債券セグメントの一部としてモーゲージ証券に投資するETF「iシェアーズ米国MBS」(MBB)を、ポートフォリオに組み込んでいます。このモーゲージ証券とはどのようなもので、どういった特徴があるのでしょうか。
- 住宅ローンを証券化したのがモーゲージ証券
- 債券の特性を決める、スプレッドとデュレーション
- モーゲージ証券は、繰り上げ返済される
- オプション調整後スプレッドの意味
- リスク・リターンは高評価なモーゲージ証券
- リターンは国債を上回る
住宅ローンを証券化したのがモーゲージ証券
モーゲージ証券とはMBS=Mortgage Backed Securitiesのことで、モーゲージとは住宅ローンのことです。個人が家を買うときに住宅ローンを組みますが、これを引き受けた銀行は証券化して、投資家に販売します。これがモーゲージ証券です。
住宅ローンというと、サブプライムのように支払いが遅延したり行われなくなるようなリスクを想像しますが、一般にモーゲージ証券といった場合、米国では連邦政府抵当金庫(ジニーメイ)、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅金融抵当金庫(フレディマック)といった政府系金融機関が元利金の支払を保証しています。
実質的に政府保証が付いていることになるので、国債に近い、信用力の高い債券となります。
債券の特性を決める、スプレッドとデュレーション
モーゲージ証券への投資を考えた場合、考慮しなくてはいけないのは2つあります。スプレッドとデュレーションです。
債券系の資産は投資に対して利息や分配金が支払われますが、ここには貸出先の破綻や支払い遅延(デフォルト)といったリスクがあります。リスクゼロの投資先として国債を考えた場合、その国債に対してどのくらい利回りが上乗せされているかがスプレッドです。破綻リスクが大きいほど、スプレッドが大きくなります。
下記のグラフでいうと、青い部分がリスクフリーの国債の利回り、緑の部分は上乗せされた信用スプレッドです。
もう1つのデュレーションとは、ざっくりその債券の元本償還までの期間を年数で表したものです。債券の価格は、金利変動に応じて変わることはよく知られています。金利が下がると債券価格は上がり、金利が上がると債券は下がるという関係です。
このとき、デュレーションが長いほど金利変化に敏感になります。だいたい、金利が1%変わると、デュレーションの年数分%だけ債券価格も動きます。デュレーションが7年なら、金利1%上昇で債券価格は7%の低下となります。図にするとこんな感じです。
モーゲージ証券は、繰り上げ返済される
この前提で、モーゲージ証券の信用スプレッドとデュレーションを見てみます。まず、MBSのスプレッドはオプション調整後(OAS=Option-Adjusted Spread)で48.48ベーシスポイント、つまり国債利回りに対して+0.4848%となっています。国債を買うよりも、利回りが約0.5%ほど高いということです。
実行デュレーションは2.44年。つまり金利の1%の上下で、2.44%の価格変動があり得るということになります。
ただし、他の債券とモーゲージ証券がちょっと違うのが、繰り上げ償還があるということです。普通の債券は、満期が決まっていて、そこまで利息は払われ続けます。ところが、住宅ローンを思い出してもらうと分かる通り、利用者は繰り上げ返済を行って早期に元本をなくてしまう可能性があるのです。これはつまり、デュレーションが減少する可能性を指します。
ではどんなときに繰り上げ返済をするのでしょうか? そう。金利が低下して、より条件のいい住宅ローンに乗り換えるときです。つまり、金利が低下するときにはモーゲージ証券はデュレーションが小さくなるリスクがあるのです。
金利低下は債券価格の上昇です。しかもデュレーションが大きいほど、上昇幅は大きくなります。ところがモーゲージ証券の場合、そのときデュレーションが小さくなる傾向にあるのです。一方で、金利上昇局面では、債券価格が下落しますが、借り換えは起こらないためにデュレーションは長いままです。これが、モーゲージ証券が金利変動に弱いと言われる理由です。
