FIRE、 つまり早期リタイアの実現とは、その後の人生を生きられるだけの資産を用意する必要があります。それはだいたい年間必要生活費の20倍から25倍程度です。これだけの資産を貯めるには、合理的な投資だけでは間に合いません。最も確実に資産を構築する手法は、しっかりと貯蓄を行うことです。
貯蓄額ではなく貯蓄率が重要
貯蓄は、「◯◯万円貯めている」などという表現を聞くことが多いのですが、FIREを目指す場合、絶対額ではなく収入の何パーセントを貯蓄に回しているかのほうが大事です。
収入から、貯蓄した残りが生活費ですね。つまり、貯蓄率が高いということは収入に対して生活費が少ないことと同じです。だから、収入1000万円の人が毎月3万円貯金するのと、収入400万円の人が毎月3万円貯金するのは、意味が違ってきます。1000万の人の貯蓄率は3.6%、400万の人は9%。これを30年続けると、1080万円になりますが、
- 1000万の人 生活費964万円 資産は生活費1.12年分
- 400万の人 生活費364万円 資産は生活費2.96年分
と3倍近い差が付いてしまうのです。収入が大きい人は、生活費も大きいのでそれだけ多くの貯蓄が必要ですし、貯蓄率が低くなるほど生活費も大きくなるので、その分余計に貯める必要があるわけです。
運用を行わない場合の方程式
生活費の何倍の資産があるかを、FI(Financial Independence)倍率と呼びましょう、これは、運用を行わないとすると、貯蓄率だけに連動することが分かります。式にすると、こうなります。
FI倍率 = 総資産 / 生活費
= 収入 x 貯蓄率 x 年数 / 収入 x (1 − 貯蓄率)
= 貯蓄率 x 年数 / (1 − 貯蓄率)
この式を見ると、FI倍率は、貯蓄率と年数に比例し、さらに(1 − 貯蓄率)に反比例します。つまり、貯蓄率をアップさせると、ダブルで効果があるということになります。これがよく分かるように、生活費の20倍の資産を構築するために、何年かかるかを、貯蓄率別のグラフにしてみました(運用は考慮せず)。
貯蓄率10%の前と後で、カーブがけっこう違っていることが分かります。具体的な数値でいうと、貯蓄率5%の場合、生活費の20年分を貯めるのに320年かかり、貯蓄率10%だと180年、貯蓄率が20%だと80年で貯まります。当然、貯蓄率50%ならば20年です。
よりリアリティのある、貯蓄率5%〜20%の範囲でグラフにすると、こんな感じ。貯蓄率が上がることで、その分生活費も減りますが、そのせいでカーブが曲がります。
運用を加味してみる
「20年分の資産を貯めるなんて不可能じゃん」と感じますよね。これが貯蓄だけでなんとかしようと思ったときの実態です。しかし、ここに資産運用を組み合わせると、光景が変わってきます。
運用なしの青線のときには、貯蓄率10%でも、生活費の20倍を貯めるのに180年かかっていましたが、1%で運用(橙線)するだけで103年に、4%(緑線)なら53年、6%(黄線)なら42年、もし10%運用(赤線)できたら31年まで短縮することが分かります*1。
運用した場合だけを取り出して、もう少し詳細に見てみます。もし10%運用できるなら貯蓄率が3%でも必要年数は50年を切ります。6%なら50年を切るのに貯蓄率は7%以上必要、4%なら12%、運用1%なら24%が必要です。
就職後20年でセミリタイア(FIRE)しようとしたらどうでしょうか。その場合、必要な貯蓄率は次のようになります。
- 1%運用 貯蓄率 48%
- 4%運用 貯蓄率 40%
- 6%運用 貯蓄率 35%
- 10%運用 貯蓄率 26%
※ちなみにこのグラフを作るには、FV関数で積み立て複利運用した場合の将来価値を計算し、それが生活費の20倍になる年数を導くという結構面倒な計算をしました。全部数式で組み上げられる数学力がなく、ゴールシークを使って計算しています。
収入の35%を投資に回せば、6%運用で20年後にはFIRE
なかなか心強い結果が出ました。もし、収入の35%を投資に回せば、6%運用することで20年後にはFIREできる金額(生活費の20年分)がたまるということです。
さてこれは机上の計算でしたが、実際はどうでしょうか? ぼくの記録が残っている2006年からの13年分について、毎年の貯蓄率と、その年ごとのFI倍率を計算してみました。
FI倍率(黄線)は順調に上昇し、2019年は20倍を超えています。実際には、これは保険、年金、401kなどを入れていないので、それらを入れるとだいたい23倍〜24倍になります。この数字まで来たことが、FIRE=セミリタイアを決意した理由です*2。
注目の貯蓄率(赤線、右軸)は、けっこうすごいことになっていますね。2000年代初期は25%程度を投資に回していますし、2010年あたりは50%近くまで行っています。そして後半は、どんどん貯蓄率は減っていますが、ベースとなる資産規模が拡大してきているためFI倍率は安定して伸びています。ちなみに、セミリタイアを実行した2018年秋以降は、貯蓄率はゼロからマイナス(取り崩し)となっています。
重要な貯蓄率。そして注意点
FIRE=セミリタイアに向けては、運用の巧拙も大事ではありますが、最も重要で確実なパラメータは「貯蓄率」であることが分かりました。実際、ぼくの場合も、振り返って意外なほど、収入のうちの多くを投資に回していました。
1つ注意点としては、この計算モデルは収入がずっと一定である前提で計算していることです。実際は、収入が徐々に増えていくと思います。これは次のことを意味します。
- 若いときの貯蓄絶対額が多いほうが、複利効果が働き、有利
- 年取ったときの貯蓄絶対額が多いほうが、生活費が少なくなり、有利
貯蓄率が一定だと、収入の少ない若いうちは、貯蓄絶対額が小さくなるので、モデル計算よりも不利になります。また年を重ねて収入が増えていった時、貯蓄率は一定のままでも、生活費の絶対額が増えてしまうので、モデルよりも必要な資産が多くなってしまいます。収入の変化は人それぞれなので、計算のしようがありませんが、この点は注意です。