メタこと旧Facebookが、メタバース事業を推進しています。メタバース? はて? と正直最初は思ったものの、これはけっこう化けるかもしれない。化けなくても、人類にとって非常に大きな一歩かも。最近そんなふうに考え始めました。
メタバースの捉え方
メタバースって何だ?という定義には、いろんな人がいろんなことを言っているし、これがメタバースである!と決める機関も企業もありません。Zoomの3D版みたいに考える人もいるし、Fortnightのビジネス版だという人もいるし、SecondLifeが蘇るみたいな話もあります。
ただぼくが気になるのは、メタ・バースという言葉の意味あいです。宇宙を表すユニバース(=Uni+Verse)はラテン語(Universus)から来ていて、Uni+Versusが語源。Uniは「1つのもの」でありVersusは「逆さにする、裏返しにする、対、反対、逆、背く、対立する」などの意味だそうです。相対立する2つの領域を1つに結びつけているのがユニバースだということです。
一方で、メタ(=Meta)は「超越した」「高次の」を表す接頭語ですね。現在の宇宙を超越した高次の宇宙。そんなイメージがメタバースにはあります。
マインクラフトの中で動くプログラム
プログラミングの世界では、メタとは一段階高次のことを指します。高次というのは難しいとかそういう意味ではなくて、認識の段階が一つ高いことを指します。例えば、メタプログラミングといった場合、これはプログラムを出力するプログラムのことです。
あるメタプログラミングを実行すると、プログラムコードが生成される。こういうことです。
この「メタ」の概念を広げると、コンピュータプログラムの中でコンピュータが動くというのは、まさにメタですね。そこで思い出すのが、マインクラフトの中に実装されたコンピュータです。
マインクラフトはPCやiOSなどで動作する箱庭系の3Dゲームです。子どもに大人気なので知っている人も多いはず。そして、マインクラフトには、論理演算が可能なレッドストーン回路というものがあり、これはレッドストーン回路を組み合わせれば、コンピュータが作成可能なことを意味しています*1。
上記の動画では、マインクラフトのレッドストーン回路を並べて、256バイトのRAMを備えた16ビットコンピュータを実現させました。同じくマインクラフトのブロックで作られたディスプレイで、テトリスやスネークゲーム、ブロック崩しなどが動作している様子が映し出されています。
この世はシミュレーションか? ——シミュレーション仮説
ここでさらに思い出すのは、シミュレーション仮説です。これは、我々が生きているこの世界は、コンピュータシミュレーションなのではないか? という仮説です。映画好きなら、マトリックスの世界だといえば分かりやすいでしょうか。
イーロン・マスクも、「我々はコンピュータシミュレーションの中で生きている」という考え方の持ち主です。
別にこれはイーロン・マスク独自の考え方ではなく、Wikipediaを見れば、昔から数多くの科学者や哲学者が提供していた仮説です。古代では、「この世は夢なのではないか」という考えで呼ばれていました。
この問題が難儀なのは、この世がシミュレーションなのかどうか反証の手段がないことです。中には、この世界のバグを見つけて、それをシミュレーションであることの証拠としようとしている人もいるようです。
ただ、この世がシミュレーションだと考えると、世界の最大の謎のいくつかにも答えが出てきます。例えば、この宇宙の物理定数は、非常に人間や生命の存在に最適な数字になっていて、これが少しでも崩れると人間どころか生命も存在できません。このことを持って「この宇宙は誰かがデザインしたものだ」と考える人もいれば、「この宇宙が存在するのは人間が存在するからだ」という人間原理の立場を取る人もいます。
しかし人間原理の立場に立っても、それは人間が存在することの説明にはならず、背景には無数の宇宙が存在していて、その中で人類が誕生した宇宙だけが、この世なのだという多元宇宙論があったりします。
ではこの世がシミュレーションだと考えてみましょう。シミュレーションは、それがプログラムであるだけに、たった一つである可能性は低くなります。パラメータを少しずつ変えたシミュレーションが大量に走っており、その中で、最も人類の生存に適したシミュレーションが「この宇宙」である可能性が高いでしょう。
そんな中、人類はシミュレーションの宇宙の中で、動作するコンピュータを作りあげ、さらにそのコンピュータを使って新たなシミュレーションを作り上げようとしています。そう、これがメタバースであり、メタバースが生まれることで、いまの宇宙はより高次の存在になるわけです。
メタバースをどう受け止めるか
ちょっとアニメちっくなメタバースの絵を見て、こんなおもちゃが使いものになるわけがないと考えている人も多いでしょう。
しかし、そんなことは半導体性能でいくらでもクリアできるものであり、現時点でも映画レベルの世界を表現できるのです。3Dゲーム製作プラットフォームのUnreal Engine5の技術デモをぜひご覧になってください。マトリックスの世界は、少なくともビジュアルレベルはすぐそこまで来ていることが分かります。
問題は、クオリティの高い低いではなく、この宇宙のコンピュータパワーを使って、師ミューレションとしての新しい宇宙(=メタバース)を作り上げられるかどうか、そしてそこに人類はどう向かい合うのかというところに来ているのです。
なお、メタバースはSF『スノウクラッシュ』で初めて提唱された言葉です。年明けにはハヤカワSFから新版が出るということなので、かなり久々に再読してみたいと思っています。
*1:こういう状態をチューリング完全と呼びます。