株価が絶好調の中、何が不調かというと商品(コモディティ)です。4月に起きたWTI原油先物が、まさかのマイナス価格になったことは史上初めてということで驚きを与えました。しかし、商品の不調はコロナで始まったものではありません。
今回はコモディティインデックスに連動するETF「GSG」についてまとめてみます。
GSG ETF
個別のコモディティに投資できるETFはいろいろとありますが、コモディティ全般に投資できるETFとしてはGSGは有名なものの1つです。ブラックロックが運営しており、2006年7月からという歴史を持っています。
当トラストは、通常のETFではありません。当トラストは1940年投資会社法に基づき登録された投資会社ではありません。当トラストは ミューチュアル・ファンドと同じ規制基準の対象とはなりません。当トラストへの投資は投機的であり、高いリスクを伴います。
とあるように、ちょっと変わった仕組みであることから注意喚起がされています。
S&P SGCI Total Rerurn Indexに連動しており、各種商品の価格と連動しています。生産量に応じてウエイトが付けられています。
S&P GSCIトータルリターン指数(USD)(S&P GSCI Total Return Index in USD)は、世界経済の全般的な商品価格の動向とインフレを示す先行指標とみなされている。指数は主に現物商品先物の銘柄からなり、世界生産量による各銘柄のウエートをベースに算出される。
信託報酬は0.75%。昨今のETFから見ると高い水準です。コモディティは通常先物で取引するため、こちらのETFは先物運用です。そのため、組入資産比率を普通に見ると、証拠金だけが出てくる場合も多いです。実際には、そこからレバレッジをかけて各商品の先物を運用しています。
組入資産はほぼエネルギー
ではどんなコモディティが組み入れられているのでしょうか。下記は公式ページから。
Agricultureは農作物、Livestockは家畜、Precious Metalsは貴金属を意味します。
別サイトからの情報*1で、組入資産をグラフ化すると次のようになります。ちょっと公式サイトの表現と違っていますが、どちらが正しいのか、ちょっとわかりませんでした。こちらだと過半がエネルギーとなっています。
もう少し中身をブレイクダウンすると次のようになります。WTI原油が3割を占め、英ブレント原油が14%。そして天然ガスや灯油、ガソリン、軽油が入ります。コモディティETFといっても、ほぼエネルギーETFだということがわかります。
パフォーマンス低迷続くGSG
ではこのコモディティETFのGSGのパフォーマンスはどうだったのでしょうか。下記は、S&P500と比較した価格推移です。2006年末から78%の下落と、すごい落ち方です。リーマンショック直前に大きく上昇しましたが、その後は継続的に下落しています。
GSG
2007年1月から2020年9月までの期間のパフォーマンスを数字でも見てみましょう。
S&P500が、この期間年率8.61%で成長したのに対し、GSGは▲9.13%。ボラティリティも23.81%と高い状況です。各期間のリターンを見ても、直近3ヶ月以外はさんさんたる状況です。
- 直近3ヶ月 +3.66%
- 年初来 ▲33.68%
- 直近1年 ▲28.57%
- 過去3年 ▲10.31%
- 過去5年 ▲8.84%
- 過去10年 ▲9.76%
- 設定来 ▲9.13%
原油下落の影響か?
