金融増税が話題ですが、これで株式の税金について関心を持った人も多そうです。今年はぼく自身も久々にけっこうな譲渡益が出てしまうので、真剣に節税を考えなくてはなりません。そのため、株式の節税の考え方について、まとめておきます。
課税対象の3+1つの箱
まずこの後の話の前提として、株式の税金には大きく4パターンあります。利益や損失を合算(損益通算)できる箱が、4つあるイメージです。まずは個人に3つです。
- 総合課税 累進課税
- 株式譲渡課税 20.315%
- 先物取引雑所得 20.315%
総合課税は、給与や不動産収入をメインとした箱で、最大の特徴は累進課税です。なぜここに株式が関係してくるかというと、この箱に分類される投資手法が2つあるからです。1つは、雑所得で仮想通貨やソーシャルレンディング、外貨預金為替損益などがあたります。なお、雑所得は雑所得内でしか損益通算ができません。2つ目は配当で、これは確定申告で総合課税を選択すると、総合課税に組み込まれます。
株式譲渡課税は、いわゆる株の税金で、現物株だけでなく信用取引も対象です。配当も分離課税を選択すると、こちらに入ります。また、特定口座が用意されていて、この箱については確定申告なしで課税が完了します。
先物取引雑所得は、FXやCFD、オプションなどが対象となる箱です。税率は株と同じ20.315%ですが、特定口座はないので確定申告が必須となります。
この3つが、主に個人に関係する課税の「箱」です。なお、銀行預金に発生する利子は、また別の箱で20.315%の固定税率。そして、マイナスになることもなければ他と損益通算もできないので、ここだけはどうにも触りようがありません。
そして法人を所有していれば、ここに4つ目の箱が加わります。法人は所得400万円以下の零細が前提です。
- 法人税 実効21.421%(計算のやり方で変動)
※法人所得課税の概要(法人税・法人住民税・事業税)- ジェトロ
節税というと、何やら怪しいことをするようなイメージもあるかもしれませんが、王道としては、この4種類の箱の中で、最も税金が少なくなるパターンを探すことになります。
課税を翌年に繰り延べる
まず課税の繰り延べです。おそらく、世にある株式の節税の話ではこれが最もポピュラーでしょう。同じ額だったとしても、税金を今年払うのと、来年払うのはその意味が違います。税金を来年に繰り延べることで、税金分をさらに1年間運用できるからです。そのためさまざまなテクニックを使って、税の繰り延べを行うことになります。
つまりは今年出た利益を繰り延べて、減らしたり赤字にして、翌年の利益に回すということです。100万円+100万円の含み益だったものを、100万円分売って、金融資産100万円+現金100万円にすると、この売った100万円に税金がかかってしまいます。そこで、ここに100万円の損失と100間円の含み益をセットで作ります。すると、税金がゼロになり、100万円の含み益だけが来年に持ち越されるわけです。
課税を翌年に持ち越すことの利点は、利益分を運用できるだけではありません。給与の額は年によって変わるので、退職などで給与が下がって税率も下がったときに課税利益を発生させれば税金を減らせます。会社であれば、赤字のタイミングに合わせて課税利益を発生させれば赤字を有効活用できます。
課税を翌年に繰り延べるテクニックはいろいろとあるので、これは次回の具体編で紹介します。
控除枠と経費を活用する
さて、まず税金というのは「利益」から「費用(経費)」を引いた、課税利益に対してかかります。そして、総合課税においては、「みなし経費」として一定の金額が認められています。
この中で、節税にうまく使えるのが48万円の枠がある基礎控除です(2020年の改正で38万円から48万円にアップしました)。つまり、収入が48万円以内なら、税金は全くかからないというわけです。ただし、住民税のほうは基礎控除は35万円なので、そこはちょっと注意ですね。
※「所得税」を知ろう---もっと知りたい税のこと 令和元年10月 : 財務省*1
