昨晩、ラジオNIKKEIの「北野誠のトコトン投資やりまっせ。」に出演してきました。前回から1年半ぶり2回目の出演です。
コロナ禍真っ最中だった前回
思い返すと、前回の出演は3月18日。コロナショックで株価がまさに底をつけた瞬間でした。出演の日を境に、S&P500も日経平均も上昇を始め、S&P500で86%上昇、日経平均は67%の上昇です。多くの人にとってたいへん恵まれた1年半だったといえるのではないでしょうか。
番組内でのやりとりの補足
今回の番組内では、前回出演後の投資成績、投資対象や手法の変化、世界経済の先行き、現在のポートフォリオについてなどのやりとりがありました。話しきれなかったことについて、少し補足したいと思います。
まず投資成績ですが、19年3月末から21年7月末までの期間で、総資産は89%の増加となりました。先ほど「S&P500が86%増加」と書いたので、大差ないと思われたかもしれませんが、こちらは3月18日の底からの上昇。アップル・トゥ・アップルで比較すると、S&P500は69%増です。
各セグメントのパフォーマンスを、入出金を加味して計算すると、次のようになりました。
- 短期運用(オルタナティブ) 23%増
- 金・仮想通貨(ヘッジ) 270%増
- 太陽光・不動産(リアル) 41%増(※評価額)
- 株式 78%増(S&P500は+69%)
- 債券 19%増
株式でS&P500に勝ったことと、現金を含めた総資産ベースでも上回ったことから、まぁ悪くない成績だったかなと思っています。ちなみに、マルチアセットポートフォリオだけに、厳密な計算はしていませんがボラティリティ(リスク)もS&P500を下回っていると思われます。
グラフ化すると次のような感じ。同様に入出金を加味した純粋な投資成績としての絶対金額増減は、最も増えたのが株式で、続いて金・仮想通貨。そしてオルタナティブの短期運用という結果でした。
コロナ後の世界経済
さて、日本はコロナ第5波まっただ中で、過去最大の危機という感じですが、投資家の間ではコロナ後を見据えた見通しをどう捉えるかが話題です。米国の雇用統計(明日ですね)も大注目ですし、テーパリングの開始時期、利上げの見込みがどうなるか? あたりが、経済の先行きを占う上で重要になるでしょうか。
ここのロジックは次の通りです。現在の株高は、(1)給付金の大量支給による消費の増大(飲食、旅行を除くけど)で企業業績が急回復と、(2)金融緩和による株価の下支えの2本柱で成り立っています。
このうち、(2)の金融緩和が引き締め方向に動くと、株価へは悪影響だというわけです。量的緩和の減速であるテーパリングや、政策金利の引き上げがそれにあたります。では、どういうときにFRBは引き締め方向に動くかというと、経済の復調によりインフレ懸念が出てきたときです。FRBは「一時的な2%のインフレは容認し、長期的に平均2%を目標とする」としていますが、これは2%平均が見えたら利上げするよ、というメッセージでもあります。
米国では既に各所でインフレの兆候が見えていますが、やはり最大の注目点は雇用統計。コロナで大きく減った雇用ですが、まだそこは半分くらいしか戻っておらず完全回復していないからです。
というわけで、みんなFRBがいつ引き締め方向に入るかを気にしながら、それを先回りしようとしているわけですが、これはつまり経済が好調な状況に入るということでもあります。飲食や旅行を除けば、企業業績は絶好調。企業の利益が現在の株高を支えています。そして、(1)の給付金については、すべてが使われてしまったわけではなく、まだまだ銀行口座に眠っている。コロナが落ち着くにつれて、これらが消費に染み出していけば、企業業績はさらによくなる可能性が高いわけです。
こうした見立てから、実は1〜2年の短期ではまだまだ経済は強く、株価も堅調に推移すると、ぼくは見ています。
インフレ懸念
一方で、気になるのはインフレです。米国の場合はインフレが進むといっても2%あたりでコントロールされるでしょうし、それは経済にとって適切な水準です。ところが日本はどうでしょう。
コロナ下の経済において、日本は米国の1年程度後ろを走っていると言われています。ワクチン接種の遅れが主要因ですが、それに伴い経済の回復も1年程度遅れる見通しです。となると、1年遅れて米国と似たような状況が日本にも訪れる。つまり、インフレ懸念が起きてこないか? ということです。
ちょうど名古屋大学の面白い研究結果がニュースになっていました。
大量の貨幣供給と国債発行でも、長期金利がゼロ水準に留まる下で物価が安定する均衡は継続しやすい性質を有するとする。しかし何らかのきっかけで、金利がゼロ水準から離陸するや否や、物価が一挙に数倍に高騰する。その際に財政規律を回復することを速やかに宣言しないと、一度きりの物価高騰が「ハイパーインフレ」に転じてしまう危険性があるという。
この研究では、今後の4つのシナリオを描いています。
- ゼロ金利が継続し、大量発行される国債は吸収され続ける
- ゼロ金利中に、統合政府債務が圧縮される
- 金利がゼロから離陸し、貨幣需要が急激に縮小、金利は数%までジャンプし、物価は一挙に数倍に高騰する。ただし財政規律の回復でハイパーインフレは回避
- (3)の元、財政規律の失敗でハイパーインフレに
(1)はまさにMMTなわけです。(2)は国債が増え続ける状況でプライマリーバランスの黒字化も見通せない中、なかなか難しい。(3)はあり得るシナリオ、(4)は壊滅的なシナリオとなります。
まぁ昔からMMTへの反論としてよくある、政府が収支均衡させないとインフレになるよ、という話なのですが、何をやってもインフレにならない現状は、これが均衡状態というわけではなく、何かのきっかけでこれが大変動につながるということを示したのが大事なところ。
というわけで、日本に住むぼくらとしては、物価数倍くらいのインフレの可能性は考慮に置いておかなくてはいけないわけです。インフレ時に最悪の資産は現金。そして良い資産は株式や現物で、最良の資産は借金です。
こんな理由もあって、ポートフォリオの3分の1程度を現物資産とし、また総資産に匹敵する規模の借り入れを起こしています。しかも借り入れの半分くらいは固定金利ですし、もしハイパーインフレが来たら借金はほぼチャラになるという目論みです。ちょうどデフレ期に、最高の資産は現金だったことの裏返しですね。
と、番組の中では全然触れられませんでしたが、こんなことを考えてポートフォリオの構築を行っているわけです。