FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

GDPは世界のP/Lだが、B/Sはどこにある? 書評『幻想の経済成長』

『幻想の経済成長』を読みました。現在、経済成長というのはGDP成長と同義です。GDPとは何か? その歴史をさかのぼり、GDPの限界とその弊害を綴ったルポ的な本になります。

幻想の経済成長

幻想の経済成長

 

 

GDPは一体何を示しているのか?

経済に関心があれば、一度はGDPってなんなのか? と調べてみたことがあるでしょう。GDPとは1年間で生み出された富の量だと言われますが、まだなんだかよく分かりませんね。よく言われるように、GDPには三面等価の原則というのがあります。GDPが何を示しているのかは、これを見るとぼんやりと分かってきます。

 

1つ目は「分配面」です。つまり生み出されたものを誰に分配するかです。これは、労働者の「給与」全体と、企業の「利益」全体=株主のものに大きく分けられます。正確にこまかく言えば、もっといろいろとあるのですが、約500兆円の日本のGDPのうち、「給与」が274兆、「利益」が106兆で、合わせて76%を占めます。つまり、GDPが増えるということは、給与または利益が増えるということを意味しています。

 

2つめは「支出(需要)面」です。使われたお金の合計もGDPに一致するのですが、誰が使ったかということです。これも個人や企業が消費した「民間最終消費支出」が302兆、政府が使った「政府最終消費支出」が107兆、そして工場など資本に変わった分を指す「総固定資本形成」が130兆となります。輸出と輸入を足し引きしますが、だいたいこれで全部です。生み出した富のうち、80%は何らか使っちゃってるということですね。工場や住宅など資本になるのは20%程度ということです。

 

そして3つ目が「生産面」です。これは、各業界の売上から、仕入れにかかった費用を除いた残りを合算したものです。100円で仕入れたものを200円で売ったら、100円が付加価値になります。この100円分が生産面で見たGDPとなります。要は、国全体で生み出した付加価値の合計がGDPであり、それが生産面からの見方だということです。消費税は付加価値税とも言われるように、この部分にかかります。つまりGDPの10%が消費税となるわけです。18年度の消費税収入は17.7兆円、今回の2%アップでさらに4.6兆円が見込まれています。合計で13.3兆円。けっこう足りないですが、これは消費税のうち2.2%は地方消費税に回されている点もあるのでしょう。

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GDPを構成する付加価値とは何か | SPEEDA

犯罪も公害もGDPを増大させる

簡単にGDPの仕組みを紹介したのは、GDPの問題点をよく知るためです。GDPが上昇する=富が増える=幸せになる、みたいなイメージで捉えられがちですが、この仕組みを見ると、GDPを増やすにはいろいろな方法があることが分かります。

 

例えば、武器や兵器の製造はGDPを増やします。環境が悪化して病気が増えればGDPが増加します。そもそもGDPを考えだした経済学者のクズネッツは、こうした反社会的な数値はGDPから除外するべきだと考えていました。

クズネッツは、あらゆる活動を大ざっぱに合計しただけにしか見えない数字よりも、国民の幸福度を反映できる測定方法の実現に向けて努力を続けていたのだ。彼は、非合法活動や社会的に有害な産業、それに政府支出の大半についても除外したいと考えていた。だが、クズネッツはこうした論点の多くで敗北した。

当時は第二次大戦直前。GDPは戦争の申し子だったと著者は書いています。いったいいまの経済はどれくらいの戦争を支えられるのか。それを知るために、つまり戦争遂行計画のためにGDPは洗練されていきました。

 

クズネッツは、 国民の幸福度を表すものとしてGDPを考えたので、経済の定義からは国防費を除外すべきだと主張したのですが、逆に国防費を正当化するための数値としてGDPは使われたのです。よく国防費はGDPの1%以内に……ということが日本でも言われますが、そもそも国防費もGDPに入っているのですから面白い話です。

 

犯罪もGDPを押し上げます。例えば、自動車窃盗団が増加して、クルマが盗まれまくった場合はどうなるでしょう。GDPの計算は、「自発的に当事者間で行われる金銭授受を伴う取引」を対象としています。つまり自動車が盗まれてもGDPには反映されません。ところが、窃盗団が盗んだクルマを売りさばき、その代金を使ってデパートで買い物をしたらそれはGDPに反映され、経済を押し上げることになります。

