1992年刊行の「FIREのバイブル」とも呼ばれるのが、この『お金か人生か』です。FIREムーブメントを引き起こした本ともいわれます。日本での発売は2021年5月。おくればせながら、読んでみました。
王道の話が多いが、それは原典だから
本書の目次は下記のとおりで、実は目新しいことは書いてありません。92年刊行なので、FIREの概念自体がこの本を参考に生まれたといってよく、そういう意味では定番、王道の話が盛りだくさんです。
「生命エネルギー」と書いてあるのは、人生の時間のことです。年収を労働時間で割って時給を出すのは、ライフプラン系の本によくある話ですが、本書ではそのほかさまざまな仕事に付随する時間とお金を計算するよういいます。「通勤の時間」のほか、「仕事で着る服」「仕事が原因で増える食事」「ストレス解消のための時間とお金」「逃避のための娯楽」「仕事の疲れを癒やすための休暇」「仕事が原因の病気」などが入ります。
これらの時間と金額を合計して、掛かっている費用は給料から差し引き、仕事のための時間を労働時間に足します。例えば、年収1000万円でも、仕事絡みで200万円使っているなら差し引いて800万円。会社で働いている労働時間は1日8時間でも、仕事に関係する時間が4時間あるなら12時間。このようにして計算すると、自分の時給のあまりの少なさに驚くはずです。
もし時給が1000円だとしたら、1万円のものを買うというのは、人生の時間=生命エネルギー10時間分を費やすということです。この本質的な時給を計算すると、「今買おうとしているこれは、自分の寿命10時間と交換する価値があるだろうか?」と考えるはずです。
4つのFI
本書は冒頭に「4つのFI」として、4つの経済に関する考え方を示しています。
- 経済的理解 Finacial Intelligence
- 経済的調和 Finacial Integrity
- 経済的自立 Finacial Independent
- 経済的相互依存 Finacial Interdependence
この中で、経済的自立はFIREの頭2文字として有名です。ほかはどうでしょうか。
経済的理解は、今でいうマネーリテラシーに近いもので、自分の稼ぐお金、使うお金を知り、そしてお金とはいったい何かを理解することを指します。
経済的調和とは、「お金はあればあるだけよい」という考え方からの脱却です。
あなたが満足度曲線のピークにいられるだけのお金とモノの量——そして何が余分でいらないものか——を知るということです。
そして経済的相互依存とは、「お互いのために何かをやる、お互いから何かを受け取る、お互い協力して何かを作る」ことを意味します。これは私たちの人生を豊かにしてくれるものです。そして考えれば考えるほど、人は最終的にこれを目指すものだとも思います。
FIREではなくFIerである
本書はFIREのオリジンではありますが、実は「FI」については書いてあるものの、「RE」については目的とはしていません。というよりも、いわゆる「リタイア」については否定的です。
リタイアとは仕事を辞めることではありません。稼ぐための仕事を辞めることができるというだけです。私たちは誰もが役に立ちたい、自分の貢献を他人に認めてもらいたいと思っています。もし雇われ仕事だけが貢献できる唯一の方法であれば、いったい誰がリタイアなどしたいでしょう。
そして、先に挙げた「4つのFI」に到達した人を「FIer」と呼んでいます。
必ずしも、早期退職は必須ではない。それがFIREムーブメントの元になった本の1つである本書は説いています。つまり、遊んで暮らすためのFIREではなく、雇われ仕事でやりたくもない仕事をやることから脱却し、自分の価値に見合った仕事をすることをFIerと読んでいます。
全く同感です。これからFIREではなく、FIerと自称したいと思います。