え、サラリーマンをしていれば基礎控除の額を超える給与をもらっているから意味がない? それはその通り。なので、これはサラリーマンをしていない家族、例えば子どもの控除枠を使うことを考えるという仕掛けです。つまり、利益を自分から子どもに移転できれば、子どもの基礎控除までは税金がかからないということになります。
経費を活用するという意味では、総合課税の箱の雑所得でも活用できます。サラリーマンは実質ほぼ経費が認められていないため給与控除がみなし経費として設けられています。しかし、雑所得については、雑所得内での損益通算が可能なだけでなく、そこそこ経費が利用可能です。
例えば、旅行ブログをやっていてそこに貼った広告からの収入は雑所得となり、総合課税の箱に入ります。このとき、旅行ブログの運営にかかった費用は経費として収入から差し引くことができます。収入より費用のほうが多い、つまりマイナスになっても、給与からは差し引けません。ただし、他に雑所得がある場合は損益を通算できます。つまり、仮想通貨やソーシャルレンディングの利益を、ブログの損失で消し込めるわけです。
法人も、実質的に控除できる枠が多い箱です。そして、株式譲渡課税の箱と先物取引雑所得は、全くと言って良いほど経費が認められていません。ところが、法人についてはその運営にかかる一切の費用が経費になります。オフィスについても、自宅と兼用しているなら費用を按分して、例えば「3割が法人」という形で費用にできます。水道光熱費や通信費も同様です。株の利益を法人に付けたら、さまざまな費用の分を差し引けるわけです。
税率の低い箱を利用する
払う税金を少しでも減らすには、低い税率の箱で支払うことが重要です。株式や先物は20.315%ですが、総合課税の箱は累進課税。これは、場合によっては20%以下の税率になることを意味します。
下記は金融庁が出している表です。配偶者や子どもがいると扶養控除がもらえるため、実際の税率は大きく変わってきますが、最もシビアな単身者の場合でも年収が1400万を超えるまでは所得税と住民税を合わせた実効税率は20%を下回ることが分かります。
ちなみに、給与が上昇すると社会保障関連の負担も増大し、これにより実効負担率は悪化してしまいます。単身者の場合で、年収500万円を超えると実効負担率は20%を超えてきます。ただし、社会保険料(年金や健康保険)は給与所得を元に計算しており、仮に株式の収入を総合課税の箱に入れても、影響はありません(年金生活者を除く)ので、その点はご安心を。
税率という意味では、法人も課税所得400万円以下なら実効21.421%なので悪くありません。先の幅広く経費を使える点と合わせれば、普通に20.315%の税金を払うよりも税額を下げられることになります。
節税の意味
このように、節税と脱税は違います。あくまで決められたルールの中で、いかに支払う税金を減らすかというゲームです。税金のルールは複雑で、だからこそそれを理解すれば何も考えないのに比べて多くの税金を減らせることになります。
例えば特定口座は便利な仕組みですが、これだけを使うとこうなります。1年目に100万円の利益が出て20万円の税金を払い、2年目に100万円の損失が出て、税金ゼロ、3年目にまた100万円の利益が出たら20万円の税金です。合計100万円の利益で、税金は40万円です。
ところが確定申告を行い、損失の繰り越しを行うだけで、2年目の損失を3年目の利益に当てることで3年目の20万円は不要になります。合計100万円の利益で、税金は20万円に減ります。
さらに、さまざまな手法を駆使して利益を繰り延べるだけで、合計100万円の含み益で、支払った税金はゼロ。そのくせ、手元に100万円の現金を持つ、なんてことも可能です。これらは、制度が損失の繰り越しを認めているから実現する話で、使うのはアンフェアな話ではありません。知らない人は、余計に税金を払っているというだけの話なわけです。
次回は、この「繰り延べ」「経費」「税率変更」という3つの仕組みをどう使うのかを、考えてみたいと思います。
*1:この財務省の図からは、社会保険料控除が記載されていません。健康保険と国民年金/厚生年金の額は控除でき、けっこうな額なのですが、「など」にまとめられてしまっています。なんでだろ?