ぼくのように海外株の投資をメインにしていると、気になるのは為替です。せっかく株価が上がっても為替が円高に振れたら、円建てでの資産は減少してしまいます。リスクを取ればリターンが上がるのが普通の投資の法則ですが、為替のリスクをとったからといってリターンは上昇しません。
投資信託では為替ヘッジ付きのものもありますが、米国個別株に投資している場合、為替をどうするかは問題です。そこで、今回はFXを使って為替をヘッジしたらどうなるかを考えてみます。
FXで為替をヘッジする方法
例えば1万ドルで米国株を買っていたとします。この1万ドルの為替変動をヘッジするには、FXで1万ドルを売ればいいわけです。円安になれば米国株の円評価レートが上がり、同じ分FX側で損失が出ます。円高になれば米国株が円建てで含み損となりますがFX側で利益が出ます。
ただし、FXでドルを売るにはコストがかかります。このコストがヘッジに見合うかがポイントになります。FXでのコストは3つあります。そのそれぞれについて見ていきましょう。
コスト1 スプレッド
日本のFX取引所は、手数料無料がほとんどです。一方で、買う金額と売る金額には違いがあり、それをスプレッドといいます。スプレッドは業者によって違いますが、米ドルについてはかなりの競争があり、最安値では1ドルあたり0.3銭です。1万ドルあたりだと30円になります。
このスプレッドであれば、頻繁に売買するトレーダーの場合は問題でしょうが、ヘッジ目的で保有する場合は無視できるレベルです。
コスト2 スワップポイント
次のコストがスワップポイントです。現在、円の金利は安く、米ドルの金利は高い状況です。ドルを売るというのは、ドルを借りてきて売ることになるので、米ドルの金利が毎日発生します。この金利をスワップポイントといいます。
スワップポイントも業者によって大きく異なります。売りと買いで金額が異なる場合も多いです(この差額を利用する投資手法がFX異業者アービトラージです)。米ドルを売ったときに、支払わなければいけないのがスワップポイントですから、安いほうがいいですね。
大手のFX事業者の中で、概ね最安値に近いのがDMM FX証券です。このドル売りのスワップポイントを見ると、だいたい1日34円〜35円(1万ドルあたり)で推移しています。1ヶ月30日とすると、月間で1050円程度スワップ支払いが発生することになります。
1万ドル=107.6万円とすると、月間で約0.098%、年間で1.17%にあたります。これが為替リスクをヘッジするためにかかるコストだと考えていいでしょう。為替変動をキャンセルできる代わりに、リターンが1.17%蝕まれるというわけです。
コスト3 証拠金
ヘッジコストの最後は証拠金です。FXでドルを売る場合、一定の金額を証拠金として差し入れておく必要があります。この証拠金は、いわばリターンを産まない金です。本来ならばほかの投資に充てて利益を生み出すはずが、ヘッジのために固定されてしまいます。
仮にお金を5%で運用できる力があるとしたら、毎年5%の利益を失っていると考えます。いわゆる資本コスト WACCといえます。
ただし証拠金はヘッジしたい全額をおいておく必要はありません。日本では個人のFXはレバレッジ25倍が最大ですので、最小でヘッジしたい金額の4%をおいておけばいいわけです。ただし、4%ギリギリでは為替が少し変動しただけで4%に満たなくなり、強制ロスカットといって自動的に決済されてしまいます。そのため、4%より多くの証拠金を入れておくわけです。
ヘッジコスト合計
ではこれらのコストが、合計どのくらいになり、ヘッジにかけている資金の何%のヘッジコストがかかるのかまとめてみましょう(数値は1万ドルあたり、年間)。
レバレッジ倍率にもよりますが、年間1.5%程度のヘッジコストがかかる計算になります。これを高いと見るか、低いと見るか。
先日の外貨定期預金キャンペーンのような場合は、利回りが年12%など固定となるので、1.5%程度の為替ヘッジコストをかけることで、利回りは低下しますがリスクをゼロにしてリターンを固定できます。
ただし、米国株投資の想定リターンに対して1.5%のヘッジコストは少々厳しいように思います。
フルヘッジしないという選択
一方で、為替ヘッジはするが、フルヘッジではなく一部だけヘッジするという考え方もあります。下記は、三菱UFJ信託銀行の2016年のレポートの図です。
外国債券では、リターンのほとんどが債券からなのに対し、リスクのほとんどは為替によるものです。こうしたときこそ為替をヘッジすべきなのですが、下記のようにフルヘッジするとヘッジコストがリターンを蝕むほうが大きいという結論になっています。
リターンが最大となるのはヘッジ比率0%の水準だが、リスクが最小となるのはヘッジ比率が 90%の水準時。そして、運用効率(リスクあたりリターン)が最も高いのはヘッジ比率が概ね 80%の水準の時である。ちなみにヘッジ比率 100%時では、リスクは相応に低いがリターンが他の比率との比較では最小となり、運用効率はさほど高いとはいえない結果となった。
では、リスクとリターンが最適な組み合わせになるのは、どの程度のヘッジをかけた場合かを示したのが下記のグラフです。
この試算では、対象が比較的リスクが小さい外国債券の場合でした。それでも、最適なヘッジ比率は60%程度となっています。では、よりリスクが大きい株式の場合はどうかというと次のグラフのようになっています。
株式の場合、為替リスクもあるが、株式リスクも大きいため、リスクとリターンの最適化という意味では、過度に為替リスクをヘッジすると全体のリターンが蝕まれる可能性のほうが高いということを意味しています。
いろいろと試算をしてきましたが、結論としては1.5%の為替ヘッジリスクは高く、米国株の為替リスクをヘッジするのであれば、やっても10〜20%程度というのがよさそうです。試算の結果、ぼくはヘッジなしでもいいかな、と思っています。
あとで、為替オプションを使ったヘッジ方法のコストについても、試算してみたいと思います。