投資においてはいろいろな名言がありますが、ぼくがけっこう好きなのが「音楽の鳴っている間は踊り続けなければならない」という言葉です。金融危機直前のタイミングで、CitigroupのCEOが発したこの言葉、のちにかなり批判も受けたのですが、いろいろな意味で真理をついていると思っています。
We’re still dancing
When the music stops, in terms of liquidity, things will be complicated. But as long as the music is playing, you’ve got to get up and dance. We’re still dancing
音楽が止まると、流動性の面で物事は複雑になります。しかし、音楽が鳴っている限り、踊り続けなければなりません。私たちはまだ踊っています。
2007年7月、当時のCitigroup CEOであるChuck Princeが Financial Times 紙のインタビューで、金融市場の過熱した状況を踊りに例えて言った言葉です。当時から、サブプライムローン状況など金融の状況はヤバいと言われていました。
ただ金融の厄介なところは、「じゃあ俺は抜けるわ」みたいなことを参加している金融機関が言い出すと、それを引き金として実際に危機が起きてしまうなんてこともあるわけです。なので、「音楽が鳴っている間は踊り続けなければなりません」というのは、いろいろな意味で、そういうものなのです。
バブルであっても乗り続けるべきか
では一般の投資家にとってはどうでしょうか。これはバブル状態にある市場に乗り続けるべきかどうかのときに言われる言葉です。例えば、いまはまさにAIバブルであり、猫も杓子もNVIDIA。あれよあれよという間に世界一の時価総額まで上り詰めた半導体企業に対して、「バブルだ」という声もあれば「利益も付いてきている」という声もあります。
問題はこのバブルに乗るのか、乗らずに静観するのかです。
面白いことに、インデックス投資家はAIバブルにしっかり腰掛けています。このところのS&P500、つまりはオルカンについても、上がり幅の多くはNVIDIAを中心とするAI関連銘柄の上昇によるものです。今がバブルだというのなら、NVIDIAだけでなく株式インデックスも保有しているのは論理的ではありません。
ただバブルの教訓はもう一つあって、バブルは弾けてみるまでバブルだとはわからないし、いつ弾けるかもわからないってことです。もし今がAIバブルだとしても、それが弾けるまでに2年とか3年かかるかもしれません。そしてバブルが弾けたときに株価が半分になったとしても、そこまでの3年間で2倍以上に株価が上がっている可能性だってあります。
つまりバブルがどうか、いつ弾けるかがわからない以上、バブルに乗るのか乗らないのかを考えても仕方がないというわけです。つまり「音楽の鳴っている間は踊り続けなければならない」のです。
景気とかバリュエーションとか、そういうことを考え出すと足が停まる
インデックス投資家にとって、バブルの発生や崩壊なんて、日常茶飯事で、そうした上下動を繰り返しながら、総体としての株式は右上に向けて拡大していきます。そうした中では、景気とかバリュエーションとか、そういうことを考え出してはいけません。踊る足が停まってしまうからです。
最後に村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』からの一文です。
音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。