10月30日、Metaが発表した決算を受けて、株価が約10%急落しました。いったい何が起きたのか。AI銘柄の一つでもあるMetaの巨額のインフラ投資も含めて考察してみます。
Meta急落、株価13%ダウン
10月30日に発表したMetaのQ3決算。それを受けて株価は急落。当初10%程度の下落でしたが、その後もジリジリと下げ、現在約13%下げた状態です。いったい何が起きたのでしょうか。

業績は悪くない
まず、本業の業績はまったく悪くありません。というか好調です。売上高は512億ドル(前年比+26%)、営業利益は205億ドル(前年比+18%)、営業利益率は40%です。Q4決算のガイダンスも特段悪くなく、売上が560〜590億ドルとQonQでも好調な増加です。
下記は税引前利益の四半期推移です。MetaはこのところQ4に利益が出やすくなっていますが、それにしても好調です。

新税制でEPS急減
では何が問題だったかというと、1つはEPSです。Q3のEPSは、前四半期までの6〜7ドルに対し、1.05ドルと急落しました。これは、純利益が前Qの183億ドルから27億ドルに急減したためです。

それはなぜかというと、米国の新税制「One Big Beautiful Bill Act」実装に伴う一時的かつ、非現金の税金費用159億ドルを計上したためです。非現金の――というのは帳簿上のもので実際の現金支出は伴っていません。この効果を除外すればEPSは7.25ドルで、かなり高い水準となっています。

株価急落の背景には、こうしたEPSの低下によって機械的に売りが入り、その売りを見て他も売るというループが形成されたのではないかというのが一つあります。ただし、これだけの原因なら、相場が落ち着くとともに正しいファンダメンタルズに則った株価に戻るでしょう。実は、急落にはもう一つの要素があるのです。
AI投資は正当化できるのか
それは巨額のAI投資です。Metaは2025年通期の設備投資額の見通しを、700〜720億ドルに引き上げました。従来は660〜720億ドルとしていたので、10%程度上方修正したわけです。結果、リース+減価償却額は2025年に1160−1180億ドルとなる見通しで、これは前年から22〜24%増えています。さらに2026年は、「さらに増加する」という見通しを示しました。
この巨額投資を投資家は嫌った、というのが急落のもう一つの原因とされています。
ただ、問題となるのはAI投資が正当化されるのかどうか? という点です。下記はAIインフラに巨額投資を行うビッグテックのインフラ投資額です。この4社でみると、Metaの投資額が最も小さいことが分かります。

Tech's AI-Fueled Spending Surge :statista
29日に決算を発表したMicrosoftは、同じくAIインフラ投資を上方修正し7-9月の四半期だけで349億ドルに達しました。結果、Azureが対前年比39%も増収しているのに、株価は下落しました(マイクロソフト、データセンター支出が予想上回る急増-株価下落 - Bloomberg)。
一方、29日決算発表があったAlphabetは、2025年の設備投資額を従来の850億ドルから910−930億ドルに上方修正。グーグルクラウドは33.5%増収でした。そして検索広告収入やYouTube売上はアナリスト予想を上回りました。で、株価はというと7.5%上昇です(アルファベット株急伸、売上高が予想上回る-AI需要でクラウド好調 - Bloomberg)。
そして31日に決算発表したAmazonは、7-9月の四半期設備投資額だけで342億ドル(帯前年61%)。AWSの売上高は20%増加でした。そしてECなどの売上高は予想並み。他と同じように、クラウドが好調で多額のAI設備投資をしましたが、株価はというと12%増加しました(アマゾン、クラウド部門売上高が市場予想上回る伸び-株価急伸 - Bloomberg)。
このように、各社同じようにAIインフラに多額の投資を行い、クラウド事業は絶好調でしたが、MetaとMicrosoftの株価は下落し、AlphabetとAmazonの株価は上昇しました。各社の報道の論調を見ても、
- AIインフラ投資、高水準で継続 メタ株急落
- データセンター支出が予想上回る急増 マイクロソフト株価下落
- AI需要でクラウド好調 アルファベット株急伸
- クラウド部門売上高が市場予想上回る伸び 株価急伸 アマゾン
と、AIインフラ投資&クラウド好調は各社同じなのですが、その解釈によって株価が上昇したり下落したりしているわけです。
唯一クラウドを持たないMeta
ただ、これらの中で唯一Metaだけが異なる点があります。それは、Microsoft、Alphabet、Amazonともにハイバースケーラと呼ばれるクラウド事業者であり、AIインフラを他社に貸し出すために増強しています。ところがMetaだけは、巨額のAIインフラ投資を自社の事業だけに使っています。
さらにこの巨額投資だけでは足りずに、Googleから100億ドル規模のクラウド契約までしています。もしかしたら、Metaは最大のAI利用企業だともいえるのかもしれません。
インターネットの普及など、過去の世界を変える技術の浸透と、どんな企業が儲けて来たのかを見ると、一つのパターンがあります。まず最初に、その技術の基盤、インフラを作る企業の業績が急拡大します。インターネットならシスコのようなネットワーク自体、AIならNVIDIAのようなGPU製造企業です。次に、それをサービスとして提供する企業が注目されます。インターネットならAOLのようなISP、AIならクラウド事業者であるAmazon、Google、Microsoftなどですね。
そして最後に、その技術を使ったサービスを提供する企業が急激に成長します。インターネットならAmazon、Googleなわけですが、AIではさてどこでしょうか? いろんな観点がありますが、その一つがMetaだといえるでしょう。逆にいえば、Metaを見る限り、ある程度のAI投資は主軸事業の収益拡大という意味で正当化されているともいえそうです。
ただMetaのAIインフラは本業のAIレコメンデーションシステムにだけ使われるのではありません。ザッカーバーグはMSL(Meta Superintelligence Labs)を作り、personal superintelligence(各個人向けの超知能)の開発やオープンウエイトのLLMの開発を進めています。現在のハイバースケーラに匹敵するAIインフラは、こうしたAI開発のほうに主に使われていると考えていいでしょう。
オープンモデルのAIは収益化できるのか
では、こうしたMSLは収益化できるのでしょうか? ザッカーバーグは決算テレカンファレンスで次のように言っています。
