、2023年の履歴は下記のようになります。短期金利でいえば、2023年はどんどん金利が上昇してきたことが分かります。
過去1年のチャートがこちら。のこぎり型になっていますが、これは分配金を出すとその分価格が下落していることを示しています。
ここで配当金を再投資するよう配当調整を行うとこのようなグラフになります。見事にきれいなグラフです。つまり配当を考慮すると、のこぎりのどのタイミングで買っても同じだということです。
実際にSHVを信用買いする
では実際にSHVを信用買いしてみます。下記のとおり、特定口座で成行、360株の買いを注文するのがファーストステップです。
なぜ360株か。まず往復で33ドルの手数料がかかるので、最低33ドルの収益をあげなくてはいけません。金利アービトラージで年1%のリターンが得られるとすると、1ヶ月の短期取引で33ドルの収益を上げるには3万9600ドルのポジションが必要です。SHVは現在110.22ドルなので、少なくとも360株以上購入しないと手数料負けしてしまいます。
ちなみに振替額には証拠金が入ります。なぜ僕の注文画面で0円になっているかというと、保有する米国株を代用有価証券として担保に入れられるから。掛け目は70%なので、評価額1万ドルの米国株式を持っていれば、7000ドル分の証拠金として利用できます。
さて、ほぼドルを買うようなもので、しかも為替リスクがないので、そこそこ大きなポジションを取ろうと思ってふと思いました。まず1ショットでは989万9999.99ドル=約14億円までしか売買できないんですね。
また米国株を担保にして取引でき、さらに2倍のレバレッジも効かせられるので、米国株評価額の約1.5倍のポジションが取れてしまいます。つまり、よっぽどの額を買わないと、現金がいりません。あれ? 円が余っているので短期投資をしようとしたのに、まったく円が利用できません。これでは単なる二買建です。
でもまぁ、金利アービトラージだし、保有するのは実質ドルそのものだと思って、そこそこ大きめなポジションを取ってみたいと思います。