信用売りの口座と、現物買いの口座が異なる、いわゆる異名義クロスは、未成年の子供の口座で優待を取得する場合の定番です。この手法は、優待が取得できるだけでなく、信用売りを行う親口座の税金を減らせるというのもメリットです。
しかし本当にそうでしょうか? 実際の数字で見ていきましょう。
親口座は損失が出るのか利益が出るのか
先日、下記のようなメールをいただきました。
●異名義クロスについて
一昨年に年間を通じて実践したところ、子ども口座の現物を権利落ち日に成行売りと親名義の一般信用売玉の成行買い戻しで決済すると、統計上では子ども口座は配当以上に下落する場合(優待分があるため)が多く、配当を受け取っても年間のマイナス。親口座は配当調整金の支払いを考慮しても年間プラスとなります。結局子ども口座内で他に配当などのプラスの所得と相殺できないと、親口座のプラス分の余計な税金が発生し、利幅が少なくなります。異名義3名義で年間実施すると親口座は相当なプラスとなり、税額があがりました。これも他の株の損失がないと通算できずに、課税額が上がりました。そこで一旦異名義クロスは中止にしておりましたが、この機会に投稿しました。
異名義クロスでは、下記のような損益構造になります。
- 親:信用売り+配当支払
- 子:現物買い+配当受け取り
クロスなので、合計すればそれぞれ相殺されますが、親と子の損益は状況によって異なります。権利付き日を過ぎると基本的に株価は下落しますが、配当額より下落幅のほうが大きければ、子はマイナス、親はプラスになります。配当額のほうが下落幅より大きければ逆ですね。
いただいたメールでは、配当額よりも下落幅のほうが大きいので、子がマイナス、親がプラスになるのでは? ということでした。
下記に書いたように、他に利益がある親のほうをマイナスにできないと、節税になりません。では実際はどうだったのでしょうか?
過去3年の異名義クロス損益実績
では、実際の異名義クロスについて、過去3年の実績をまとめてみました。
まず、異名義側の譲渡損益と配当額の合計である上の段です。これを見ると、名義Dの2021年だけはマイナス(つまり親がプラス)ですが、それ以外はすべてプラスになっています。つまり、目論見通りの利益移転がうまくいったということです。ちなみに、名義Dは他に利益のある法人なので、こちらの利益を控除できるのもウェルカムです。
では損益プラスの中身、構造はどうかというと、9サンプル中6サンプルで譲渡益はマイナスでした。つまり、現物買いで権利日をまたいだところ、これだけのマイナスが出たということです。
にもかかわらず合計がプラスということは、これ以上の配当が受け取れたということになります。
なぜ合計がプラスになったのか
では、なぜ合計がプラスになったのでしょうか。大きな可能性は、これが一般信用を利用した早期クロスによるものだからでしょう。確かに統計的には、権利確定日から権利落ち日の間で株価は下落します。理論的には配当分だけは確実に下落しますね。さらに、人気の優待を付与していれば、その分もマイナスになるはずです。
ところが、一般信用を利用した早期クロスの場合、権利付き直前ではなく、1週間前とか2週間前とかそこそこ前に現物を買うことになります。そうなると、どう変わるのか。
優待銘柄の株価のトレンドは、権利付き日に向かって2〜3カ月前から上昇し、権利落ち日にガタッと落ちる形になります。つまり、早めに現物を買った場合、株価が上昇している場合も多いということです。その場合、権利落ち日で株価が下落しても、買値よりは高くなっている——つまり譲渡益が出ている場合がある、ということでしょう。
クロスなんて不要?
しかし、この結果は少々不本意でもあります。だって、配当込みの損益がプラスということは、普通に現物を買って、落ち日以降に売却しても、優待をもらいつつ利益が出ているってことですから。裏側で、空売りした分は無駄な損失と無駄なコストでしかありません。
ただまぁ、このように損失が配当額を下回るのはたまたまということもあり得ます。大きく日本株のリスクを取る行為でもあり、空売りという保険なしには実行する気にはなりませんね。
それでも、実際のデータとして、このような結果になったのは、目論見通りに推移したという意味で、たいへん良かったことです。