『窃盗の増加は経済に貢献する』などという見出しが載るところは想像したくありません」とマハジャンは語っている。「しかし、何も生産していないところから金が生まれるという意味では、まさにその通りのことが起きているのです。同じ商品を使って二度利益を上げているわけです

 金銭のやり取りを伴わない行為も、GDPに反映されません。例えば、家庭内での家事や育児、こうしたものはGDPにならないのです。だから、女性の社会進出に伴って、家事や育児が外部に委託され、金銭授受が発生すると、これはGDPを押し上げることになります。でも、これの実態は、これまで金銭授受がなかったものに値段を付けただけですよね。

 

さらに、GAFAのようなネット企業が素晴らしいサービスを無料で提供することも、実はGDPを押し下げます。

「破壊的イノベーションを実現するハイテク企業の目標は、統計的な意味で言うと、GDPを低下させることにあります。そのためには、計上される取引コストを計上されない利便性に置き換えて、消滅させてしまえばいいのです。その結果、経済は縮小しつつありますが、誰もが以前より得をしているはずです。

GDPはこのようにして、比較が難しくなっていくわけです。

GDPはP/L。ではB/Sは?

企業の評価を行うとき、P/Lだけを見る人はいないでしょう。P/Lとはその年のスナップショットであり、重要なのはB/Sに示された純資産がどう変化したかです。

 

そしてGDPは企業でいうP/Lに当たります。なんと地球規模で見た場合、B/Sに当たるもので誰もが認めるものはありません。P/Lを増加させるために、もしかすると資産の一部を毀損させている。そんな可能性が、昨今ますます高くなっています。

「ショッピングモールを建てるために湿地帯が埋め立てられた場合、前者の建設はGDPに貢献するが、後者の破壊が記録されることはない。

 原油産出国は、地下から原油を汲み出すことで高いGDPを誇っていますが、これは実際には天然資源というB/S内の資源を減らしてGDPに変えているだけです。ノルウェーのように、原油で得た利益を株式など別の資産に変えている国もありますが、そのままほとんどを消費してしまっている国もあります。結局のところ、GDPの上昇というのは、経済が成長しているわけではなく、単に地球全体の資源を減らしてGDPに変換しているだけかもしれないわけです。

 

こうした問題意識から、地球全体のB/Sを作ろうという試みも何度もされており、いくつかの試算では33兆ドルとされています。また、GDPに代わる、真に国民の幸福度を表す指標を作るという試みも、本書では紹介されています。

3%成長が永遠に続くなんてあり得ない

昨今の政治は、GDP成長が命になっています。本書でも「GDPを犠牲にして◯◯を達成する」と言ったらその政治家は落選するに違いないと指摘されているように、政治的にはGDPの成長は絶対命題です。

 

ところが、(実質)GDPが3%成長を続けるなんてあり得ないことはすぐに分かります。3%成長が10年続くと、経済規模は1.3倍になります。20年続くと1.8倍、50年続くと4.3倍、100年続くと19倍を超えます。現在の経済規模の19倍という世界がどんなものか想像がつくでしょうか? 現在のぼくらはGDP3%成長に不満足ですが、3%という成長率は、地球のポテンシャルを考えると高すぎるともいえるわけです。

 

ピケティは次のように書いています。

このどれも、成長を年率4〜5%に引き上げたりはしない。歴史的に見て、そんな勢いで成長できるのは先をゆく経済に追いつこうとしている国だけだ。世界の技術最前線にいる国にとって、どんな経済政策を採用しようとも、成長率が長期的には1〜1.5%を超えないだろうと考えるべき理由はたくさんある。

 これからも政治家は、なんとかしてGDPをあげようといろいろな手を使うと思いますが、本質的にはそれは地球のB/Sを損なって上昇しているか、金銭に換算されていない価値を金銭取引に変えることでGDPに参入しているかのどちらかなのでしょう。

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※世界銀行 全世界の実質GDP推移

投資家にとっては、いずれも企業の収益上昇につながることでリターンになっていきますが、この流れがずっと続くのは難しい、またはどこかで大きな弊害が現れるということは意識しておきたいと思っています。