株主の利益は企業が生み出す利益であり、それを配当として出せばインカムゲイン、内部留保していればキャピタルゲインになります。では株主優待はどうなるのでしょうか? 企業が配当として現金で出せばいいものを、品物で株主に出すわけですから、「給料の代わりに現物支給するようなもの」という言い方もできます。
でも、税制を考えると、実は歪みがあって、優待のほうが有利な点もあるのです。
いつの段階の利益から株主に還元するのか
税金や配当の制限を全く考えなければ、配当として株主に還元しても、優待で還元しても、自社株買いをしても、内部留保でキャピタルゲインに貢献しても、あまり違いはないかもしれません。
しかし、税制を考えるとちょっと変わります。まずは配当の原資となる利益は何なのか考えてみましょう。企業の売上から費用を引いた残りがざっくり営業利益です。そこから借入金返済や営業外損益を引いたものが経常利益ですね。そこから特損を引いて、残ったものに税率をかけて税金を払います。そして最後に残ったものが純利益です。この純利益から配当は支払われるわけです。
100の売上があって、費用が60だと営業利益が40。営業外損益や特損がないとすれば、この40に法人税率40%を掛けて支払い、残った24から配当を支払うことになります。配当性向50%とすれば、12が配当で、会社に残るのは12です。
配当を受け取る株主は、さらにそこから約20%の分離課税で所得税を払うので、実際は約11しか受け取れません。内部留保なら12が株主価値として残り、税支払いは繰り延べられます。これが、「配当のほうが税制的に損」といわれる所以です。
では株主優待の場合はどうなるでしょう? 実は優待のコストは「費用」として計上できる場合があるのです。配当は、税引き後の利益である純利益から出しますが、費用から株主に出せれば、税引き前から還元できることになります。
100の売上に費用60、ここに12を株主優待として出せば、利益は28。法人税を払うと残るのは16.8。配当として払う(12)のに比べ、法人税分内部留保が増えたことになります。
さらに、株主優待の中身にもよりますが、航空会社のような割引などの場合、受け取った株主側も税金を払う必要がありません。合法的に節税した形で、企業から株主に利益を移転できるわけです。
株主優待は本当に費用計上できるのか
ただこうした抜け道を税務当局が見逃すわけもありません。株主優待は本当に費用計上できるのでしょうか。下記の調査を見ると、広告宣伝費や販管費で処理しているところがけっこうあり、これらについては問題なく税制上の損金になっていますね。
※日本企業における株主優待実務の実態:サーベイ調査から 安武妙子 永田京子|第104号(2018年12月)|証券経済研究|出版物・研究成果等|日本証券経済研究所
32%が交際費と答えており、これについては大企業ということもあり、残念ながら全額損金扱いは厳しいでしょう。いずれにせよ株主優待は、現物配当扱いではなく、何かしらの費用に当たると考えられます。
なぜなら、国税庁の見解として、優待を受け取った個人の税務処理は、雑所得であり配当所得ではないとされているからです。
株主優待は正義ではないが、会社側の狙いと小口個人投資家の利益が一致
株主優待は、持っている株数と得られる品物が比例しないので、小口投資家に有利で大口投資家に不利になります。また、現物であるがゆえに、現金配当のように柔軟には処分できず、これも大口に不利になるでしょう。いわゆる平等性の原則に反しているというわけです。
逆にいえば、これは小口投資家に与えられた有利な歪みであり、総合的に見て機関投資家よりも良いパフォーマンスを得るために重要なアノマリだともいえると思います。
さらに、決算を迎えると配当額分だけ株価は下がり、信用売りしているとその分を配当落調整金として支払うことになります。ところが、決算を迎えて株主優待が出されてもその分だけ株価は理論的には下がりますが、信用売していても「優待落ち調整金」というようなものは支払う必要がありません。これも一つのアノマリであり、だからこそ優待クロスを使いノーリスクで優待を取得することが可能になっています。これも小口の投資家だけが得られる有利な歪みですね。
株主優待は日本独特の制度であり、大口よりも小口の個人投資家が有利になる仕組みになっています。うまく活用したいものです。