FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

資本主義という中毒 儲けと快楽

お金はどうしてこんなにも、いろいろな人を魅了するのでしょうか? 「貯め込んでも仕方ない。使ってナンボだ」という意見がある一方で、使い切れないほどの金額になってもさらに増やしたいという人は枚挙にいとまがありません。そこには脳の快楽中枢が影響しているようです。 

fMRIが可視化した脳の中身

一昔前なら哲学や宗教の領域だった問題が、科学の発展によって生化学の問題に置き換わってきました。人間は何に快楽を感じるのか? という問題もそうです。快楽を感じているときには脳で何かが起きているのだろう……ということは分かっても、具体的に脳のどこで何が起きているのかを突き止められ始めたのは、そんなに昔のことではありません。

 

下記、『適応的市場仮説』には、こうしたお金と脳にまつわる実験について記載があります。

 お金を儲けるという喜びを感じているときに、脳で何が起こっているのか。これを確かめるために、ハーバード大学とマサチューセッツ総合病院に勤める研究者たちのチーム(この中にはダニエル・カーネマンもいたそうです)が調査を行ったのは2001年のことです。

 

ここではfMRIが使われました。地場と電波を使って体の内部を探るMRIは有名ですね。ところが脳の神経活動で起きる電気磁気現象をMRIで検出するのは難しく、脳をMRIで測るのは不可能とされてきました。ところが、微小ながら脳の生理現象とMRIの信号に関連があることが示されたのが1990年です。

 

MRIでは巨大な磁石の中に計測したいものを入れます。その磁場の中で、特定の周波数の電波を照射すると、水素原子が同じ方向を向きます(磁気共鳴、励起)。少ししてこの電波を切ると、水素原子の向きが戻っていくのですが、このとき、水なのか脂肪なのか骨なのか、癌なのかで戻る早さが違います。この戻る速度差を白黒で表現したものがMRIです。

 

一方で、脳内に張り巡らされている毛細血管には血流が流れ、そこには酸素を運ぶヘモグロビンが多量に含まれています。このヘモグロビンは酸素と結合しているときには反磁性で、酸素を放出した後(デオキシヘモグロビン)では常磁性になります。デオキシヘモグロビンを多く持つ静脈血管の周りにはわずかな磁場の歪みが起こります。この歪はMRIで測定できるため、計測ができるようになりました。

 

脳の活動によってシナプス活動が増加すると、そばにあるグリア細胞やニューロンがそれを感知して血管を拡げる物質を送り、血流が増加します。血流増加によって、神経活動の酸素消費増加を超える酸素供給がなされ、デオキシヘモグロビンの量が減少、それによって起こる磁場の歪みの減少をMRIが捉えるという仕組みです。これをfMRIといいます。

脳の快楽中枢

これまで動物実験などから、脳には快楽中枢があることが示唆されてきました。脳の特定箇所に電極を埋め込んだネズミをレバーの付いた箱に入れ、レズミがレバーを押すと電流が流れるようにします。すると、ネズミはひたすらレバーを押すのです。1954年の研究では、1時間に2000回近くレバーを押しまくりました。

 

その後、1957年の研究で、快楽中枢が放出する物質はドーパミンという神経伝達物質だということも明らかになりました。

快楽中枢は当初考えられていたよりもずっと複雑だった。どこかひとつに快楽中枢があるのではなく、脳にはそれぞれ異なる多数の経路を持つ「報酬系」があるようなのだ。(中略)

報酬はエサみたいに簡単で基本的なものでもいいし、知的満足みたいな抽象的で手にとって触れられないものであってもいい。驚くべきなのは、そうしたさまざまな報酬がみんな――エサ、セックス、愛、お金、音楽、美でも――使われる神経科学的な信号は同じである点だ。ドーパミンである。 

 人間が喜ぶというのはいずれもドーパミンが放出するから。そして、脳のどの快楽中枢が興奮するとドーパミンが放出されるかまで、いまや生化学は明らかにしています。 

神経学者の大部分は、今や報酬系の概要は幅広く把握できたと考えている。長年の間に、神経解剖学者たちは脳内のドーパミンの経路を8つ発見している。(中略)

脳でドーパミンの使い道や経路が複数あるのは、私たちが喜びを感じることがたくさんあり、怖れを感じる経路はただひとつであるのを反映している。そう思いたくなる。 

 お金を儲ける快楽中枢は?

では、どんな刺激を受けるとどの快楽中枢が刺激されるのか。先のfMRIの発達によって、電極を脳に差し込まなくても、実際の人間でそれを確認できるようになりました。2001年に行なわれた実験では、お金を儲けたときに脳に何がおきたのかをリアルタイムで観察しました。

 

fMRIの中に入ったまま、ルーレットのような回転板が表示され、止まる場所によってお金がもらえたり、損が出たりします。このとき、儲かったときに活性化されたのは脳のどこだったのでしょうか?

