最近再びマイクロ法人の設立に関心を持つ人が増えてきたようです。マイクロ法人とは、社員を雇ったりすることなく、代表者(社長)が一人で運営する法人です。事業形態によっては、資産管理法人なんて呼ぶこともあります。
マイクロ法人のメリット
なぜわざわざマイクロ法人を作るのかといえば、節税メリットの享受が中心です。個人の副業や、個人事業主として収入を得てしまうと、それらは基本的に給与に合算され、累進課税の総合課税となり、人によっては高い税率になってしまいます。
ところが、法人であれば、実効税率ベースで、21.421%(年間所得400万円以下)、23.204%(年間所得800万円以下)と、株式の分離課税並に税率が下がることになります。
そしてこの課税は、「所得」に対してかかることがポイントです。収入から経費を引いたのが所得なので、いろいろと経費がかかればその分所得は減ります。個人の副業だと、経費にできるものはたいへん限られますが、法人の経費は幅広く認められていることもポイントです。
事業のために必要になる書籍や交通費、PCはもちろん、自宅の家賃や光熱費などを按分して経費にすることができます。また、小規模企業共済などに入れば(ぼくは入っていませんけど)、その積立金も経費にできます。
さらに、自分や家族に給与(役員報酬)を出せば、それも経費にできますね(いろいろと細かい条件あり)。そんなわけで、年間所得を800万円とか400万円とかに収めることは容易で、これがマイクロ法人を活用した節税なわけです。
節税以外のメリット
そのほかにも裏技的に法人を使うメリットはあります。例えば副業ですね。副業が完全に禁止されている企業に勤めていても、株を保有することを禁止している企業はありません。そのため、マイクロ法人を作って100%株主になり、親族などに代表者になってもらえば、基本的に自分の会社ながら、副業に当たらない状態になります。
その上で、自分が副業したら報酬の払い先は法人にしてもらえば、誰にも補足しようがありません。以前銀座のホステスが、自分の会社で人材派遣業を営み、自分がそこに登録して、銀座のクラブに派遣するという仕組みで節税していたというニュースもありました。これは違法ではないのですが、その会社が所得隠しをしていたとかでニュースになった次第です。
個人の所得を減らすのにも、法人は使えます。例えば、自分の保有するクルマを法人に貸し出せば、それによって法人から報酬を得られる一方で、クルマ自体を減価償却できることになります。個人のクルマの購入費を経費にする手法の1つですね。
個人の場合、給与収入や雑所得は総合課税、株式は分離課税、先物はさらに別の分離課税と箱が分かれていて、相互に損益通算できないことが案外ネックになります。つまり、株式の損失と仮想通貨の利益を相殺できないということです。ところが、法人ならばすべては一本の総合課税。全部合算して計算できます。このあたりの法人による証券投資のプロコンは下記に簡単に書きました。
細かな話では、法人は一つの人格ですから、例えば株式を所有すれば、1人分の名義になります。株主優待は1人につき1つしか得られないわけですが、法人があれば、実質名義が1つ増えることになります。
法人のデメリット
このようにいろいろ使い勝手の良い法人ですが、デメリットだって当然あります。1つは設立および運営コストです。
マイクロ法人の目的からいうと、株式会社にこだわる必要はないので、安く設立できる合同会社を使うと、業者委託費用が5000円程度、登録免許税6万円で設立できます。そのほかにどうしても必要なのは、実印を作る数千円の費用くらいでしょうか。
一方で、運営コストはいろいろとかかります。
- 住民税均等割 約7万円
- 税理士顧問料 5000〜1万円/月くらい
- 確定申告税理士費用 5〜20万円くらい
住民税の均等割は、会社が赤字でも支払う必要があります。都内の中小企業なら7万円で済みます。ただ毎年この費用がかかるので、節税額がこれを下回るなら、法人を作る意味合いは薄いですね。
税理士の顧問料は内容や規模によって千差万別です。顧問料を払わず確定申告だけ依頼するという人もいるようです。僕の場合は、月5000円お支払いしていますが、税金について何かとアドバイスしてもらえるので、必要経費かなと思っています。
