FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

証券会社の古き良き時代 書評『野村證券第2事業法人部』

今でこそ強引な営業を見ることはほとんどなくなりましたが、その昔の証券会社というのは客に回転売買をさせて手数料を荒稼ぎしたり、自ら相場操縦を行ったりと、なんというかすさまじい存在でした。

 

その筆頭が言うまでもなく野村證券です。本書は1978年に入社した横尾宣政が、同社のエースと呼ばれながらどんな活動を行い、そしてオリンパス事件に巻き込まれて1998年に退社するまでの20年を綴った一冊です。 

 実名で赤裸々に書かれた証券会社の実態

この本の読み方はいろいろありますが、当時の証券業界の雰囲気を知れるという意味で貴重なのではないのでしょうか。腕に自信のあった筆者の武勇伝が、最初から最後まで書かれているので、これを真に受けるというよりも、こんな時代だったんだということを知れることが大事です。

 

そこで今度は、群栄の株価を前日比100円安のストップ安まで持って行った。つまり600円から100円値上がりして700円になっていた株価を、今度は500円まで引き下げたのだ。今こんな売買をすれば、たちどころに証券取引等監視委員会(SESC)から呼び出しを食らうが、幸いにも当時はまだ大蔵省の監視の目が緩かった。 

これなんて、今読むと衝撃ですね。当時はネット証券はもちろんなく、株の売買といえば証券会社の担当者に注文を伝えて依頼するものでした。しかし、株価でさえ新聞の株式欄で知るのが普通の投資家でしたから、生き馬の目を抜くようなトレードを行うことはできません。

 

結局、「投資のプロ」として証券会社の営業マンが推奨する銘柄を買うわけですが、当の営業マンは必ずしも顧客に儲けさせようと考えているわけではありません。この「ストップ安までもっていった」という話も、大口の顧客を持つ著者が、株価を動かしたいと思った銘柄を推奨すれば、小型株ならば株価を操作できたという自慢話です。

 

事法マンの力量は、こうしたインサイダー情報を取れるかどうかで決まる。「シメシメ」と小躍りした私は、同僚のNKKの1株当たり利益の件を伝え、客に推奨するよう勧めた。 

 法人の資金調達を担当する第2事業法人部(事法)の担当の際には、顧客のインサイダー情報を握ると、それを顧客に餌として伝えるというのを当たり前にやっていたようです。こうしたことが普通ならば、営業マンの推奨する銘柄を買うしかないと顧客が思うのも仕方がありません。

 

本書の前半、70年代から80年代の頃には、いかに客に気に入ってもらって手数料を使ってもらい、損させるかという話がそこかしこに出てきます。

例えば1億円しか持っていない人に2億円損させると、その客はもう自殺するしかない。かといってノルマの達成は必須だ。そうなると自分が客に示せる最大の誠意は、1億円や2億円損しても平気な人を選んで取引することだった。

真面目にそう思って書いているようなので、コワイ時代だったんだなと本当に思います。

 客のカネで大ばくち

もちろん、個人ならば自殺で終わるかもしれませんが、企業の運用を預かって大損害を与えてしまったら、企業の倒産です。当時の証券マンは、売買の仲介を行うというよりも、客に代わって運用して利益を上げるのが仕事という側面が強く、だからこそ損を出したときは問題になりました。

 

どう問題かというと、「絶対に損はさせません」「損をしたら補填します」というようなやりとりが普通にあったからです。現在は、金融機関が絶対に言ってはいけない言葉として有名ですが、当時はそういうニュアンスのやりとりが行われていたようです。

 

ただし損失補填はやってはいけないことになっているので、口頭でどんなやりとりがあったとしても、実行はできません。

損をした客のところを謝罪行脚しているだけでは、あまりにも能がない。こちらの期分も滅入るばかりだ。まず火の粉を振り払わなければならない。内容証明付き郵便を送りつけてきている客だけでも、損失を解消させておきたい。「何とかしなければ」という、持ち前の創意工夫の精神が、私の中で頭をもたげてきた。

となると、運用で損をしたら運用で取り返す。証券マンが考えるのはこういうことでした。新たにオムロンのワラント(要するにコールオプション)を、数社に5億円ずつ、ある上場企業には20億円分も売りつけました。

 

行使価格などの詳細は記載がありませんが、ワラントは株などよりも遙かにリスクの高い投資です。各社に数億から数百億の損をさせたと言う話なので、その損失を取り返すにはこうしたハイリスクな商品を使うしかないことは分からなくはありません。しかし、これはあくまで顧客のカネであり、うまく行けばいいものの、もし運用が失敗したらさらなる大損害となる取引です。

 

結局この賭けは当たり、大半の顧客の損失は消えたといいます。しかし恐ろしいのは次のところです。

火の粉を振り払うのが目的だったオムロンのワラント売買だったが、結果的に私のコミッション額も桁違いになった。91年1月が1億円、2月が2億円。全国の支店の半分以上が、私一人のコミッション額を上回れなかった。

 客のカネでバクチをうち、上手くいけば武勇伝、失敗したらごめんなさい。でもどちらにしても大量のコミッション手数料は取る。なかなかすさまじいです。

自分の意思で株を買うことはできないのか

ただ、ちょっとなるほどと思ったこともあります。下記のくだりです。

 

株価が長期にわたり低迷している最大の要因は何か。私には「証券会社が銘柄を推奨しなくなったことが原因」という確信がある。臆病で勤勉な日本人は、自分の意思で株を買うことなどとてもできない。証券会社の営業マンに背中を押されてやっと買えるのであり、銘柄を推奨されなければ買えない。

 みんなが株を買わなければ株価は上がらない。これはその通りです。そして、自分の意思で株を選んで買える日本人なんて、一握りしか存在しないというのもその通りです。

 

ただし唯一違うのは、銘柄を推奨する役割を担うのが、証券会社の営業マンからSNSのインフルエンサーに変わってきたことでしょう。今でも昔気質の証券営業マンは「客を儲けさせてなんぼだ」と言いますが、はっきりいってそういう時代は終わりました。米チャールズ・シュワブの創業の意図の通り、証券会社は株を買いたい人に安く確実に仲介する役割に変わったのです。

 

それでも、自分で判断して株を買える人なんてめったにいません。多くの人は誰かが推奨していた銘柄に飛びついて買います。だから推奨された株が下がって損をしたら「アイツのせいだ!」と怒るのです。情報を得ているとか参考にしているではなく、まさに推奨されているのです。

 

「アイツの言ったとおりの銘柄を買ったら損をした。カネ返せ」——。SNSでもこう思う人がいるところを見ると、当時証券会社の推奨の通りに株を買って損をしたら、損失を補填しろ!という人がいたのも分かります。時代は繰り返すのかもしれません。

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