産業用太陽光発電所、いわゆる野立て太陽光事業は、固定買取価格が年々下がってきました。送電量50kW以下といういわゆる「低圧」の発電所の場合、当初1kWhあたり40円だったFIT価格は、2019年には14円、2020年は13円(しかも全量買取なし)です。
- FIT価格が下がると太陽光は儲からないのか
- パネル以外の条件はちょっと変わる
- そもそもFIT価格はIRR一定になるように下げられてきた
- 2020年はFIT価格13円まで低下
- 低圧は30%以上を自家消費しないとダメ
FIT価格が下がると太陽光は儲からないのか
さて、太陽光の話をすると、たいてい言われるのが「昔は買取価格が高かったけど、最近は安くなってしまいましたよね(だから昔ほど儲からなくなったでしょう?」という言葉。
いえ、実はそんなことはないんです。なぜなら、買取価格が下がるとともに設備の価格も下がってきたからです。太陽光発電のコストと収益の構造を確認しましょう。
まず収益は、発電量1kWhあたりの買取価格がFITで決まっています。2012年は40円でしたが、これが2019年には14円まで下がりました。ここだけ見ると、65%も売上減です。
※ソーラーサポートセンターより
ところが、同時に太陽光発電設備、主にソーラーパネルの価格も低下しています。1kWhあたりの売上も下がりましたが、パネルのほうも急速に値段が安くなっており、どちらかというとパネルの価格下落のほうが大きいくらいです。
※ソーラーパートナーズより
つまり投資として考えた場合、売上も減りますが投資額も減るので、利回りは変わらないということになります。同じ資金を投資する場合、設置するソーラーパネルの数が増えるので、売上額も同等という感じです。
パネル以外の条件はちょっと変わる
太陽光発電所の必要資金のほとんどはパネルとパワコンですが、ほかにも必要なものがあります。昔と現在で大きく変わるのは土地ですね。
単価が半分になれば、単純計算でパネルの枚数も2倍になり、設置に必要な土地もその分広くなるからです。日当たりがよく、しかも広い土地が必要になる。これはなかなか難しいところで、業者がだんだん物件を見つけにくくなっている理由でもあります。
でも、土地が広くなるからコストが上がるのかというと、これがまたそこまで単純でもありません。太陽光発電に使われる土地は、だいたいにおいて利便性の悪い場所にある土地で、普通に売れば二束三文というものが多いからです。太陽光発電に使うからこそ高い値がつくわけです。
そして、太陽光発電業者(EPC業者)は、土地と発電システムをひっくるめたコストに対して、表面利回りが10%前後になるように価格を調整して売りに出します。パネルの値段と土地の値段を足し上げてコストを決めるのではなく、まず利回り10%ありきで、逆算して土地の値段が決まるような感じです。
なので、土地が狭くても広くても、利回りにはあまり影響しません。もちろん、自分で土地を探してきて発電所を建てるのであれば、違うんでしょうけど。
そもそもFIT価格はIRR一定になるように下げられてきた
そもそも経済産業省の資料を見ると、FIT価格は闇雲に下げられてきたわけではなく、パネル価格の下落と、調達金利の下落を見ながら調整されてきたことが分かります。
調達価格等の設定に当たって想定している適正な利潤(IRR)の水準は、 FIT 制度開始当初に国内外の金利水準や各電源の事業リスクを踏まえて、 区分ごとに設定されたものである。集中的に再エネ電気の利用拡大を図 るため、FIT 法の施行の日から3年間(2012 年7月1日~2015 年6月末) については、利潤配慮期間として1~2%の IRR が上乗せされ、事業用 太陽光発電の IRR は6%とされていたが、利潤配慮期間の終了により、 2015 年7月1日以降の IRR は5%となっている。
そして、太陽光発電事業が成熟してきて事業的なリスクが減っていることや、金利低下による資金調達コストの低下を反映させて、2019年のIRRは4%で計算されています*1。
このようにIRRを元にFIT価格が計算されてきたので、投資家の観点でいうとどのタイミングでもリターンはそれほど変わらないというわけです。もちろん、初期の太陽光発電投資家は、海のものとも山のものとも分からないというリスクを負っていたので、その分1〜2%の追加IRRとなっていますが。
2020年はFIT価格13円まで低下
さてそのFIT価格は19年までは価格が下がるだけでしたが、2020年度はいろいろと変わりました。発電量50kWを堺に、50kW以下を「低圧」、50kW以上を「高圧」と通称しますが、それぞれの単価が変わったのです。
- 低圧(50kW以下) 13円
- 高圧(50kW以上250kW以下) 12円
低圧のほうが1円高いですが、「地域活用要件」という厳しい条件が付きました。これを満たさないと売電できません。
- 余剰売電であること
- 災害時に活用できること
- ソーラーシェアリングは全量売電可能
低圧は30%以上を自家消費しないとダメ
この「余剰売電」というのがくせ者です。自家消費可能な設備にした上で、計画書を提示し、自家消費の比率を30%以上にする必要があります。そして、災害時に使えるよう、パワコンにコンセントを設置することが必要です。
実質的に、発電のみを行う太陽光はもうダメで、工場などの屋根に設置して、自家消費しつつ、余った分を売る形になります。投資商品としては厳しいですね。
というわけで、市場にはまだ物件が出ていますが、新規の物件は2019年の14円モノで終了。FITの門は完全に閉じられたといえます。
*1:ちなみに、経産省が想定したIRR5%というのは、全期間をならしてみると5%利率の定期預金に預けたのと同じという意味で、つまりはだいたい15年で投資額が倍になる計算になります。表面利回りが10%なのに、どうしてIRRが5%になるのかというと、別途さまざまなコストがかかるというよりも、20年でFITが終了してしまうことが主要因だと考えられます。