確定申告も自分でやるという選択肢があります。昨今は、freeeやマネーフォワードなどクラウド会計ソフトが普及してきているので、それを使えば必要な書類は作成できるようです。ぼくも一度自分で決算を締めてみたいのですが、現在は全部税理士にお任せ。税金には本当に細かなことが多くて、しかも支払い漏れなら税務署は言ってきますが、払いすぎても言ってくれるわけではありません。いまのところ、自分でやるのは個人と家族の確定申告で十分かなという感じ。
さて、このように何もなくても7万〜30万円くらいの年間費用がかかってしまうのが法人です。節税効果と運営コストを天秤にかけて判断する必要があります。
法人の注意点:登記場所
実はちょっと難しいのが登記する住所です。自宅が持ち家ならそこに登記すればOKですが、マンションなどの場合、たいていは契約書や規約で禁止されていると思います。かといって、登記したからといってオーナーにそれが通知されるわけでもなく、マイクロ法人ならまさに書類上の法人住所ですから、人の出入りがあるわけでもありません。賃貸物件で法人登記を禁止するのは、不特定多数の人が出入りすると治安の悪化につながることが最大の理由のようなので、あまり迷惑がかかるわけではないというのはあります。
しかし、契約違反ということで、最悪退去することになるリスクはありますね。もちろん、登記可能な賃貸マンションもさがすとあるので、規約を確認したり、中古なら郵便受けに法人の名前がないかを確認するという手もあります。
田舎の実家などを登記先住所とする方法もありますが、郵便物がそちらに届いてしまうのはネック。となると、あとは登記専用のバーチャルオフィスを契約するという手になります。登記専用のバーチャルオフィスは、月額1600円とかからあるにはあるので、一つの選択肢ですね。渋谷区とか港区とか中央区に住所を持つ法人が、これで作れることになります。
法人の注意点:最終的な利益移転
法人が節税になるといっても、そのお金はあくまで法人のもので、経費としてしか使うことができません。マイクロ法人はオーナーと一心同体ですから、最終的には法人に残ったお金を何らかの方法で個人に移すことになります。
最も簡単な方法は役員報酬として支払うことですが、これを受け取った個人の側には当然税金が発生します。この税金をいかに少なくするかは、税理士と相談すべて一つの重要な点ですね。
よくある手法は退職金控除です。退職に伴って企業が役職員に支払う退職金は税金の優遇措置があります。
- 勤続年数20年以下:40万円×勤続年数
- 勤続年数20年以上:800万+70万円 x (勤続年数 − 20年)
たとえば、勤続10年なら400万円、勤続30年なら(800+70 x 10)1500万円までが無税で受け取れます。さらにこれを超えた分の半分が課税対象になり、かなり優遇された制度です。
そのため、小規模企業共済に入って積立金を経費としつつ、受取の際には退職金として受け取れば、節税メリットを最高に受けられることになります。また、いまでは抜け穴がどんどん塞がれてしまっていますが、企業が役員にかける生命保険の中には、けっこうな額を経費処理でき、かつ解約時にかなりの額が戻ってくるものがありました。解約タイミングを調整してそこに退職金控除をぶつけて節税するというのが、定番手法だったわけです。
もっとマニアックな活用法
このように法人にはいろいろ面白い使い方があるのですが、もっとマニアックな手法もあります。
例えば、不動産を売買すると都度取得税がかかるわけですが、不動産を所有する法人ごと売却したらどうでしょう。こうすれば、不動産の所有者は変わらないので、取得税はかかりませんね。
また、不動産や太陽光発電所などを所有する法人を相続させたらどうなるでしょう。法人の株式評価方法はさまざまですが、一般には個人が不動産を保有している場合よりもさらに低い評価額となるといわれています。
このように面白いのが法人で、一棟モノの不動産の場合、1つの不動産ごとに異なる会社を作る人もいます。どんなときに法人をどう活用すべきかは、多くの場合「税理士に相談を」で終わっていることが多いのですが、「不動産事業で最も重要なことの1つは、自分で税金を理解すること」というポリシーの玉川陽介氏の著書では、具体的な数字とともに、不動産の法人での税金をどう考えるべきかが記されています。こちらは僕のバイブルの1つです。
なお、ぼくが初めてマイクロ法人を作ってみたときからのリアルタイム実録が下記にありますので、ご興味ある方はぜひどうぞ。