GSGのパフォーマンスが優れないのは何が原因でしょうか。1つはもちろん、ポートフォリオの過半を占めるエネルギー、特に原油価格の低迷です。下記は、ほぼ同時期のWTI原油のチャートですが、上下はあるものの、継続的に下落が続いていることがわかります。
原油だけでなく、さまざまなエネルギーを盛り込んだ、エネルギーセクターETFの動きはどうでしょうか。下記は、GSGとS&P500、そしてエネルギーセクターETFのXLEのチャートです。ほぼ似たような動きをしていることがわかります。ただ、XLEよりGSGのほうがさらにパフォーマンスが悪い形です。
エネルギーに次いで組入の大きい農作物と産業用金属はどうでしょうか。農作物ETFのDBAと、産業用金属のETFであるDBBを加えた比較チャートです。産業用金属はエネルギーセクターよりもさらにパフォーマンスが悪く、農作物はさらに悪いことがわかります。
しかし、エネルギー、農作物、工業用金属のいずれと比較しても、GSGはさらにパフォーマンスが悪いんですね。これはいったいどういうことか? ウエイトの調整によるものか、はたまた先物のロールオーバーコストなのか、ここまでの調査ではわかりませんでした。
1つ言えるのは、GSGを構成する資産のほとんどが、10年以上に渡って価格下落が続いており、ボロボロだということです。唯一といっていいほど上昇しているのは、金に代表される貴金属ですが、こちらはGSGの組入比率の2.2%に過ぎません。
下記は金(ゴールド)の長期価格チャートですが、2006年から見ても、大きく上昇してきたことがわかります。ただGSGの価格を動かすほどの影響はありませんでした。
このコモディティ不振は、別の指標でも見て取れます。国内の商品先物取引の出来高の推移です。下記のとおり、2003年時点の7分の1まで減少してしまっています。
投機の代表格ともいわれた商品先物ですが、長期的な価格下落もあってか、ものすごく低調になってしまっているというのがよくわかります。
今後のコモディティ
ここまで下がるか? というくらいに下がっているコモディティ。では今後の動きをどう見たらいいのでしょうか。楽天証券がコモディティ価格決定の要因をまとめていました。
コモディティの多くは新興国が生産しています。つまり、新興国の動向がコモディティ価格には大きく影響すると考えられます。人口増の源である新興国の調子が良ければ、コモディティの需要は増し、価格上昇圧力がかかります。また政情不安で産出が不安定になれば、それも供給減を招き、価格が上昇します。
一方で、今回のコロナのように、原油需要が減退すれば当然価格下落圧力です。長期的には、米国で2013年に起こったシェールオイル革命のように、低価格の代替品が出てくれば、価格は大きく下落します。再度原油価格のチャートを見ても、2013年から原油価格が大きく落ち込んでいることがわかります。
これらを逆に見ると、コロナが落ち着いて世界経済が活気を取り戻し、新興国が再び成長軌道に乗れば、コモディティ価格も上昇に転じると見ることもできるでしょう。
インフレとコモディティ
もう一つ押さえておかなくてはいけないのはインフレです。通貨の価値が下落するインフレが起きるとどうなるか。当然、リアルアセット、ハードアセットの価値が上昇します。
20世紀はずっとインフレが抑え込まれ、その合わせ鏡としてコモディティの価格は下落してきました。ところが現在、世界中で金融緩和が積み上がり、コロナ禍でさらなる金融緩和が実施されました。ここから起こることは、まぁ間違いなくインフレです。そしてインフレ時に最も強い資産といえば、コモディティになります。
お金と信用の拡大に制約を与える、金にリンクする貨幣制度から脱した結果起こったのは、お金と信用(の拡大)の大幅加速、インフレ、原油・コモディティ価格(上昇)、そして債券ほかの債務のパニック売りだった。
これは金利上昇を引き起こし、1971年から1981年の10年間のほぼすべての期間で、投資家を不動産・金・収集品などハード・アセットへ走らせた。
コモディティは新興国の状況に大きく依存します。しかし、コロナ禍から脱却すれば世界の需要は急回復し、また金融緩和によるインフレはもはや避けられようもないでしょう。すると、どのタイミングになるかはわかりませんが、いずれコモディティの価格が上がってもおかしくないと考えます。
今ではないでしょうし、2021年かどうかもわかりません。ただし、コモディティは本質的な価値があるもので、いずれネジが逆向きに回転したとき、コモディティの大幅上昇は期待できるだろうと踏んでいます。
*1:いま見ると、こちらのデータが表示されなくなっています