この数日、はてなブックマークで投資に関する議論が盛んになっています。あそこの住民は、一般人というよりはIT系エンジニアとかも多くて、合理的かつロジカルな考え方をするもののほうがウケる傾向にあって、その辺がちょっと特殊。その中で、「投資いいよ派に聞きたいこと」という増田があったので、回答を考えてみました。
- リーマンショックレベルの下げは織り込んでいますか?
- 日本のバブル崩壊や失われた30年のような長期低迷を織り込んでいますか?
- 株価はずっと上がり続けると思いますか
- ドルはずっと上がり続けると思いますか
- 複利は逆にも働くことについてどう思いますか
- 今の60歳以上の一般層に、投資で安定して暮らしてる人が居ないことについてどう思いますか
- 若者ほど投資に興味があることについてどう思いますか
- 一般アメリカ人が投資で潤ってるイメージはありますか?
- なぜ国が個人投資を押し進めていると思いますか?
- 銀行はなぜ投資先がないと喘いでいると思いますか?
- 年利4%だと、30年で3.2倍ですけど、そうなると思いますか?
- がんばれ問者!
リーマンショックレベルの下げは織り込んでいますか?
当然織り込んでいます。60%くらい一時的に下げて、3年くらいはリーマンショック前に戻らなかったわけですが、その後、株価がどうなったかはご存知のとおり。
日本のバブル崩壊や失われた30年のような長期低迷を織り込んでいますか?
当然織り込んでいます。特に米国の株価はバブルである可能性も捨てきれず、なので米国外に投資し続けることが重要ですね。
株価はずっと上がり続けると思いますか
超長期で見れば、上がり続けます。理屈でいえば、経済成長し続ける限り企業業績も伸びるとかいろいろありますが、事実に目を向けて欲しいということなので、かの有名な『株式投資』からの図を。
※ジェレミー・シーゲル 株式投資 第4版 より 縦軸は対数
ドルはずっと上がり続けると思いますか
上がり続けるわけがありません。それこそ10年単位くらいで見ると、購買力平価から見て超円高になる可能性もあるし、逆に日本の財政が崩壊して国債が暴落し、円が紙くず=超円安になる可能性もあると思っています。
IIMA-GMVI・購買力平価 | 公益財団法人 国際通貨研究所
複利は逆にも働くことについてどう思いますか
複利は別に魔法でもなんでもなくて、単なる数学的な事実です。利息に対してさらに利息が付くことを複利といいますが、この期間が短いほど、当然複利は加速します。そして利息が付く期間を無限小まで短くしたものを連続複利といいます。そして、これは年リターンの自然対数になります。
グラフにすれば対数グラフです。なので、増加するときも減少するときも対数として増減するだけです。これが事実であり理屈でもありますが、一体何を言いたかったのでしょう?
今の60歳以上の一般層に、投資で安定して暮らしてる人が居ないことについてどう思いますか
投資=株式投資で、投資≠預貯金だという前提なら、国内の多くのシニアは投資で暮らしているのではなく、貯金+年金で暮らしているでしょう。これは単に、直近30年、国内の株式市場が全然伸びなかった、いわゆる失われた30年だっただかというだけです。不調な株式に資金を投じず、デフレ下で実質利回りが上昇していた預貯金という、最も合理的な投資を行っていただけです。
若者ほど投資に興味があることについてどう思いますか
大きな潮流として、従来の日本老後モデルは、終身雇用に伴う退職金と年金で成り立ってきました。ところが、3つの転換が起きてきています。
- 寿命の増加
- 終身雇用の終焉
- 年金の不安定化
寿命が短ければ、定年退職後の必要生活費は少なくて済みます。ところが、寿命が伸びると、定年退職後も働くか資産を作るしかありません。終身雇用の終焉はトヨタ社長がいうくらいだからやってくるでしょう。今働いている人は逃げ切りますが、若者は終身雇用はないと理解しています。
年金は、存続するか否か/インフレに連動してちゃんと増額できるか否かが、ごっちゃに議論されています。年金は存続はさせるでしょう。ただし、額は大きく減少するはずです。すでに「マクロ経済スライド」という謎の名称を付けた減額装置が稼働しています。
この3つを考えると、新卒で入った会社と国におんぶにだっこでは、老後が賄えなくなるのは自明です。自分で対策を練らなければなりません。その答えが、投資だということです。
一般アメリカ人が投資で潤ってるイメージはありますか?
イメージの話ですよね?大いにあります。というか、クレジットカードで借金して、それで浮かせた現金を株式投資に回す人種だというイメージです。
なぜ国が個人投資を押し進めていると思いますか?
先の3つの転換を考えたときに、国はもはや面倒を見きれません。だって、そのためには増税する必要があるから。ならば、「もう国は面倒をみませんよ。自分でなんとかしてね」というメッセージが、個人投資推進です。
銀行はなぜ投資先がないと喘いでいると思いますか?
日本企業に資金需要がないからです。輸出ビジネスをやっている企業を除けば。つまりは、日本の内需は全く伸びておらず、そのために生産力の増強も必要としていないということです。GDPが上昇していないんだから、銀行からみても投資先がないのは当たり前です。というか、ぼくは借りるから、ぼくに貸してください。
年利4%だと、30年で3.2倍ですけど、そうなると思いますか?
これは単なる算数の問題です。幾何平均年利が4%ならば、それを30年続けると3.2倍になります。これは事実であり、理屈だとか意見が入るものではありません。問者は「年利4%なんてあり得ない」と思っているのかな?
がんばれ問者!
さて、ここまで「聞きたいこと」に答えてきました。この問者は、
投資懐疑派です
株も為替も10年以上やってるけど、投資はギャンブルだと思ってる
ゼロサムだと思っているので、リスク回避の意味で減らさない手ではあるが、安定して増やす手ではないと思う
ということなので、間違いなく10年投資やって資産が増えていない人ですね。ゼロサムの定義はいろいろでしょうが、要するに増えていない人です。10年前というと、2012年。このときに、どんな資産を買ったら損失を出せるのでしょうか?
はい。原油(USO)を買っていたら、確かに大きな損失ですね。しかしそのほかの場合はどうでしょう。金(GOLD)の場合は+79%(平均6%)、長期米国債(IEF)だって57%のプラス(平均4.7%)です*1。日経225で+212%(平均7.8%)だし、S&P500で+379%(平均14.2%)、ビットコインなんてさらに凄まじいリターンです。
この10年間は、過去のさまざまな市況と比べても、非常によくて、ボーナスステージの連続でした。よほど変なものでなければ、何を買っても大きく資産が増えた10年間だったのです。
この相場において、資産を2倍にもできなかったということは、(1)売ったり買ったり繰り返した(2)一つ、またはごく少数の銘柄に集中投資したのどちらかです。
単に幅広い銘柄に分散投資して平均を狙うか、世界で最も安全なノーリスクの投資先である米国債に投資しただけでも、4.7%のリターンが得られたわけです。こんな市況をもって「ゼロサム」発言が飛び出すわけですから、「投資いいよ」と思えない気持ちも分かります。
※なんかはてブがいっぱいついて、過去最高レベルでバズっています。ありがとうございます♪
*1:しかもこれ、配当除く