オプション調整後スプレッドの意味
先程信用スプレッドのところで、オプション調整後(OAS=Option-Adjusted Spread)と書きました。これはどういうことでしょうか。
モーゲージ証券では、金利状況によって借り手がそのまま継続するか、別の住宅ローンに借り換えて早期償還するかを選ぶことができます。これは、オプションでいうコールオプションを持っているということです。コールオプションには当然プレミアムが発生します。プレミアムの分だけ、金利が高くなっているということですね。
このプレミアムを加味したスプレッドを、オプション調整後スプレッド(OAS=Option-Adjusted Spread)というわけです。
繰上償還ありの債券のことを、このコールオプションが付いているという意味で、コーラブル債ともいいます。
リスク・リターンは高評価なモーゲージ証券
では具体的にモーゲージ証券(MBS)はどんなリターン特性を持っているのでしょうか? 比較対象として、中期米国債のETF(IEF)と、投資適格社債(LQD)と比べてみましょう。
下記はPortfolio Visualizerで2008年から19年までを見たものです。分配金の再投資はしないものです。
過去10年間、金利は継続的に低下傾向にあったので、デュレーションが大きいほど価格は上がりました。MBBは現時点で2.44年、IEFは7.53年、LQDは9.05年(それぞれ20年1月時点)ですので、MBBは比較するとデュレーションが短く、それが価格の年平均リターン(CAGR)の低さに現れています。
しかし注目すべきはリスクとリターンの状況です。リスクに対するリターンを表すシャープレシオは唯一1.0を超えて1.07です。さらに、下落方向のみのリスクに対するリターンを表すソルティノレシオは2を超えて、2.06となっています。
また、LQDの信用スプレッドは経済状況を反映して変化するので、株価が下がるような経済状況では拡大します。これは金利上昇と同じ意味なので、債券価格は下落します。つまり、比較的、株価との連動率が高いわけです。そのためUS市場との相関も、0.28となっています。
一方、政府保証のある国債(IEF)やモーゲージ証券(MBB)は、株式市場とは逆相関となっています。
リターンは国債を上回る
分配金を見てみましょう。モーゲージ証券は政府保証がつくため、信用スプレッドは国債と同じでほぼないとみなせますが、コールオプション分だけプラスのスプレッドが尽きます。
下記は、同じくモーゲージ証券(青)、国債(IEF、赤)、投資適格社債(LQD、黄色)の分配金の推移です。信用スプレッドを取っている社債が大きいのはもちろんですが、多くの場合で国債を上回っているのが分かります。
三菱UFJ信託銀行は、過去のモーゲージ証券に関するレポートで、次のように書いています。
過去26 年、GNMA(ジニーメイ)のカレントクーポン(新発物)のスプレッドは国債10 年物に対しほぼ+50~150bpで推移している。この高いスプレッドを享受できるため、1986年、1993年、2002年の大きな借換えブームが生じた年とロシア危機によって市場の流動性が極端に低下した1998年を除くと、モーゲージ債のパ フォーマンスは国債を大きく上回る場合が多い。
また、モーゲージ証券のスプレッドがオプション価値であることを考えると、面白いことも見えてきます。オプションは、ボラティリティが高まるとプレミアムが上昇します。いわゆるベガです。そのため、金利の変動が激しいとオプションプレミアムが上昇し、OASの拡大、つまり債券価格の下落を招きます。
金利の絶対値だけでなく、変動具合が価格に影響するのですから、モーゲージ証券はなかなかに面白い商品です。
ちなみに、総合的な債券ETFであるAGGやBNDにも、モーゲージ証券は含まれています。AGGで約26%、BNDで21%がそれに当たります。コーラブル債ということで、特性はちょっと複雑ですが、国債よりもリターンは大きく、AGGやBNDに4分の1ほど入っていることを見ても、メジャーな債券だといえると思います。