お金の形で報酬を受け取ると、腹側被蓋野が活性化する。これにより、ドーパミンを報酬系と側坐核に分泌する。(実験を行った)ブライターはこのパターンの活性化にはとてもなじみがあった。

実は数年前に、コカイン中毒の人やはじめてモルヒネを使った人位は、同じパターンがあるのを目にしていたのだ。お金を勝ち取ることには――たいした額でなくても――脳にとってはコカイン中毒の人が一発キメたり、何かの患者がモルヒネを投与されたりするのと同じ効果があった。

なるほど。お金を儲けたときに脳に起きていることと、麻薬を使ったときに起きていることは、同じだったのです。 

資本主義という中毒

なぜ麻薬を使うと中毒になるのでしょうか。繰り返し使用することで、ドーパミンの放出が習慣になり、これなしではいられなくなります。実は、お金儲けについても、脳の仕組みからいえば全く同じだったというわけです。

本当に何度も繰り返すと、ドーパミンの分泌を伴う行為が習慣になる。コカインの場合、これは中毒と呼ばれる。お金儲けの場合、これは資本主義と呼ばれる。 

リスクを取る脳と安全を選ぶ脳

ちなみに、リスクのとり方によって脳の活性化する部分が異なることも分かりました。実験では、「安全な債券」「リスクのある株式A」「リスクのある株式B」のうち、どれを選ぶかを求められました。

 

リスクを伴った選択(例えば、良い株ではなく悪い株を選んでしまい損をした)をすると、先の側坐核が活性化しました。一方で、安全な債券を選ぶという選択をした場合、異なる脳の部分が活性化しました。これは、島皮質前部と呼ばれる部分で、痛みなどの負の感情と結びついています。

 

これは、次のことを示しています。

リスク回避的な投資家は、お金を失うリスクを、直感的に嫌悪を感じる物事を考えるのと同じ回路で処理するということになる。一方、リスク愛好的な投資家は、儲かりそうな状況をコカインなどの麻薬が呼び起こすのと同じ報酬の回路で処理するということだ。 

 脳に判断させてはいけない

こうした実験から明らかになったことをどう生かしたらいいのでしょうか? 1つは、やはり脳の感情にまかせて投資を行ってはいけないということです。FXなどでは、あらかじめ決めておいたルールに基づいてトレードを行うことが推奨されていて、都度自らの投資判断で売買を行うのは「裁量取引」と呼ばれ、比較的ネガティブな意味合いで使われることが多々あります。

 

株式の売買でも、データに基づいてポートフォリオを定め、ポートフォリオ比率の変化に伴ってリバランスだけを行う方法がありますね。ロボアドなどがそうです。

 

なぜ裁量取引が危険なのかといえば、先の麻薬中毒と同じ脳を使っていることから分かります。首尾よくお金を儲けた投資家の脳では、側坐核が刺激されドーパミンが放出されます。これが何度か繰り返されると、麻薬でいう中毒の状態になり、さらに側坐核の刺激につながるような行動を取るようになります。つまり、過剰なリスクを取りに行ってしまうわけです。

 

具体的にいえば、バブルの絶頂でさらに資金を投入して買いに回るとか、現物を担保に信用買いを行ういわゆる信用2階建てなどの行為をしがちになるわけです。

 

では脳に判断させないためにはどうしたらいいか? ぼくは2つの方法があるのではないかと考えています。1つは、ルールを作ってそれを守る方法。ただしこれは意思が強くないと守れないため、自分が考えるルールに合った運用をしてくれるところへ委託することになります。ロボアドしかり、アクティブ投信しかり、インデックス投資もそうでしょう。インデックス投資であれば、その中の特定の銘柄が爆騰していても、それをさらに買おうという気持ちにはならないわけです。実質的にはその銘柄も保有しているのですが。

 

2つ目は、損益を見ない方法。「儲けている」と感じるからドーパミンが出るのであって、自分が儲けているのか損しているのか分からない状態におけば、脳の側坐核は刺激されません。証券会社の残高を見ない、保有している株の株価をチェックしない。こうした行動で、損益を忘れることができます。ロボアド、投信などはこちらの意味でもお勧めです。そこに含まれている銘柄個別の損益は、通常表示されないからです。

 

昔から投資の難しさは感情の制御だと、しばしば言われてきました。昨今、実際の脳研究からもその正しさが分かってきたわけです。なかなか投資は面白いものです。

 

 

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