FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

なぜEV支援が必要なのか 市場に任せておけないわけ

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Teslaに代表されるようなEV企業に対し、日本の自動車メーカーは出遅れていると言われます。そしてEV企業の株価が急上昇する一方で、既存の自働車メーカーの株価は冴えません。

 カーボンニュートラルに風向き変わる

これは、バイデン政権になって政策が転換され、CO2削減に前向きに変わったこと、また菅政権が2050年カーボンニュートラルを宣言するなど、国内外で風向きが一気に環境にシフトしたこともあるでしょう。

 

一方で、国内自動車メーカーの応援団からは、次のような声も聞かれます。

  • EVは過剰評価されている。高すぎて買えるものではない
  • EVを大量生産しようとも、そもそもバッテリーの材料がない
  • HV、PHVを経て、ゆっくりとEVに向かうのが正攻法だ

このそれぞれはそのとおりでしょう。EVの製造は簡単だと言われますが、最大の課題はバッテリーです。EVのコストの半分以上をバッテリーが占めており、バッテリーが安くならなければEVは安くならないからです。

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我が国の電気自動車の普及についての考察

バッテリー(ここではメジャなリチウムイオン電池)の価格は年々下がってきていて2020年〜2025年にはkWhあたり100ドルまで下がることが期待されています。ところが、リチウムイオン電池のコスト構造を見ると、その3割が正極材、そしてその原料である炭酸リチウムの価格が高騰しています。

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Lithium carbonate (global average) and lithium hydroxide (China)... | Download Scientific Diagram

一方で、現在主流のリチウムイオンに代わる電池の開発も進んでいます。経済産業省が示したEV向けバッテリーのロードマップです。

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トヨタも開発表明した全固体電池は、電解液を使わず電極間を固体でつなぐ電池です。電解液は発火性があるので、全固体にすると発火リスクが小さく、多くの場合超高速充電が可能になります。また、エネルギー密度が高まるといわれています。

EVのシェアはまだ2.4%

こうした技術の進歩とは別に、EVがブレイクするには別の問題もあります。量産によるコストダウンとインフラの問題です。

 

自働車に限らず、工業製品の価格を下げるには大量生産は必須です。ところが、全世界の自働車販売台数約9100万台に対して、EV(PHV含む)は220万台(2.4%)でしかありません。いかにこの比率をアップさせるか、普及のカギになります。

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もう1つは、インフラです。全国津々浦々にスタンドが張り巡らされているガソリン車とは違い、EVを充電できる場所は限られます。自宅で充電しようにも、家庭用100Vでは遅く、200Vの設備は工事が必要です。また、都市部で多くの人が住むマンションでは充電設備自体がないものがほとんどです。

 

この大量生産およびインフラ確保、そして価格は、それぞれが鶏と卵の関係にあります。インフラが整備され、価格が下がれば需要が増して大量生産でき、すると価格がさらに下がりインフラも整備されるという循環です。2050年のカーボンニュートラルを目指すなら、このサイクルを後押しして一刻も早くEV普及をすすめる必要があります。そのために必要なのが、規制や補助金というわけです。

負の外部性

「EVの普及は市場に任せておけ。現時点では消費者はHVを求めている」というような主張もあります。HVを主力とするトヨタなどが最先鋒ですね。でも、こと環境問題に関しては、市場に任せず政府が規制や税金、補助金などでEVを促進する必要があります。

 

それは環境問題には負の外部性があるからです。クルマを作る企業と、それを買う人の便益が一致したところに価格が決まるとミクロ経済学は説きます。ところが、このとき、第三者である外部に、利益をもたらしたり、損害をもたらしたりすることがあります。これが外部性です。

 

例えば教育は、教育を提供する側と受ける側の便益以外に、それによって社会全体がよくなるという効果があります。これが正の外部性です。逆に、工場が排出する公害などは、社会に悪影響を及ぼします。これが負の外部性です。

 

一般に、負の外部性を解消する方法としては、次の方法が挙げられます。

  • 悪影響に対する矯正税(ピグー税)
  • 悪影響と好影響をトレードできる排出権取引
  • 当事者間による解決

クルマに関していえば、ガソリン税や重量税などそもそも矯正税が課されています。さらに、環境負荷が低いクルマに関してはそれを軽減する形で、方向づけしています。また、CO2については、多く排出するクルマを作っているところが、少ない排出のところから排出権を購入する取引がされています。Teslaの売り上げの一部は、この排出権の売却益なのは有名ですね。

 

当事者間による解決は、利害関係者が契約を結んだり合併することで、双方に最適な解を導くことができます。湖に汚染物質を流し込む負の外部性をもった事業を行っている企業が、湖で漁をしている人たちと契約したり、合併することで、どちらにとっても最適な形を目指せるということです。

 

この方法は、コースの定理と呼ばれますが、ここにはコミュニケーションコストがゼロの場合という前提があります。つまり弁護士に依頼するとか合併手続きとか、討議にかかる時間などがそうですね。ちなみに、大企業のほうが生産性が高いのは、このコースの定理においてコミュニケーションコストを下げられるからだと言われています。外の会社と協議して決めるよりも、社内の協議のほうがコストが安いということです。そして、昨今のネット化とさらにはDAO、DACによって契約などのコミュニケーションコストが下がり、大企業であることのメリットは減っているとも言われますが、これはまた別の話として。

 

さて、環境問題においては、利害関係者が多岐にわたり、全人類、さらには将来の人類まで影響するため、当事者間での解決は不可能です。つまり、クルマのCO2排出の当事者は、メーカーとクルマを買う人だけのことではなく、外部性によって影響を受けるすべての人達だということです。これを当事者間で解決しようとすれば、全人類の合意ということになり、それはつまり政府が決めるということになってしまいます。

 

そんなわけで、市場経済は本当に重要だけれど、すべてを市場が解決できるわけではありません。外部性があるものに関しては税や規制、補助金を使って、真の当事者が合意できる領域にもっていかなくてはならず、それはつまり、税や規制、補助金でEV化を推進するということになります。

 

そしてもちろん、技術の進歩と普及の足並みを揃えなくてはなりませんが、EVに関してはまだまだ「高い」「インフラがない」という状況にあり、これを解決する循環を回していく必要があります。それが現在の状況だと考えています。