FIRE: 投資でセミリタイアする九条日記

九条です。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア、FIREを実現しました。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、オプションなどなどを行うインデックス投資家で、リバタリアン。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛しています。

スマートベータとは何か? 『ウォール街のランダムウォーカー』12版再読 第11章(1)

時が過ぎれば人の考え方も変わるものです。昨今の流行は、スマートベータとリスクパリティ。これに対して、『ウォール街のランダムウォーカー』はどう評しているのでしょうか。今回は第11章、「スマートベータ」と「リスクパリティ」です。

投資理論のトレンド

投資理論がどのように進化してきたかを、ぼくなりにまとめると次のような流れになります。

  1. 企業価値分析とチャート分析の時代(アクティブファンド)
  2. インデックスへのパッシブ運用(インデックスファンド)
  3. スマートベータとリスクパリティ
  4. 行動ファイナンス

本書、『ウォール街のランダムウォーカー』でもこの流れに沿って章を進んでおり、今回はスマートベータとリスクパリティについてです。

 

インデックス投資は知っていて、行動ファイナンスについては聞いたことがあっても、意外とスマートベータとリスクパリティについては知らない人も多そうです。まずはその解説から。

新たなパッシブ運用、「スマートベータ」

銘柄を選定して売買タイミングを見極めるアクティブ運用に対して、株価指数(インデックス)を単に持ち続けるパッシブ運用は、次第に浸透し、大きな市民権を得てきました。過去のデータからも、インデックス投資のほうがパフォーマンスが良好だということが知られるにつれて、切った張ったのギャンブル的な投資から、株式インデックスを持ち続けるという手法が一般的になってきました。

 

ところが、「もっと優れたパッシブ運用がある」という考えに基づいて、昨今広がりを見せているのがスマートベータです。スマートベータは買ったら持ち続けるというパッシブ運用の1種です。ただし、単に市場平均を持つよりも有効な方法があるというわけです。

 

第9章で「ベータ」についての話がありました。これは市場平均のボラティリティをベータ=1として、さまざまな金融商品のリスクを表そうというものです。そして、リスクを増やせばリターンが増える——のとおり、高いベータの商品を持てばそれだけリターンが増えることを、式は表していました。

 

しかし実際には、ベータとリターンの関係はフラット。あれ? なぜリスクを取ったのにリターンが増えないのでしょうか。ここまでが第9章でした。

 

市場が公式通りに動かないのであれば、どこかに歪みがあるはず。その歪みを使えば、市場そのものに投資するよりも有利な手法になるのではないか? それがスマートベータの根幹の考え方です。

 

投資理論においてはリスクがたいへんに重要で、リスク(年間変動率の標準偏差)とリターン(年間収益率)は比例関係にあります。このとき、リスクあたりのリターンをシャープレシオと呼びます。リスクが20%でリターンが10%なら、シャープレシオは0.5というわけです。このシャープレシオが、ある投資手法が優れたものであるかの指標となります。

スマートベータを支持する人たちは、全ての銘柄を時価総額加重平均で組み入れたポートフォリオは、必ずしも「最適ポートフォリオ」とは言えないと考える。それよりももっとシャープレシオが高くなるような組み入れ方がありうるというのだ。

バリューファクター

時価総額加重平均によるインデックスに対し、それを上回るポートフォリオの作り方にはいくつかあります。その1つが、「バリュー」に注目する考え方です。9章で、「市場のリスクは、株式市場の変動要素だけではない」という話があり、だから株式市場の変動=ベータ では、正しくリスクを測り得ないという結論でした。

 

この株式市場全体の変動(=ベータ)以外の要素(ファクター)を使ってリスクを計算し、そのリスクを取ることで新たなリターンを得る。これがマルチファクターモデルです。

 

では、市場全体の変動以外の要素として、バリュー株はどうでしょうか? これはPERやPBRが低い銘柄のことを指します。こうしたバリュー株が持つ要素(ファクター)が、ベータとは異なるリスクならば、そのリスクを取ることで追加リターンが得られるはず。それが、バリューファクターを用いたスマートベータです。

 

