FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

逆張りのリバランスと、順張りのCPPI

先日の記事で、特に説明もせずに「リバランスする」と書きました。また、株が下がったときに売るのは「トレーダー」とも書きました。でも、もう少し正確にいえば、トレーダーでなくても、株が下がったときには売却する戦略があります。

リバランスは何を意味しているのか

そもそも、リバランスとは何でしょうか。ここでいうリバランスとは、リスク資産と非リスク資産の比率を一定に保つことをいいます。一般に、「リバランス=リターンアップ」と考えてしまいがちですが、実はそんなことはありません。

 

例えば、基本的に上昇し続ける市場があったとします。最初リスク資産50:現金50で始めたポートフォリオが、1年後、株価上昇によって、リスク資産75:現金25の比率に変わりました。

 

このとき、リスク資産の3分の1を売却して、リスク資産50:現金50にするのがリバランスです。リスク資産の比率が減るわけで、当然次の1年も上がり続けた場合は、何もしないバイ&ホールドに負けます。これは当然ですね。

 

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では逆に基本的に下がり続ける市場ではどうでしょうか? 最初のリスク資産50:現金50が、1年後には株価が下がり、リスク資産25:現金75になりました。そこでリバランスし、現金でリスク資産を買い、50:50に戻しました。次の1年、さらに株は下がり続けました。これも、何もしないバイ&ホールドに負けますね。

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つまり、上下どちらでも一定のトレンドが発生している場合、リバランスするとバイ&ホールドに負けることになります。しかも、頻繁にリバランスすればするほど、パフォーマンスが悪化することになります。

ボックス圏でリバランスのパフォーマンスが上がるのはなぜか

ではどんなときにリバランスでパフォーマンスが上がるのでしょうか。これはズバリ、上がったり下がったりを繰り返す、いわゆるボックス相場の場合です。上がったときにリバランスするということはリスク資産が減るということで、それは下がったときのダメージを減らします。下がったときにリバランスすると、リスク資産を増やすことになるので上昇時の恩恵を受けることができます。

 

これを期待するのはどういうことかというと、下がった価格はいずれ上がる、上がった価格はいずれ下がるという、平均回帰(ミーンリバーサル)をアテにしていることになります。つまり「逆張り投資」ですね。

 

先の、上がり続ける市場、下がり続ける市場というのは、モメンタムが強いということですね。モメンタムがある状態でリバランスを行うと、モメンタムの効果を損ねてしまいます。逆にモメンタムが失速し、ミーンリバーサルが起こるタイミングでは、リバランスが効果を発揮します。

CPPI戦略は、モメンタム重視

リバランスによるリターン増加効果は、ミーンリバーサルによるものだと書きました。一方で、ポートフォリオ理論的には、モメンタムを受けてリターンを増幅させる手法もあります。

 

そのひとつがCPPI戦略です。Constant Proportion Portfolio Insuranceの略で、下落リスクを限定しつつ、リターンを追求するポートフォリオ・インシュアランスの1つです。「絶対収益型ファンド」なんて呼ばれたりもしますが、要は一定以上の損失を出さないようにするポートフォリオの組み方です。

 

これは、資産のうち最初に一定の比率をフロアとして決め、それを超えた分をリスク資産に投資していくという戦略になります。100万円あって、絶対失いたくない額が60万円ならそれをフロアとします。さらに乗数というものを設定します。

 

ポートフォリオの時価ーフロア を「クッション」と呼び、これに乗数を掛けたものをリスク資産に投じます。乗数を2とすれば、クッションは40万円、それに2を掛けて80万円をリスク資産=株式に投じることになります。

 

もし株式が上昇して20%増加したらどうなるでしょうか。80万の株式が96万円になるので、未投資の20万と合わせて、ポートフォリオ時価は116万円に増加します。このとき、クッションはフロア60万円を引いた、56万円に増えています。乗数2を掛けると、リスク資産は112万円となり、追加で16万円を投資する計算になります。

 

これを見て分かるように、CPPIは基本的にトレンドフォローであり、順張り投資となります。リバランスと逆の効果ですね。

 

では株式が下落したらどうなるでしょう。最初の株式80:現金20から、20%下落した場合を考えます。株式評価が64万円になるので、ポートフォリオ全体は84万円です。フロアの60万円を引くと、24万円。乗数2を掛けて48万円がリスク資産に投資する額になります。現在64万円が株式評価額なので、48万円にするには16万円を売却しなければなりません。つまり、ポートフォリオのルールを守るために一部を売却するわけです。

 

上昇したら追加投資し、下落したら売る。これはトレンドフォロー戦略であり、モメンタムアノマリに乗る作戦ですね。単なる損切りではありません。

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ニッセイ基礎研究所資料より。これはモンテカルロ・シミュレーションの結果。実際には大きく3つの課題があるため、実際の年金基金などではCPPI戦略を取ることは少ないといいます。1つは、流動性が低いと売りたいときにうまく売れないという点。2つ目は、いったん大きく値下がりするとリスク資産がゼロにへばりつき回復もしないという点。3つ目は、運用コストが意外に高い点、とされています。

CPPIの懸念点と一般投資家の売り

今回のように相場が大きく下落すると、「バーゲンセールだから購入」という人と、「もっと落ちるかもしれないから早めに損切り」という人、そして「気にせずそのままホールド」という人に別れます。

 

「バーゲンセール」派の人は、追加購入額にもよりますが、リバランスをやっているのに近く、つまりは平均回帰=ミーンリバーサルアノマリを狙った逆張り投資手法だということが分かります。

 

「早めに損切り」派の人は、売ってしまう額にもよりますが、CPPI方式に近く、フロアとなる最低限の資産を保持しつつ、アッパーの利益を狙う、トレンドフォロー戦略であり順張り投資だといえるでしょう。

 

そして「そのままホールド」派の人は、逆張りでも順張りでもなく、中立の投資だと考えられます。

 リバランスしないとアセットアロケーションが崩れるが…

ただし、ここで気になるのはポートフォリオの最適化です。一般に、ポートフォリオを組む場合、互いに相関の小さい資産を組み合わせることで、期待リターンに対するリスクを減らすことができます。ただし、その最適な比率は決まっており、リバランスを行って比率を修正しないと、最適から外れることになります。

 

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例えば、「そのままホールド」の場合、株価が上昇していけばどんどんリスク資産の比率が高まり、当初想定よりも高いリスクを取ることになりますし、下落すれば想定よりも小さなリスクを取ることになるでしょう。リバランスは、こうした意味では重要になるはずです。

 

もちろん、1〜2ヶ月の短期においては、むやみにリバランスを行うことは逆効果になることもあります。上昇時はさらに上昇するモメンタムが働くことが多く、リバランスすることでリスク量を減らすことは機会損失につながります。同様に、下落時もさらなる下落のモメンタムがあるため、リバランスすることでトレンド的には過度なリスクを取ることになります。

 

つまり、リバランスを行うにしても、トレンドの継続度合いをどう見るかによって、頻度が変わってくるということです。3ヶ月程度はトレンドが続くと考えるなら、そのくらいでリバランスだし、1年は継続すると考えるなら1年毎のリバランスです。

 

では、トレンドがどのくらい継続するかですが、これは商品(株価、為替)や地域(日本、米国)などで異なり、だいたいこうだといえるものがないようです。トレンドは数学的にいうと、過去の値動きと現在の値動きが相関している、つまり自己相関性があるということを指します。これで検索してみると、実証研究もいろいろと見つかると思います。