FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

「リスク許容度」が分からない 心の問題か投資理論か

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ポートフォリオを作るときに必ず出てくるのが「リスク許容度」です。曰く、リスク許容度に応じてリスク資産の組み入れ比率を変えるべき……だというのですが。。

よく言われるリスク許容度

リスク許容度とは、「資産がどれくらいマイナスになっても受け入れることができるか」の尺度だと言われます。例えば、リスク許容度が高い人は、(一時的に)資産が半分になってしまっても耐えられますが、低い人は夜も眠れなくなってしまう。なので、リスク許容度を測って、自分の心が耐えられるリスク資産の比率にしましょう……。なんて言われます。

 

上記は心の問題ですね。しかし、心の問題だけに定量的、合理的に判断できるものではありません。

見えるリスク資産と見えないリスク資産

例えば、毎日見ているポートフォリオが毎日下落したら、ドキドキして株価が気になって、夜も眠れなくなるかもしれません。ところが、「見ていない」ポートフォリオの場合はどうでしょう?

  • 持ち家
  • 年金
  • 変額保険
  • 401k
  • 見ないポートフォリオ

持ち家は、売出ししない限り価格がどうなっているのかは分かりません。REITなどは株価同様に大きく下落することがあるわけで、持ち家がもしも上場していたら同じくらい下落しているはずです。でも、価格が分からないので「コロナショックで自宅の評価額が大きく下がってしまい、夜も眠れません……」なんて人はいなかったはず。

 

年金もそうですね。株式と債券半々の保守的なポートフォリオである公的年金も、コロナショックのときには全体で10.71%の下落となりました。瞬間的にはもっと下がっていたはずです。

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GPIF2019年度アニュアルレポート

でも、「俺の年金が1割も減った!」なんて気になって仕方ないという人も、いなかったでしょう。

 

変額保険や401kなども、似ています。これらは証券会社とは違い、比較的リアルタイムの値動きがチェックしにくい状況になっているはず。チェックすれば気になってドキドキしてしまうが、チェックできなければ気になりようがないので気にならない。

 

ぼく自身の話でいうと、インデックス資産が下落によって10%下がったとき、額はものすごいワケですが、まぁこんなものかなと思って終わりです。一方で、たまに短期トレードのポジション、例えば先物とかVIXとかのポジションを取っているときは、10万円の下落でもう夜眠れなくなります。10分ごとにポジションがどうなっているかチェックせずにはいられず、気になって仕方ないという感じです。

 

インデックス投資を推奨する経済評論家の山崎元氏は、あるセミナーで下記のように話しています。

役に立たないリスク拒否度(λ)

個人は「リスク拒否度」では考えていない
・アンケートでリスクは決められない
・ (例)ロボアドバイザーは問題解決にならない 

個人の資産運用、ここが意外だった!

 

心の問題の場合、このように感じ方はさまざまで、どのくらいの下落に耐えられるか?を合理的に判断することは難しいのです。

総資産とはいったい何か?

仮に個人のリスク許容度が分かったとしましょう。例えば、リスク許容度によるとリスク資産は40%が安心できる比率だったとします。しかし、問題は「何の40%なのか?」ということです。

 

よくあるロボアドでは、ロボアドに預けた資産のうち40%をリスク資産に入れ込みますね。でも、これが理屈上ちょっとおかしいのはすぐに分かります。だって、ロボアドに預けた資産以外にも、銀行に貯金を持っているのが普通ですもの。本当なら、各所の株式や預金やらすべてを合算して、そのうちの40%を株に回さなくてはならないはずですね。

 

もっと考えると、総資産には持ち家なら自宅の価値とか、入っている生命保険とか、そういうものも計算にいれなくてはなりません。そして、さらにいうなら将来得られるであろう給料も、概念的には総資産の一部です。

 

この将来にわたって得られる給料を、別の言い方で人的資本(資産)といいます。よく、生涯年収は2億円とか3億円とかいわれますが、それが人的資本です。正確には、将来の給与を一定の率で割り引いて合算するわけですが、将来の収入が固い医師とか公務員なら割引率は小さくなりますが、非正規とか起業をした人とか市況で給与が変動するような仕事の場合は割引率が高くなります。

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このようにして、人的資本も総資産に組み入れると、特に若い人は総資産のほとんどが人的資本になります。そのうち40%をリスク資産に充てるとすると、どう計算しても金融資産は100%がリスク資産となるはずです*1もっと低いリスク許容度だとしても、若ければ若いほどリスク資産の比率が高くていいのは、こんな理由になります。

 

さて、ここまで考えると、リスク資産比率は、計算で導かれるものよりもかなり低くなっているのが実情でしょう。大した額でない金融資産のうちの40%をリスク資産に回したところで、保険や自宅や見込まれる遺産や将来の給与まで合算した総資産に対しては、数パーセント以下になってしまうわけです。

どこまでの下落を耐えられるかの問題ではない?

こう考えていくと、実はリスク許容度というのは「心がどこまで耐えられるか?」の問題ではなく、資産額の変動をどこまで許容できるかの話ではないか? と感じてきます。

 

要するに、30年間くらいは持ち続けるのならば、有無をいわさず全額リスク資産*2に入れるのが、合理的ではないかということです。ここまで見据えた投資をする人なら、給料から毎月積立に回しているはずで、ということは「いざというときのための現金」も、実は大して必要がないはずです。技術的に可能なら、若ければ*3レバレッジをかけてリスク資産に投資するのもありでしょう。現金の保有は、リスクとリターンをともに減らすだけで、長期的にリスクを取れるなら高いリターンを目指した方がいいからです。

 

ちなみに、現金同様に債券も組み入れる必要はないかというと、これはちょっと話が違って、安全資産という意味での債券ではなく、株と逆の値動きをするという意味で債券を組み入れると、資産全体の分散効果が働き、リスクあたりのリターンが改善するという利点があります。ここは少し留意が必要です。

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そして心の問題のほうは、現金比率を高めるのではなく、「見えない」仕組みを構築することで耐えられるようにするのが合理的ではないでしょうか。以前にも書きましたが、頻繁に資産額をチェックするのは長期投資家にとって百害あって一利なしなのです。

 

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取り崩し期に入った人のリスク許容度

さて、ではこの理屈が誰にでも当てはまるのかというと、実はそうでもありません。リスク、これは最大ドローダウンの大きさではなく、ボラティリティが悪影響を及ぼす場合があるからです。

 

それは、資産形成期を終えて資産取り崩し期に入った人です。ぼくのようにセミリタイアした人もそうですね。

 

形成期ならば短期的に資産額が上下しても、長期で見れば大きく増加することは過去のデータから明らかです。また、世界経済の成長が企業業績につながり、それが株価に反映されるという仕組みからいっても、世界経済が成長する限り、長期でみれば株式資産は増大すると考えるのが合理的です。

 

一方で取り崩し期はそうはいきません。毎月資産の一部を売却して生活費に充てていくわけですが、ちょうど取り崩し期初期に資産が下落していると、想定したよりも取り崩しスピードが早くなってしまうのです。これをシーケンスリスクといいます。

 

簡単にいえば、資産額の増減=リスクは、積立期には「一時的に減少するだけ」のものですが、取崩期には「大きな影響がある」ものなのです。そのため、心の問題とは別に、取崩期に入ったら資産のリスクを抑える必要があるのです。

 

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*1:もっと理論通りに合理的にやるなら、金融資産よりも高い比率をリスク資産に割り当てることになるはず。いわゆるレバレッジです。

*2:想定するのは主に株式インデックス

*3:つまり潤沢な人的資本を保有するなら