Fintechサービスが次々と現れる昨今ですが、中でも少しずつ増えているのがカジュアルな借金を提供するサービスです。単純にお金を貸し出すものもあれば、ECサービスと連携して支払いを遅らせたりするものもあります。個人的に、どうもこれらの印象がよくない。そこで、良い借金、悪い借金とは何なのか、考えてみたいと思います。
そもそも借金のメリットとは?
そもそも借金をするメリットってなんなのでしょう? これは法律用語で「期限の利益」と呼ばれます。
期限の利益とは、一定の期限が到来するまで弁済(支払い)をしなくてもよい、という債務者の利益をいいます。
たとえば、今日が1月1日で、3月末日が100万円の支払期限であるとします。
そうすると、支払いをしなければならない債務者としては、いますぐ100万円の支払義務があるのに対し、3月末日までの間、100万円を支払わなくてよいことになります。
その間に、100万円と別の用途に使うこともできますし、運用してより利益を得ることもできます。
簡単にいえば、支払いまでの間、資金を別の用途に使ったり運用できるということです。これは株式投資をしている人ならよく分かりますね。つまり、ここでは比喩ではなく、「時間はカネ」なわけです。
もう1つ、まさに「時間をカネで買う」効果があります。住む家を3000万円で買うことを考えてみましょう。3000万円貯めてから買えば借金は不要ですが、月に10万円を貯めたとしても貯まるまでに25年もかかってしまいます。これでは、やっと持ち家が手に入るころには老後になってしまいますね。ところが住宅ローンを使えば、手持ちのお金がほとんどなくてもすぐに住む家を手に入れられます。
そして住みながら、貯める代わりに返済を行う。この時間をカネで買う対価として、金利を支払うわけです。
時間とカネの関係
このように「時間」と「カネ」が等価であることを理解すれば、貯蓄や投資が「時間をカネで買ってもらう」ことだということも分かります。現在持っているお金を使わずに、未来に利用できるように株という形で企業に預けたり、預金という形で銀行に預けたりする。
投資や貯蓄は現在から未来への価値の移転なのです。その対価として運用益、リターンがある。逆に、借金は未来から現在への価値の移転になります。その対価として、金利を支払います。
このとき、対価であるリターンや金利は、さまざまな要因で変化します。ベースとなるのがインフレ率や短期金利の状況でしょう。ここに、借りた相手が本当に返せるのかという信用リスク分が上乗せされます。
信用リスクは、相手がほかに収入があって、何かあってもそこから補填できるなら小さくなりますね。士業の人や公務員、大企業に勤める人が有利なのはこのためです。また、返済ができなくなっても別のもので返してもらえるならリスクが減ります。自動車ローンなら自動車*1、住宅ローンなら建物や土地を担保に入れて、返済できないならその現物で返してもらうわけです。
投資のリターンも同様になります。何かあっても補填してくれるような信頼できる相手への投資はリターンが小さくなります。国は何かあっても税金で国民から徴収できるので、国債のリターンは極少です。株式会社は倒産してしまえば何も返ってこないですし、代わりに受け取れるような資産は、通常、貸し付けた債権者のほうが優先的に持っていきます。株式保有者は最後になるわけで、その分リターンが大きいわけです。
こう考えると、借金の金利は「信用が大きく」「担保がある」ほど低くなることが分かります。だいたい次のようなイメージでしょうか。
- 住宅ローン (不動産が担保) 0.47%程度
- 不動産融資 (不動産が担保) 1.5%程度
- 自動車ローン(自動車が担保) 0.9〜3%程度
- 証券担保ローン(証券が担保) 1.5〜4%程度
- 目的別ローン (無担保) 3.5〜9%程度
- カードローン(無担保) 1.5〜18%程度
- キャッシング(無担保) 15〜18%程度
- リボ払い(無担保) 15%程度
複利で影響する金利
金利の高さはイコール、時間の価値です。金利が1%を切る場合と10%近い場合で、どのくらいの違いが出るかはグラフにするとよく分かります。下記は、典型的なローンとその一般的な金利について、元本を返済せずに複利で借金が膨らんでいったらどうなるかを現しています。
住宅ローンは10年経っても1.05倍にしかなりませんが、目的別ローン(4%)は1.5倍に、カードローン(10%)は2.6倍に、キャッシング(15%)は4倍に増えてしまいます。投資でいう複利の効果が借金においても発生するわけです。
金利の1%の差は、それが長期になればなるほどものすごく大きな差になって現れてくるわけです。
良い借金
ではこれだけの金利が発生する中で、「良い借金」というのはあるのでしょうか。1つのポイントは、運用との金利差にあります。
1%で借り入れを行い、3%で運用できたらどうなるでしょうか? そう。実質2%を得ることができます。しかも、そのために必要な資金はゼロ。頭金を除けば、借り入れた資金を使ってリターンをを得ることができます。通常頭金や保証金が必要なことが普通ですが、その分を考えても、通常よりも大きなリターンを得られます。これがレバレッジの原理ですね。
不動産投資であれば、2〜8%程度の利回りが期待できるところ、0.5〜3%程度の金利で借り入れることができます。この差額がリターンとなるわけです。太陽光発電でも銀行預金金利に相当するIRRで6%が目安。対して借り入れ金利は1〜2%程度です。このように、借り入れ金利と運用利回りの差額を取るために借金をするというのが「良い借金」です。
これは事業であれば至極当然のことです。企業は事業のリターンを高め、成長速度を加速させるために借り入れを行います。事業から得られる利回りよりも小さい金利でお金が借りられるなら、経営者の責任として借り入れを行うべきだともいえます。
企業にとっての借り入れ
日本企業の中には、これだけの低金利にもかからわず、「無借金経営」をあたかもいいことのように標榜しているところもありますが、これは株主から見たら無能な経営者でしょう。
逆に、Appleなどは、あれだけの利益を出しながら、100億ドルもの長期借り入れを行っています。この借り入れたお金を何に使っているのかといえば、自社株買いと配当だったりするわけです。
Appleの例から分かることは、低金利で大量のお金を借りられる事自体が、企業にとって1つの価値だということです。Apple株を100ドルで買った株主から見ると、Appleの信用を使って10ドルを借り入れ、それが配当として手元に戻ってくるイメージです。これにかかる僅かな金利は、Appleが生み出す膨大な利益で十分にまかなえます。
悪い借金
逆に悪い借金とは何でしょうか。借金は「期限の利益」を得ると最初に書いたように、いずれ支払うものを、金利を支払って先に手に入れることに価値があります。ここでは「いずれ支払う」という点が重要です。
例えば生活費が足りずにカードローンで借りることを考えてみましょう。ここに「いずれ支払う」という意識はどのくらいあるでしょうか。生活費が足りないということは、恒常的に収入よりも支払いのほうが多い状況だということです。いずれ支払うためには、支出を超える収入から貯蓄していかなくてはいけませんが、それができないから足りなくなったともいえます。
このように、借金を「事業の観点」で見るか、「生活の観点」で見るかで、景色は全く変わってきます。さて、本題は「Fintechサービスにおける借金サービスの是非」でした。長くなったので、そのあたりは続きにて。
*1:銀行以外の自動車ローンだと、そもそも所有権は信販会社にあったりしますが。