果たして、多くの実証研究では、PERの高さとリターンに逆相関の傾向が見られました。つまり、高いPERの株はリターンが低く、低いPERはリターンが高かったのです。このバリューファクターの大きさを計測する標準的な手法は「HLM」と呼ばれます。これは、株価純資産倍率(PBR)が上位30%の銘柄の平均リターンと、下位30%の銘柄の平均リターンの差を表すものです。この数値は、1927年から2017年までの平均で、4.9%だったといいます。これだけの追加リターンが得られたということです。

 

また、バリュー効果が見込まれる下位30%のシャープレシオは0.34で、市場全体(ベータ・ファクター)と同水準だったといいます。

小型株ファクター

2つ目のファクターが、小型株です。長期でみると、時価総額の大きさとリターンが逆相関しているというものです。小さな会社ほどリターンが高いということです。

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こちらも実証研究で支持されています。ただし、著者は注意点も挙げています。小型株は大型株に対してリスクが高いということです。これは単なるボラティリティの大きさだけでなく、倒産して株式が紙くずになってしまうリスクも含んでいます。

小型株グループが高いリターンをもたらしたとしても、それは単に投資家が負担した小型株特有のリスクに対する当然の報酬なのかもしれない。(略)単に「生存者バイアス」の結果かもしれない。

ちなみにこの「サイズ・ファクター」を計測として、時価総額が小さい50%の銘柄の平均リターンから、大きい50%の銘柄の平均リターンを引くと、1927年から2017年までの平均で3.3%でした。下位50%のシャープレシオは0.23となっています。

モメンタムファクター

3つ目のファクターは、「モメンタムファクター」です。これは短期的には上昇する株はさらに上がり続け、下落する株はさらに下落するという傾向のことです。テクニカル分析派も似たようなことを言いますが、ここでいう短期とは1年くらいの長さをいいます。

 

そして長期でみると、今度はモメンタムではなくリバージョン(ミーンリバーサルとも)効果が認められます。平均への回帰です。行きすぎた株価が戻ってくるという傾向です。

 

なぜモメンタムが生まれるかは、行動ファイナンス的な理解と、情報が株価に反映されるまでの時間がかかるため、という理由が挙げられています。

 

過去12カ月間に最も高いリターンを上げた(株価が上昇した)上位30%の銘柄群と、最も低かった30%の銘柄群の平均リターンの差が、モメンタムファクターのエビデンスになります。上位を買い、下位を空売りする戦略の1927年から2017年までの差の平均は、9.2%。この戦略のシャープレシオは0.58だったといいます。「どちらの数値でみてもベータファクター(市場平均のリスク)を重視した運用よりも高い物になっている」と筆者はいっています。

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ボラティリティファクター

4つ目は「ボラティリティファクター」です。これは先に挙げた、高リスク(=高ベータ)銘柄を買っても、リスクに応じた追加リターンが得られないという現象を、逆に観たモノです。つまり、リスクの大小によってリターンに差がないのなら、低いリスクの銘柄を買えば、リスクあたりのリターン——シャープレシオは改善するのではないか? というものです。

 

こちらもエビデンスはその通りと示しており、意味のあるファクターになっているようです。そして、著者は、このボラティリティファクターの活用法として借入(信用売買)を勧めます。

例えば、非常にベータが低い銘柄群を集めて、ベータ=0.5のファンドを作る。このファンドはベータ=1.0の市場インデックスファンドと同じリターン、例えば10%をもたらすものとする。そこで、ベータ=0.5のファンドを信用でもう1単位購入することによって、ベータもリターンも2倍に高めることができる。

このように、レバレッジを使えば、リスクは同一で、リターンだけ2倍にできるわけです。

スマートベータの生かし方

このように、フレンチ=ファーマのアノマリとしても有名な、この4つのファクター、バリュー、サイズ、モメンタム、ボラティリティはエビデンス的にも有効なことが確認できました。ただし「現実の運用では、必ずしも想定通りの結果が得られるとは限らない」と筆者はいいます。

 

それは2つの銘柄間の差を得るためには、片方を買い、もう一方を売り(ショート)する必要があり、空売りにはコストがかかり、さらに実行不能なこともあるからです。さらに、エビデンスがあるとはいえ、市場の気まぐれである可能性もあるからです。

特定のファクターがもたらす超過リターンが、本源的なリスクを反映したものというよりは市場のきまぐれによるものだとすると、超過リターンは時間の経過とともに平準化されて消滅してしまうだろう。

実際、ファクター運用の超過リターンの存在が認められてからというもの、次第に超過リターンが小さくなる傾向があることも確認されているといいます。そして、バリュー、サイズ、モメンタム、ボラティリティに特化して数多くのETF、投信が作られてきましたが、25年以上におよるそれらの成績を見ると、「単一ファクターに特化して作られたスマートベータ・ファンドは、全体として決して超過リターンを生んでこなかったことがはっきり分かったのだ」としています。

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ではどうするか?

