FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

人件費を減らすと生産性は上がるのか下がるのか

「生産性」が日本の重要な課題といわれて久しいですね。でもこの「生産性」、使われる場面によって意味がけっこう違うことに注意が必要です。使われ方によっては、全く逆のことを意味する場合があるからです。

 

例えば、人件費がそうです。給与を削減したり、従業員を減らすと、生産性は上がるのでしょうか? 下がるのでしょうか?

生産性は、投入に対する産出の比ではあるが

一般的に、生産性とは投入した資源に対して、どのくらいの産出があったかを示します。少ない投入で多くを産出できれば、生産性が高いということです。

 

このとき、投入する資源は、労働者であったり資本であったりします。投入量に注目した場合、労働者を減らせば生産性は上がるといえます。特に一人あたり生産性はそうですね。ただし、それは産出が変わらなければという前提があります。

産出は、生産量の場合と付加価値の場合が

一方で、分子にあたる産出については、2つの考え方があります。一つは生産量の増加です。一般的な感覚では、これをイメージすることが多いでしょう。たくさんモノを作った、たくさん営業した、たくさんの書類を処理した。こんな感じです。

 

もう一つは、付加価値です。付加価値というのは、P/Lでいう粗利ですね。売上高から、材料費など仕入れた額を除いた部分です。つまり、人件費+販管費+経常利益+減価償却費になります。

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経済統計などで使われる「生産性」は、この付加価値ベースの考え方をしています。要するに粗利率≒生産性ということです。

 

付加価値ベースの考え方では、人件費を減らしても生産性は上がりません。売上が同じであれば、その分利益が増加するだけだからです。つまり、生産性向上のために人員を減らしたり、給与をカットしたりしても、影響はないということです。生産性向上の名を借りた、利益アップの策でしかありません。

生産性アップとは本来売上げアップ

この図式で見ると、一般のイメージと生産性の見え方が変わると思います。生産性向上というと、なにやら少ない人数で効率的に仕事をこなすことのように感じますが、それは利益の上昇には寄与しても、必ずしも生産性アップにはつながらないのです。

 

では何が必要なのか。シンプルにいえば、売上のアップです。

 

外部から仕入れたものに、いかに付加価値をつけて高く売るか。これが本来の生産性アップなんですね。売上増加率に対して、人件費の伸びのほうが低ければ、単純に粗利率は上昇します。つまり付加価値が増加して、生産性も上がるというわけです。

 

翻ってみると、日本企業の基本戦略は、いかに安く販売するかの競争だったように見えます。同じものをより安く提供する。これはシェア拡大のためには重要な戦略ですが、結果起こったことはモノがどんどん安くなるデフレでした。

 

この戦略のキモは、資本を増強して機械化を進めるとともに、人件費を安く抑えることにありました。これが安くものを提供するために必要だったことで、多くの経営者は、これを疑うことはなかったでしょう。

 

でも、付加価値とは何かを改めて見てみれば、機械化による減価償却費増はともかく、人件費の削減は付加価値の減少をもたらします。売上が同じならば、その分が利益に回るわけで、それがこの10年ほどの企業業績の好調につながっていました。

少人数で同じ付加価値を作ることも重要だが

ところが日本の現状は人手不足です。そこで、人件費に充てていたコストを機械化やIT導入に振り替えて対応しようとしています。ところが、これも付加価値の計算の中で、人件費から減価償却費に費目が移るだけなんですね。

 

本来は、機械化やIT化も進めたうえで、人件費もアップさせて、付加価値を増大させることこそが、生産性のアップにつながります。それはつまり、売上を増加させるということです。

 

しかもこの場合の売上増は、安いものをさらに大量に売るやり方ではいけません。粗利率は向上しないからです。本来は、より高く売ることで売上増を目指さなければいけないのです。

売上増が難しいのは分かるが

経営の立場からいうと、そんな簡単に売上増が果たせたら簡単だと思うでしょう。でも多くの場合、いかにコストを下げるか、いかに営業を強化して売上を増やすかという経営戦略が中心で、いかに高く売れる商品を作るかには注力が足りないのです。

 

高く売れる商品というのは、ほかとは違う機能性を持ったもの、ほかにはないブランド性を持ったもの、そしてこれまでにはない市場を切り開いたものです。

 

ブランド戦略や新しい市場を切り開く点では、日本企業は欧米企業に遅れを取っています。「モノづくり」の発想や、松下やダイエーの「水道哲学」的な発想から抜けられていないから、現在の姿があるのでしょう。マーケティングやイノベーションが、さらに重要になっていきます。

 

下記は、ルイ・ヴィトン、ディオール、タグ・ホイヤー、デビアス、ヘネシー、ドンペリ、ピナレロなどのブランドを有するLVMHの業績推移です。

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Stockclipより

世界の富裕層が増加していることも追い風ですが、高い付加価値をつけられる製品を作り出していることが、このマーケットに受け入れられる原動力になっていることがわかります。