経済的に自立(FI)した上で、退職に限定せず好きな仕事で働く(RE)ことがFIREだと思っていますが、今回サラリーマンも退職し、世間的な意味で完全FIREすることにしました。
健康保険と同様に、これまで勤め先が手配してくれていて意識する必要がなかったのが年金です。しかしFIREすると、自分で年金をどうするかデザインすることが可能です。
年金の3つの選択肢
サラリーマンは基本的に、厚生年金という種類の年金に入っています。よくある下の図でいう「第2号被保険者」ってやつです。ややこしいことに、国民年金に上乗せしてもらえる(2階部分)のが厚生年金ですが、支払いも受け取りも全部まとめて「厚生年金」という名前になっています。
さて、FIRE後は実は「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」の3種類の選択肢があります。やりようによって、どれでも選べるということですね。それぞれのメリット、デメリットがあり、どんなFIREか、年金に何を期待するかによって選択が変わってきます。
ざっくりいうとこんなイメージです。
- 第1号被保険者:年金に期待しない。支払いも減少、年金額も減少
- 第2号被保険者:この中では最も手厚い年金。支払いもそこそこ
- 第3号被保険者:年金額は中。支払いはゼロ。ただし働いている配偶者が必要
今回は最初の「第1号被保険者」の選択肢から見ていきましょう。
第1号被保険者 納付免除・猶予申請を活用
あまり考えずに退職すると、この第1号被保険者になります。いわゆる国民年金に加入する形です。国民年金(基礎年金)は計算がシンプルです。
令和5年度で見ると、
79万5000円(2023年度)×(納付月数)/480カ月
20歳から60歳までの40年間納付すると、ちょうど480カ月
つまり、フルで納付していれば、年額795,000円、月額にすると66,250円がもらえるというわけです。これが基本形です。
一方で支払う保険料は、月額16,520円です。年額にすると198,240円になります。ざっくり言うと、毎年20万円を40年間収めると、65歳から死ぬまで毎年80万円もらえるのが基礎年金だというわけです。
FIRE後も、毎月16,520円を払い続けて60歳を迎えれば、年額795,000円の満額受給が可能です。しかし、FIREとは無職ですから全額免除や一部免除を申請することも可能です。
国民年金保険料が免除される年収の基準とは?年金減額への対策も解説|年金|Money Journal|お金の専門情報メディア
専業主婦がいて子供2人を扶養しているなら、4x35万+22万で年間所得が162万円以内なら、全額免除申請が可能です。そのほか、所得が少ないなら全額でなくても免除が申請できます。
しかし単に払わない「未納」に比べて「免除」のメリットはなんでしょうか。
79万5000円(2023年度)×(納付月数)/480カ月
という計算式において、未納は単純に納付月数が減少し、受給額もその分減ってしまいます。ところが免除だと、保険料は払っていないのに一部払ったとみなして計算してくれるのです。
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全額免除→1/2
- 3/4免除→5/8
- 半額免除→3/4
- 1/4免除→7/8
つまり全額免除で10年=120ヶ月を過ごした場合、納付月数のマイナスは120ヶ月ではなく60ヶ月で済むという計算です。同じく1/4免除なら、納付月数のマイナスは120ヶ月ではなく15ヶ月で済みます。7/8なので105ヶ月は納付したとみなされるわけです。
このように免除制度を活用すれば、年金保険料の支払い額を減らしながら受給額はそれほど減らないという形になります。これが「年金に期待しない。支払いも減少、年金額も減少」の意味です。
納付免除戦略のデメリット 受給額も減少
年金の保険料を払わないのに、一部は年金を受給できるというこの仕組み、公的年金が積み立てたものではなく、いろいろな意味で”保険”であることが分かります。ただし、これが万能の最適解かというと、そうでもありません。
まず支払い減少額ほどではありませんが、受給額も減ります。例えば50歳から全額納付免除を受けると、通常よりも約200万円の支払いが減ります。一方で受給額は88%、12%しか減りません。額にすると年間約10万円の減少です。つまり20年以上生きると、フル納付したほうが計算上はお得だということになります。
65歳から受給を始めて20年後は85歳。平均余命から考えると、まぁ得するか損するかは五分五分といったところでしょうか。ただし、公的年金は”得か損か”ではなく、長生きしたときに資産が底をつかないための保険です。その発想で考えると、年金額は追加振込で額を増やすほうが、免除を受けるよりもメリットが大きいのではないかと思います。
ちなみに半額免除だと支払額は100万円減って、受給額は7.5万円減ります。分岐点は13年。まぁ大体の場合はフルで納付したほうがよかったという結論になりそうです。
つまり、公的年金は受給額が大きく引き下げられるか破綻すると考えている人が取るべき戦略が、この納付免除戦略だといえるでしょう。
納付免除戦略のデメリット 家族はどうする?
もう一つ考えておかなくてはいけないのは、家族の公的年金です。サラリーマンはこれまで第2号被保険者でした。そしてその妻は専業主婦であっても、第3号被保険者として年金受給が可能でした。
ところがFIREを機に、第1号被保険者に移行すると、その妻も第1号被保険者になることになります。全額免除されたとしても、支払い額はこれまでと同じ。でも受給額は減少します。
というわけで、配偶者が働いていない場合、この戦略は逆にコストアップになる可能性もあるのです。逆にいうと、配偶者に60歳まで働いてもらう必要があります。
しかし、配偶者が働いていて第2号被保険者なのであれば、FIRE後、自分が妻の扶養に入って第3号被保険者になるという戦略のほうがいいのではないでしょうか。ここは次に詳細を検討します。