FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で自由主義者、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

資産106億円、年間利益3億円の不動産投資家 『Excelでできる不動産投資「資産管理」のすべて』


『Excelでできる不動産投資「資産管理」のすべて』を読み終わりました。こちら、ぼくが尊敬する不動産投資のマスターである玉川陽介氏の著作。前作『Excelでできる不動産投資「収益計算」のすべて』と併せて「著者の10年間を超える運用成果の集大成といえる内容に仕上がった」としています。

10年で不動産資産106億円、年間利益3億円に

玉川陽介氏のすごいところは、10年前に不動産投資を始めてから、資産合計106億円、売上高10億円、税引前利益3億円という実績を出しているところです。そしてその成績は、P/Lから保有物件の一覧、入居の状況、修繕の状況まですべての数字を一般に公開しているところです。

さらに詳細な財務資料はTikcketシステムのレッドマインで管理し、金融機関にもレッドマインのアカウントを発行しています。財務資料がほしければ、自分でログインしてDLして、という運用です。実際にDLしてくれるのは依頼したうちの半分にも満たないといいますが、利用者から便利だと好評だそう。修繕履歴なども全部データ化し、金融機関がレッドマインからリアルタイムに見られるようにしています。まさにデータを透明にしているわけです。

 

ここまで大っぴらにするってどうなのよ? と思うかもしれませんが、上場企業だと思えば、財務諸表を公開するのは当然のことだというのが玉川氏の考えです。

 

先の利益額や資産額にしても、これを貸出を行う金融機関も見ていることを考えると、嘘偽りないものだということが分かります。

玉川式 不動産投資の特徴

不動産投資本は「物件の選び方」を中心に「管理の仕方」「売却の仕方」などを、自身の体験談に基づいて記したものが大半です。しかし、本書はそれらとは一線を画しています。

 

まず物件の選び方や、木造/鉄骨/RCなどの特徴、管理の仕方などの話は全く出てきません。出てくる話は、金融機関との付き合い方、税務戦略、そしてそれらのための財務諸表の作り方です。本書の約半分は財務諸表の作り方に割かれていますが、これは税務会計のための財務諸表ではなく、不動産賃貸業を行うにあたっての管理会計のためのものです。

筆者の経験では、「内訳の分かりにくい勘定科目について金融機関から問い合わせが入ることもありました。

例えば、「多額の雑損失が計上されているが、これは何か?」というようなものです。雑損失が発生していた記憶もないので元帳をたどると消費税の調整額でした。(略)そこで、筆者は勘定科目をカスタマイズすることを考えつきました。真の雑損失である「雑損失」と「雑損失(消費税)」に分ければ問い合わせが来ないのではないかと思ったのです。

そんなわけで、この本は徹底的に不動産投資家の実務のために、書かれています。しかもけっこう上級者向けだといえるでしょう。例えば、木造/鉄筋/RCの耐用年数と償却年数は理解している前提で、金融機関が耐用年数と融資期間の関係をどう考えているか? などに踏み込んで語っています。

金融検査マニュアル廃止後も、融資期間は金融庁の主要な指導対象です。金融庁は超長期融資をよしとしていません。

(略)じつは、旧金融検査マニュアルにも、必ず耐用年数内に完済しなくてはならないとは書かれていませんが、耐用年数を超える場合は合理的な理由をつける必要があるとされています。

どうです? 金融機関が融資期間をどう考えて、どういう理由でOK/NGを出しているのか、だんだん分かってきませんか。豊富な金融機関との付き合いをもとに、数多くのインタビューと体験から導き出した融資に対する考え方は、国内随一だと思います。

融資と税金

玉川氏の不動産投資に対する考え方は、「賃貸業は、人よりも、市況や資産が中心となる投資性の事業です。そのため他業に比べて社長の役割は少なく、その手腕への依存は低いといえます。逆にいえば、モデルやテンプレートは運用者に依存せず、その再現性は高いはずです」というものです。

 

著者は、高LTV(借り入れ比率が高い)による規模拡大の戦略を選び、続々と規模拡大を進めてきました。この戦略では格安物件を探し求めるのではなく、いかに融資を引けるかがキーになります。そのための試算表づくりであり、財務諸表づくりだということです。

 

またもう一つ、著者が重視するのが税知識です。不動産を持っている人なら分かるとおり、賃貸業における最大のコストは税です。そして、税金面は税理士に丸投げ……ではなく、社長自らが概要を理解してコントロールしなくてはいけないと解きます。

 

課税所得へかかる法人税とか事業税とかは、分かっている前提。その上で、不動産で最も複雑な消費税について徹底的に解説します。分かる人は分かると思いますが、居住用不動産と土地は非課税で、それ以外は課税です。さらに運営主体側も、免税、簡易課税、本則課税とステータスが違います。

 

課税事業者においては、支払った消費税と受け取った消費税の差額を収めなくてはいけません。支払った分は還付される(控除される)ともいえます。ところが、不動産事業は課税売上と非課税売上が混在するうえに、消耗品や交際費などの本社経費の還付(控除)は、課税売上割合に応じて支払った消費税の一部だけに限定されるのです。いわれればわかりますが、あーややこしい。

 

この支払ったのに還付されない消費税は、損金にできるのです。でも、少額の購買によって発生した不還付消費税は雑損失となり、20万円以上の高額な不還付消費税は、繰り延べ消費税として6年償却(実際は60ヶ月だが、年度でいうと6年にまたがる)となります。

 

ぼくも自分の会社のB/Sに「繰り延べ消費税」という費目があって、これなんだろ? と思ったものの、税理士に聞くのを忘れていました。税率10%ともなると、もはや消費税は誤差ではなく、最も大きなコストです。この制度を理解して最適化するのはものすごく重要なのですが、不動産業に特化した消費税の取り扱いについての本は、本書くらいでしょう。

 

というわけで、融資に強く、PLやB/Sに強くなりたい人は、本書を読むと一段レベルが上がるのではないかと思います。不動産業をやっていなくても、例えば借り入れをベースに減価償却の大きい事業を評価する場合の考え方は、この本の応用編だともいえるでしょう。

 

初心者向けではありません。でも、深く学びたい人には圧倒的にオススメしたい、ぼくのバイブルです。