Xで匿名相談を受け付けているのですが、今回「FIRE後の賃貸物件で審査が通らない」という相談を受けたので、こちらブログにて回答したいと思います。
FIRE後の賃貸物件で審査が通らない
いつも有意義な情報ありがとうございます。
私は3年前にFIREしてひとり会社を設立し、アパート経営をしております。その他、個人で株式投資をしており、外国株の配当金を受け取っています。
現在、かなり安めの賃貸物件に家族で住んでいます。子供も大きくなってきて手狭で都心まで少し遠い場所です。将来の資産形成の見通しはついたので今よりも広く都心の賃貸マンションを借りたいと思っています。
ところが私の属性では少し高めの賃料の物件を借りるのは難しいみたいなのです。資産額や配当金の額は関係なく、個人契約だと給与が月8万円なので審査が通らないとのこと。法人契約だとアパート購入のための借入金で会社が債務超過の状態なので厳しいとのこと。
そこで質問ですが、九条様もブログを拝見するかぎり、給与や法人利益は抑えており、賃貸物件にお住まいだと思います。セミリタイヤ後に少し高めの賃貸物件を借りるコツなどありましたら、ご教授いただきたいです。
いや、これほんとです。はい。ぼくも今賃貸物件なのですが、セミリタイア済み完全FIRE前の3年ほど前に引っ越しをしました。この時やはり、「現在のお給料額だと、保証会社の審査に通らないと思います」と不動産屋からズバリ。
このときは不動産屋にも頑張ってもらい(彼らも契約がまとまらなければタダ働きですから)、保証料のアップということで審査が通ったのですが、いややほんと焦りました。
賃貸不動産の審査は家賃保証会社メインに
賃貸不動産では、契約前に審査があります。基本的には「この貸借人は家賃を滞納せずに払ってくれるか?」をチェックするものなのですが、2020年4月の民法改正によって、このシステムが大きく変わりました。
それまでは賃貸契約をする場合、連帯保証人を付けるのが普通でした。もし家賃が滞納されたら賃借人の代わりに連帯保証人が払うという契約です。ところが、これでは連帯保証人の責任が大きすぎるということで、民法が改正され、次のような制約が設けられました。
- 連帯保証人の債務の限度額の義務化
- 借主が連帯保証人をお願いする際に、みずからの資産状況について情報提供をしなければいけない
- 連帯保証人から求められた場合、大家さんは借主の家賃などの支払い状況を提供しなくてはならない
また下記のような時代の流れもあり、連帯保証人ではなく家賃保証会社を使うことが増えています。
- 高齢者単身世帯の増加
- 人間関係の希薄化により連帯保証人を頼める人が減少
- 借主側は連帯保証人を立てる必要がなくなる
- 貸主側にとっては家賃滞納リスクの軽減
国土交通省の調査によるとすでに8割が家賃保証会社を利用しているということで、昔ながらの大家さんや管理会社を除けば、家賃保証会社が普通になってきました。
ただし、家賃保証会社を使うということは、保証会社が一律の基準で家賃支払い能力のリスクをチェックするということです。以前のように、支払い能力のある連帯保証人にに頼ることができなくなりました。
保証会社との交渉
質問された方が書いているとおり、保証会社がチェックするのは主に「フローの収入」です。一般的には下記の項目をチェックすると言われています。
- 年収額
- 手取り収入
- 年齢
- 職種
- 勤続年数
- 過去の家賃滞納・延滞履歴
- 信用情報
一般的には、支払いできる家賃は手取り収入の30%と言われています。つまり家賃10万円の部屋なら月の手取りは33万円以上なくてはいけません。FIREして、社会保険料などを抑えるために自分に支払う給与を月7万円などに抑えている場合、まず審査は通りません。
株式運用などで収入を得ていても、それをしっかり証明する書類がないのも問題です。特定口座で税務処理が完了してしまうので、確定申告書類にも載ってきません。
預貯金残高証明書
そんな中で取れる手法としては、「預貯金残高証明書」を発行して提示し、支払い能力があることをアピールすることです。一般的には、家賃の2年分くらいの残高が望ましいとされています。
例えば住信SBIネット銀行の場合、リアルタイム無償で残高証明書のPDFをダウンロードできます。
とはいえ、この残高証明書で認めてくれるかどうかは相手次第。ちなみに僕が相談したときは、これではダメだと言われました。
家賃保証会社を変える
もう一つの手法は、審査に落ちたら別の家賃保証会社へ審査を依頼することです。
信販系の家賃保証会社を使用します。信販系の家賃保証会社は、個人のクレジット情報を基に家賃保証審査をしますので、審査が厳しくなる傾向があります。
【審査が不安…】高齢者は「家賃保証審査」に通れば「賃貸入居」も可能? 保証会社によって審査基準は異なる? | その他老後 | ファイナンシャルフィールド
一方、独立系の保証会社のほうが審査がゆるくなることが多いそうです。そのため、いくつかの保証会社に当たれば、どこかで通る可能性があります。
僕も大家なのでわかるのですが、大家側からは家賃保証会社への支払いはありません。そして大家側から見れば、家賃が滞納されたときにスムーズに代わりに支払ってくれれば、保証会社はどこでも構わなかったりします。つまり大家はそれほど保証会社にこだわりはないのです。「この保証会社以外は認めません!」というようなガチガチの会社を除けば、大家も融通を利かせてくれるというのが昨今の実感です。
そのため「別の保証会社で審査をお願いできますか?」と依頼すればもしかしたら可能性があるかもしれません。
FIRE者だけでなく退職老後なみんな悩む
この問題の本質は、「まともな人生を送ってきた人なら持ち家を持っている」という前提で動いているこの社会にあるように思います。持ち家が優遇され持ち家を持っているのが普通という前提で世の中の仕組みが成り立っているため、「会社を退職したけど持ち家がない」となると、途端に生きにくいのです。
これって会社を定年退職しても同じです。いま住んでいるところに住み続けるならともかく、転居しようと思ったら審査で難儀します。公的住宅なら大丈夫かと思いきや、なんとURには下記のような収入の足切り条件があります。
もっともURの場合、下記の方法でクリアすることもできます。
- 1年分を前払いする
- 貯蓄額が家賃の100倍(8.3年分ある)
いやはや、なんというかけっこうなハードルですね。ぼくも少なくとも子供が巣立つまでは賃貸で過ごそうと思っているのですが、いやはやけっこう頭が痛い。いっそのこと、転居のタイミングのときだけ年収を1500万円くらいにアップするとか、現金で購入してしまって5数くらいで売却するとか、そういう方法も考えてみようかなと思う次第です。