最初はざっくり米債券ETFを比較するだけと思っていた債券の話も、どうせならそれぞれのパラメータを確認していこうと思ったら、けっこう長くなりました。5回めとなる今回は、ロールダウンについて。利子というインカムゲインしかないと思われがちな債券ですが、実はイールドカーブを前提とすると、ロールダウンというキャピタルゲインも生まれます。
基本的なイールドカーブは右肩上がり。すると?
前回、基本的なイールドカーブは右肩上がりだということを見ました。つまり、満期までの期間によって利回りが違い、満期が遠いほうが高利回りだということです。長期債のほうが利回りが高いという意味でもありますが、別の意味もあります。
例えば10年債利回りが0.8%、5年債利回りが0.3%だとしましょう。利回りの差が0.5%あります。この10年債を持っているとき、5年経ったらどうなるでしょうか? イールドカーブが変わらないなら、利回りが0.5%低下することになります。第1回で見たとおり、利回りの低下は債券価格の上昇です。
つまり、イールドカーブが正常の右肩上がりである限り、債券は持っているだけで利回りが下がり、価格は上昇することになります。念の為ですが、債券は固定利子なので、受け取る利子が減少するわけではありません。そのとき売買する際の利回りが下がるので、売却価格が上昇するというだけです。
このように、満期までの期間が短縮するにつれて債券価格が上昇することをロールダウン効果といいます。
イールドカーブがスティープなほどロールダウン効果は大きい
ロールダウン効果は、長短の金利差が大きいほど大きくなることは容易に想像できます。これはイールドカーブの形でいうと、スティーブなほど、効果が高いということです。
またイールドカーブがフラットな場合、ロールダウン効果は消えてしまいますし、もし逆イールドの状態なら、時間とともに債券価格が下落するロールアップが生じてしまいます。
つまり、債券のロールダウン効果を見るには、短期債と長期債の金利差が重要だということになります。
債券のパフォーマンスを考える時、「すでにマイナス金利状態だから、これ以上金利は下がらない。つまり債券価格は上がる余地がない」と考えがちですが、イールドカーブがスティープである限り、持っているだけで価格は上昇していくわけです。
利回り0.6%の債券でも、ロールダウン効果で1.75%に
実際のロールダウン効果を見てみましょう。残存年数5年の債券の利回りが0.6%で、これを1年間保有したとします。一見、総合的な利回りは0.6%のように思いますね。ところが、このときのイールドカーブがスティープで、残存年数4年の債券利回りが0.3%に低下しているなら、総合的なリターンは1.75%になります。上乗せされた1.15%がロールダウン効果によるキャピタルゲインだということです。
日本国債でも、短期金利がマイナスでも、長期金利がプラスのスティープなイールドカーブであれば、傾きの差によってロールダウン効果が生まれます。17年の資料ですが、表面利回りが小さくても、金利の下げ余地がほとんどなくても、債券を保有することでリターンが生まれることが分かります。
ロールダウンの収益力は、歴史的には長短金利差の0.7倍程度とかなり大きい。特に、今のように金利ボラティリティが低下する局面では、コンベクシティの価値の減少を受けイールドカーブの局所的な傾斜も大きくなるため、ロールダウンの威力はさらに増大する可能性が高い。
ちなみに、前回見たようにデュレーションの曲率であるコンベクシティは、スマイル型に曲がっている(コンベクシティが大きい)ほうが有利です。金利の変化が大きい、つまり金利ボラティリティが高いときは特にそうなります。
10年ものと2年ものの金利差
そのためよく使われるのが、米国債の2年ものと10年ものの金利差です。カーブの形状はともかく、どのくらいスティープかがざっくりこの数値から分かります。米国債の10年もの金利から2年ものの金利を引いた、金利差のチャートがこちらになります。
2015年には金利差が1.8%もあったのですね。こういうスティープな状態では債券は持っているだけで、時間とともにロールダウン効果が働いて債券価格が上昇したわけです。
一方で金利差は徐々に下がり、19年8月にはついにマイナスとなりました。いわゆる逆イールドです。その後、コロナが契機とはいえリセッション入りしたのはご存知の通りですね。そして、また徐々にスティープ化が進んでいます。
金利差が広がるということは、イールドカーブがスティープ化してきているということであり、ロールダウン効果ががうまれつつあるということです。コロナショックで大きく値を上げた長期債ですが、再び投資妙味がうまれつつあるのかもしれません。