ぼくは本質的にはETF投資を中心としたインデックス投資家で、ギャンブラーではないと思っています。ただ、このところ「銀オプション」のプット売りの記事を連続して書いているように、投機性の高い商品に手を出しているなぁと思う方もいるかと思います。
オプションのきっかけ
今日はそのきっかけを書いてみます。ストックオプションについては、勤務先からもらっていたこともあって、概略は知っていましたが、自分でオプションを取引してみようと思ったのは単純な知的興味からです。きっかけは下記の記事でした。
この記事にかかれていることを読んで、ふむふむ、と思われた人は、ETF投資についても相当に詳しい人かと思います。ぼく自身は、これを読んだときに、「ああ世の中には自分のしらない投資の世界がこんなにあったんだ」と感じました。この記事を読んで、PFFやARCCも調べて投資をしました。
中でも、興味を引いたのが「VIX」でした。デリバティブの中でもデリバティブ。ぼくの中ではそれがVIXです。当時、デリバティブというと、「ハイリスクな取引」くらいの認識しかなかったのですが、VIXについてはたいへんに興味を惹かれました。なんでこんな値動きをするのか? と。
VIXについて簡単な説明
VIXについて簡単な説明を試みてみます。まず、米国株がたくさんあります。それを詰め合わせにしたものがS&P500という指数です。日本だと日経225やTOPIXのようなものです。このS&P500を上場させたのがS&P500 ETFです。いわゆるインデックス投資商品ですね。ここまではわかりやすい。
このETFに対して、オプションという商品があります。オプションとは、原資産(この場合S&P500)に対して、ある時期にあるタイミングで売る権利や買う権利を売買するものです。そして、この権利の値段を「プレミアム」といいます。このプレミアムは、原資産の値動きの激しさ(=ボラティリティ)が大きいほど値段が高くなるという特徴を持ちます。
S&P500のオプションのプレミアムに連動して作られた指数がVIXです。つまり、S&Pが上がろうが下がろうが、その値動きが激しければVIXは上昇し、値動きが小さければVIXは下降します。S&P500に対して、そのデリバティブ商品がVIXといえますね。
話はさらに続きます。VIX自体は商品として取引ができず、実際に売買されるのはVIXのさらにデリバティブ「VXX」になります。現在のVIX価格があると同時に、将来のVIX価格というものもあります。いわゆる先物です。将来S&P500のボラティリティが上昇すると見込まれればVIXの先物も上昇するという構図です。先物ですので、「いつのタイミングの先物か」という要素があり、普通の状態だと近い未来の先物は安く、遠い将来の先物は高くなります。
つまり、近い未来(=期近)のVIXは安く、遠い将来(=期先)のVIXは高いという状況です。VXXは、期近のVIXと期先のVIXのセットになっていて、時間が経っていくと期近のVIX(安い)を売って、期先のVIX(高い)を買うという処理が行われています。これによって、常に一定の先のVIX価格に連動するように設計されているわけです。
ところが、この安いVIXを売って、高いVIXを買うという処理は、必然的に価格の下落をもたらします。そのため、VXXは時間が経つに従って価格が下がる(減価する)という特徴を持つことになります。もう一度、VXXの価格推移を見ておきましょう。
2013年に1000ドルを超えていたVXXは、2018年には48ドルまで価格が下がっています。継続的に価格の低下が見込まれるならば、それを空売りする(=ショートする)ことで利益が得られます。いやはや、なんとデリバティブは不思議な商品なんでしょう。
VXXの売買においては、日本ではサクソバンク証券がVXXのCFD(差金決済)を取り扱っており、証拠金で売買することができます。これはさらにVXXのデリバティブですね。
世の中には、さらにこのVXXのオプションや、VXXのインバース(逆の値動きをするように設計された商品)も存在しており、デリバティブのデリバティブのデリバティブ……というように連鎖していくわけです。
いろんな物事で、その中の要素の1つを抽出して抽象化し、汎用化することを「メタ化」と呼びます。デリバティブはさまざまな金融商品のメタ化にほかならないと思ったわけです。
普通の株式だったら、営業利益がどうとか、そのための売上推移はどうとか、売上をたてるための新商品の開発状況はどうとか、さらにはそれを生み出すための組織構造はどうとか、それをマネジメントする社長の力量はとか、具体的でウェットな領域に関心が向かいます。ところが本質をメタ化したデリバティブでは、より内容が抽象的になり本質的な要素に近づいていくところに魅力を感じるのです。
株式だってデリバティブ
ちなみに、デリバティブなんて普通の人には縁のない専門的な世界の話だと思っている人がいたら、実はそれは違います。
株式とはいわば物的資本のデリバティブと見なすことができます。株式を買うことは、企業のなかにある機械や設備を直接所有するのではなく、それが生み出す利潤を受け取る権利を所有することです。「資本主義から市民主義へ」
なるほど、言われてみればそのとおりで、株式がデリバティブだからこそ、頻繁に売り買いされ、場合によっては投機の道具になるわけです*1。そして本質的にデリバティブなのは株式に限りません。
貨幣を持つことは、もともと未来に向けた投機にほかならないんです。(略)貨幣をもつことによって、人がいますぐモノを使わなくてもよいという自由をもつからなのです。だが、同時に、貨幣をもつことは、それをいま使うか後に使うかという一種の投機活動をすることでもある。「資本主義から市民主義へ」
確かに、貨幣でさえ現在利用できる食べ物や服といった現物のデリバティブで、将来それらを使う権利を買っているとみなせるわけです。こう考えると、資本主義においてデリバティブは本質であり、デリバティブが投機と好不況を生み出すと考えると、これは内在されたものだと納得できます。
そんなわけで、知的興味の対象として、各種デリバティブの勉強と実践も引き続きやっていきたいと思っています。ただし、ギャンブルをするつもりはないので、(貨幣や株は別として)デリバティブへの資産の振り分けは、5%以下にしたいと思っています。また、この数字はエクスポージャーあるいは最大損失額を意味しています。
*1:野口悠紀雄氏の『金融危機の本質は何か ファイナンス理論からのアプローチ』でも、より数学的に、なぜ株がデリバティブなのか、具体的には会社資産を原資産とするコールオプションが株式だということを説明しています。