 

1つの手法は、複数のファクターファンドを組み合わせるものです。分散理論のところで、互いに相関のない銘柄を組み合わせると、リターンは平均になるがリスクは平均よりも減少する(つまりシャープレシオが改善する)ことをみました。

実際に計測してみると、果たしてファクター間の相関係数は低く、マイナスの場合もある。例えば、モメンタムファクターは、市場ベータ、バリュー、サイズ・ファクターのいずれに対しても、マイナスの相関を示している。

つまり、市場インデックス投資だとしても、モメンタムファクターを使ったファンドを加えると、リターンの向上が期待できるというわけです。

等金額加重ファンドの活用

これを実現するもっと簡単な方法が、等金額加重ファンドです。通常インデックス投資では、時価総額加重平均に基づいて銘柄を組み入れたファンドを使いますが、代わりに組み入れ各銘柄を同量だけ保有するファンドです。

 

例えば高配当ETFでは、SPYDが80の高配当銘柄を均等比率で組み込んでいます。S&P500なら、インベスコS&P500均等加重ETF(ティッカーRPS)が500銘柄を均等組み入れしています。

 

なぜ均等組み入れかというと、

時価総額加重平均ファンドに比べて、相対的に小型株とバリュー株のウエイトが大きくなる。反面、時価総額が大きく伸びているアマゾンやアルファベットなどのグロース銘柄のウエイトが低くなる。

からです。つまり、自動的にサイズファクターとバリューファクターを重視したポートフォリオになるというわけです。

 

最終的に、筆者はスマートベータの特徴を下記のように挙げています。

  • スマートベータは、銘柄選択勝負のアクティブ運用とは違う
  • 市場平均より高いリターンを上げたファクター特性を使うアクティブ運用
  • 通常のアクティブ運用よりも経費率が低いことが特徴
  • 単一ファクターに特化したスマートベータの成績はまちまち
  • マルチファクター運用は、相関係数の違いから好成績
  • マルチファクター運用のスマートベータは、経費率が低ければ通常のインデックス投資の代わりになる

ただし、「これらのファンドが生み出す超過リターンや優れたシャープレシオは、あくまで追加のリスクを取った結果、うまくいったにすぎない。時価総額加重平均のインデックスファンドとは異なる組み入れをすることが、すなわち異なった種類のリスクを取っていることにある」と書きます。

 

しかし、振り返るとこの12年間で、筆者のスマートベータに対する評価はかなり好転したといえるでしょう。2007年の第9版が手元にありますが、そこではスマートベータ手法の根幹となるファクターを「アノマリー」と呼んでおり、基本的に否定しています。

非合理的な株価形成や超過リターンが予測できるようなパターンがしばしば起こり、ある期間持続することもありえよう。
(略)しかし、その結果として、市場が情報を効率的に反映する能力の大きさを否定したり、どのような予測可能なパターンや事後的に報告されるアノマリー減少も長期間持続することはなく、また、それに基づいて投資家が確実に超過リターンを上げる方法などないのだという基本観を放棄することにはならないだろう。もし道端に100ドル札が落ちているととsちえも、長い間、誰もそれに気づかないということはあり得ないのだ。(『ウォール街のランダムウォーカー』第9版)

ここまで市場を信奉していた筆者ですが、ベータが必ずしも市場リスクを正確に表していないこと、また12年にわたってバリュー、サイズ、モメンタム、ボラティリティといったファクターが超過リターンの源泉になることが認められたというエビデンスが、筆者の主張を大分和らげたのだと思います。

 

昨今はアノマリーという言葉も、市場の歪みという意味ではなく、ベータとは異なるファクターであるという意味で使われることが増えてきましたし。

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さて、長くなったので「リスクパリティ」については次回に。

 

第11章(2)リスクパリティとは?導師も認めるレバレッジ

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